12
話の内容はわりと衝撃的だった。
そして私はなんとなくな食い違いを、わかっている気がした。それが浦賀先輩と一喜先輩の微妙な蟠りになっているのだとしたら。
ただ、そこをもしもお互いがわかってしまったとしたらそれは多分、どちらにも結局はマイナスになってしまうことは明白だった。
多分岸本先輩は全てを知っているんだ。全てを知っていて板挟みになった結果、『沈黙』を貫いたんだ。
けどそれが最早、限界まで来ている。真実が見え隠れして浦賀先輩と一喜先輩が薄々それに気付き始めてしまったから。
なんだかんだで放課後。私はそのままサボり続け、一喜先輩と一緒に帰ることにした。
「一喜先輩は、」
「ん?」
「浦賀先輩と、仲直りと言うか…仲良くなりたいんですか?」
「…戻れるなら戻りたいけど、どうかな。俺、多分、やめた方がいい気がするんだ」
「どうして?」
「俺だけじゃない人のために」
この人ってなんか。
「一喜先輩は、なんか毎回そんなんですね、きっと。
カツアゲの濡れ衣着せられたり、今回だって自分より岸本先輩と浦賀先輩を優先させたり」
「うん、言われてみればそうかも」
「面倒見が良いタイプのお兄ちゃんが浦賀先輩で、お人好しタイプが一喜先輩なのかな」
私がそう言うと一喜先輩は楽しそうに笑った。
「それ、他のやつにも言われた」
そうなんだ。
「そう言えば謹慎はいつまでなんですか?」
「わからん。鈴木くんの心の傷次第」
「つまり無期限?」
「そゆこと」
「…うわぁ」
「まぁ、なんとかなるっしょ…。図書室勉強の方が実は捗るし」
「それはなんとなくわかる気がするけど」
「でもね。
黙ってやられてるわけにはいかないからまあ、テストで点を取るなりなんなりして、ちゃんと近々復帰してやるよ」
「頑張ってくださいね」
「小夜ちゃん、」
ふと一喜先輩はそう呼んで、「あっ」と、俯いた。
「なんでしょう?」
「…歩と隆平を、よろしくね」
「まぁ、はい」
そしてそれから恥ずかしくなったのか、強引に話は本の話になった。
だけどそれはそれで楽しかった。
お店の前で一喜先輩と別れた。背中が曲がり角を曲がるまで見送った。
ちゃんと仲直りしてくれるといいな。
浦賀先輩には岸本先輩がいる。一喜先輩は、いまのところ、二人のところに帰れないから。
あの人はそれから、一人でずっとやって来たんだろうか。
そう思ったら、悲しさや寂しさを通り越して、なんだかもう少し柔らかい、なんて言っていいかわからない感情が沸いてくるような気がした。
頑張って、という言葉じゃ少し違う。そんな他人行儀な言葉じゃなく、なんだろう、わからない。
こんな時、もっと本を読んでいたらなぁ、と思うのに。みっちゃんや浦賀先輩のように、言葉を返せるのに。
背中を見送りながら、そんなことを考えた。一度振り返って一喜先輩は優しく微笑んで首を傾げたが、私は手を振って「また明日!」と叫んだ。
お店に入ろうとしたとき、みっちゃんが扉を開けた。
「あ、やっぱり小夜か。声がしたからさ」
「うん」
お店に入るとき、扉を持ってくれていたみっちゃんにお礼を言って、ついでにメモ帳を渡した。
「お、小夜ちゃん」
「おはようございまーす」
「少し遅かったな。光也さんさっきからそわそわしてたんだよ」
「あ、そうだったの?」
「『あれ?ちょっと遅くない?外見てこようかな…』とかずーっと言ってたよここ10分くらい」
時計を見てみるとイン時間の5分前だった。
「あれ、嘘!?ヤバい!急ぎます!ごめんなさーい!」
急いで着替えて打告した。ギリギリセーフだった。
「珍しいね、お友達と女子トーク?」
「まぁ、そんなとこです」
「いーなぁ、おっさんもやりたい」
「いいじゃん。柏原さんは俺と光也さんと男子トークしようよ」
「3割下ネタじゃねぇか。あとギャグ。俺もキラキラした話したいよ!時間を忘れるほどの!」
「じゃぁ俺の恋愛トーク聞く?」
「いやいやそれ光也だから!」
「じゃぁ俺の聞く?」
「お前の恋愛トークは今や過去だから。しかもろくでもないから。じゃぁ俺の聞く?」
「あんたの方がよっぽどろくでもないから」
なんだかんだでいつでも女子トークみたいなことしてるような気がするんだけど。
「てか早く仕事しよーよ」
「冷めてんなー、わかりましたよ真里さん」
マリちゃんの一言でみんな仕事を始める。普通こんなときはオーナーが引き締めるものだと思うのだがこれはこれでいいのだろう。
ちょっと3人の恋愛、気になったけどな。残念。
そして事件は開店と同時に起こった。
- 26 -
*前次#
ページ: