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「祥ちゃん、明日は?」
「あー、仕事の後飲み行きたいなぁ」
「そっか、てかさ、ずっと思ってたんだけど、祥ちゃん最早家に住んじゃえば?」
「え?そーゆーの嫌だろ?だって潤、遊びに行けないよ?」
「あー…ははは…」
バレてやがる。
「まぁでもいっか。潤が気にしないならね。てか俺なんかヒモっぽいね」
「まぁいいけどね、それはそれで」
しかし祥ちゃんと出会ってからはちょっとだけまともになったのは事実だし。
「信じないかもしんないけど、俺祥ちゃんと出会ってからあんま遊んでないからね」
「あ、そう」
ちょっと嘘吐いてるけど。
「少しくらいは嘘吐いてない?」
「ふ、はい、うん。吐いてる」
「まぁでもね、吐き癖の方はだいぶマシになったね」
「あー、そうかも」
「最初の頃はマジどうしようかと思ったからね」
「すんません…」
「まぁ、こんな俺でも人の役に立ったね」
「目標達成だね」
「潤もな」
まだまだお互いに課題は多いけども。
「さぁて、夕飯何食いたい?」
「なんでもいい。祥ちゃんの作るのなら」
「じゃぁさばの味噌煮にするよ?」
「それは嫌い」
こうやって笑い合っているのに。
「潤の上司は大変だなぁ。顔拝んでやりたいよ」
祥ちゃんは知らない。
知っていても、知らない。
「やめときな。喧嘩になるよ」
「そうかな?俺案外気が合うんじゃないかなって思うよ。まぁでも…」
急に、凄く真剣な顔をしてふと、古傷をなぞるように俺の腹を擦ってくる。
もう痕なんて目立たないけど。
「無理はすんなよ」
祥ちゃんはどうやら。
「…はーい」
あの日のことはわりと気にしているらしい。
「珍しく聞き分けがいいですね」
「祥ちゃん」
「なんだよ」
「なんか、やっぱりごめん」
結局俺は話してない。
結局俺は、嘘を吐いている気がする。
「別に」
「だって、普通」
「普通じゃないじゃん、俺」
「うーん?」
まぁ、そうですけど。
「潤、」
「はい、すみません」
反射的に謝ると、祥ちゃんは驚いた顔をしてから、爆笑した。
「なんだよそれ!
潤強ぇマジ強ぇ」
「え?なにが」
「芯があるねぇ。鉛筆みたいだ。今時小学生でも使わないけど…綺麗でいいね」
染々と言ってコーヒーを飲む祥ちゃんが正直わからない。
「え、全然わからん」
「トラウマも芯のひとつだな。それがあるから強いんだなぁ潤は」
「なんだそれ…。
鉛筆はすぐ折れますよ」
「それも味だよ」
「深いねー。しかしそれ俺が?」
「うんそう」
わからんなぁ。
「今日はロールキャベツにしよう。決めた。それとワインを買ってこよ」
「全然話に関連性がない」
「そこはご愛嬌。散歩がてら買い物に行こうか」
まぁ好きだからいいけどさ。
「揚げ出し豆腐は?」
「洋と和の融合だね。いーよ、作ったるわ」
いいんだろうか。
なんか夢のような日々。
「祥ちゃんのそーゆーとこいいよね」
「優しいだろ」
「うん、自分で言うあたりとかホント殴りたい」
「ははー、嫌だ。潤のは死ぬから嫌だ」
あぁ、もう。
「そうだね、もう死にたくないし、殺したくないわ」
「平和が一番」
ホントその通りだ。
じゃぁ、もう一個だけ告白しよう。
軽く外着に着替えて二人で家を出る。気が付けば、夕日が落ちていた。
ゆっくりと回り道をしながら歩く。他愛のない会話をしながら。
夕日が赤い。血のように。
「祥ちゃん」
「んー?」
「平和的じゃない話だけど俺さ、人殺したの、母さんが初めてだった」
シャツ一枚でもじっとりと暑い。
祥ちゃんが息を呑んだのがわかった。
「高校生のとき。
帰ったら、手遅れだった」
でも本当はわかってた。
「ただ、わかってた。
そこに睡眠薬と抗不安剤と酒を置いておけば勝手にそうなることくらい、わかってたんだ」
薬も勝手に少し強いのに変えた。
「楽になりたかった。けどやっぱり、楽にさせたかった。ただ死に際くらいは苦しませたかった」
「…潤」
「ドラッグ中毒者は大体そうやって」
「潤、」
家から少し歩いた駐車場。
あまり誰も通らないけど。
ちょっと、後ろからキツめに抱き締めるのは反則じゃないかな。
「祥ちゃん…」
「潤の話は好きだけど、潤がそんな顔するのは好きじゃない」
なんなんだよ。
別に今更。
「泣くなよ」
「泣けねぇよ」
「すぐ泣くよ潤は」
「泣いてないよ」
本当に泣いてないけど、今度こそ。
「耐えんな面倒臭い」
「あぁ…」
そうかもね。
「祥ちゃん」
「なんだよ」
「反則。暑い」
「なんだよ、遊ぶときこんくらいしてんだろ、まさか」
「もっとえげつねぇよ。だから祥ちゃんとはしないの」
「あっそうですか」
そう言うと余計に強く抱き締めてきて。
そーゆー問題じゃねぇよ。
「痛い」
「耐えろ」
「なにそれ」
「潤」
「なに」
「あー、なんて言おう」
「どうしたの祥ちゃん」
「取り敢えず大切」
あぁ、そうですか。
「取り敢えずありがとう」
漸く解放された。もうまったく。
「ふっ」
笑うしかない。
楽しいから。
「バカみたい」
「ホントだな」
「早く行こう」
「はいはい」
俺だってそう。
恋人とか友人とか仲間とか男とか女とかじゃなく、もう普通に人として、そう、人として好きなんだ。
凄く大切にしたいんだ、彼を。
だから、壊したくないんだ。自分も彼も。
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