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 昼休み、久しぶりに3人揃ってお昼ご飯を食べた。
 岸本先輩もなんだかんだで嬉しそうだった。

「あれからどう?」
「あれから、ですか?」
「特になんもない?」
「はい、私は全然。先輩も、治ってよかったですね」
「本当、丈夫だよなぁ、浦賀は」
「まぁね」

 空をぼんやり見ながらタバコを吸う姿。久しぶりに見た。

「外の空気はやっぱりいいわ。病院は窮屈だよ」

 そう言ってタバコをケータイ灰皿に捨て、伸びをする姿は、“羽根を伸ばす”と言う言葉がぴったりだった。

「そう言えばさ、なんで図書室なの?」
「あれ?知りませんでしたっけ?図書委員なんですよ、私」
「え、そうなの?」
「はい」
「まぁ確かに…ぽいね」
「私はでも、そんなに本は知らないので、大体兄に教わって読んでます」
「へぇ…こう言っちゃなんだが意外だなぁ」

 あ、そっか。
 浦賀先輩の中での兄は、マリちゃんか。

「あ、えっと…一番上のお兄ちゃんです」
「あ、あの人は二番目なんだね」
「そうそう」
「小日向さん、末っ子?」
「まぁ、はい」
「意外だなぁ…」
「そう?俺わかる気がするよ。しっかりしてるようでしてないってか、なんだろ、危なっかしいって言うか。目を離すとなんかイタズラしてそうと言うか」

 そうなのかな?

 なんだか楽しそうに言う浦賀先輩を、岸本先輩が凄く暖かい目で見ていた。

「俺も言ったら本入れてくれる?」
「あー、岸本のはやめときなよ。何語だかわかんなかったりするから」
「日本語訳のだったらいい?」
「まぁ、そうですねぇ」

 取り敢えずメモ帳を渡した。二人はメモを覗き込んでいる。

「これ、お兄さんが?」
「あ、はい」
「へぇー。面白いねお兄さん。意外と女性的な感性な方だ」
「字が眠そう」
「あー…、確か酔っ払ってましたよ、これ書いてるとき」
「酔っ払っててこのラインナップ…てか…ん?なんか…」

 浦賀先輩はメモ帳を何枚かめくり始めた。

「何?なんか、セリフだか詩だか書いてあるけど」
「あ、そう言えば昨日夜中に映画見てメンタルやられたって言ってましたよ」
「変な人。
“さようなら お別れ
また会う日まで”
“最後から二番目の歌が聞こえたら映画館を出てしまうの
そしたら映画は永遠に続くでしょ?”
“見るべきものがある?
私はもう見たのよ
暗闇も
フラッシュのような光りも
すべてを見たいま 見るべきものは何もない”
“時間をください
涙を流すだけの
心臓の鼓動が乱れるだけの”
だって。これ何?」
「…セルマ病?」

 何故か、私が凄く恥ずかしくなってきた。

「なんか恥ずかしくなってきた」
「なんで?俺いいと思うよ」
「こんなお兄さんには…」

 岸本先輩は少しだけ何かを書いた。すると浦賀先輩が、「貸して貸して」とか言って、メモ帳を奪ってボールペンを取り出した。

 二人でメモ帳を見て、顔を見合わせ笑いあっていた。そして、メモ帳を返された。

 チャイムが鳴った。あと2時間。けど今日は、

「私、いまから図書室に行こうかと思ってたんで、これ出してきます」
「君、いつの間にかサボる子になったの?」
「いえ。自習の時と選択授業の時だけです。次の選択取ってないんで、一時間自習みたいなもんなんです」
「じゃぁ俺も行くー」
「俺は次進路相談だから戻るわ」

 私たちはそれぞれ、階段で別れた。

 図書室に向かうと浦賀先輩が、「あ、そうだ。ちと先に行ってて」と言ったので、私は先に図書室に向かった。
 図書室に着くと昨日の先輩が、座って本を読んでいた。

「あら、小夜ちゃんこんにちわ」
「こんにちわー。栗田先生、これ、本リストです」

 栗田先生にメモ帳を渡すと、先生はメモ帳を見て、くすくすと笑った。

「これお兄さん?」
「お兄さんと、先輩方です。眠そうな字がお兄さんです」
「面白いー。私が作ったお兄さんのリストとちょっと違った。さっそく発注してみようかなー」

 栗田先生は楽しそうに言った。それを見て先輩は、「どれ?」と、席を立ってこっちに来た。

「『斜陽』とかいいわね。あー、『刺青』も好きよ。前回のとはタイプが全然違う」
「私がカムパネルラとジョバンニがダメだ!って言ったからですかね」
「暗い話が多い…。
 というかこれは…。お兄さん、『ダンサーインザダーク』を観ていたの?」
「あー、そう言えばそんなタイトルでした。酔っ払って夜中に観てました」
「その精神状態で女性作家のファンタジー系も入れてきてるのがちょっと怖い」
「え?」
「これは生きてる人なんだけどねー…。お兄さん、ちょっと元気ないのかな…?」
「いつも基本的にネクラです」

 顔も知らない人に心配されるみっちゃん、凄い。

「へぇ、ネクラ兄貴の薦める本、俺も読んでみたいな。なのにあんたは真っ直ぐなんだね」
「そうですか?」
「まぁ、兄弟って似ないよね」

 そう言う先輩が、何故か少しだけ寂しそうに見えた気がした。

「そう言えばさ、あんた名前聞いてなかったね。なんて言うの?」
「小日向小夜です」
「小さい夜?」
「そうです」
「ほー、よろしく。俺は…」

 そう先輩が言ったときだった。図書室のドアが開いた。浦賀先輩だった。
 振り向いた先輩。互いに目を合わせ、見つめ合った。

「…あっ」
「…一喜《かずき》?」

 どうやら、知り合いらしい。

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