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「光也ホントにお前はなんなのさ」

 先程とは打って変わり、おっさんがおどけてそう言い、レシートらしきものを渡してきた。見たらレシート、裏には電話番号とメアドと名前が書かれていた。

「みっちゃん、ホント大変だね」
「これ、あの人?」
「それ以外にいないだろ」
「マジか、すげぇな」

 迷惑極まりない。

「お前気を付けろよマジ。こいつかなりくせ者だよ」

 やり場がなくなったその紙切れをポケットに入れた。後で処分しよう。

「逆ナンですか?」
「そーなの。こいつモテるからねぇ…困っちゃうね」

 居心地悪いな。
 しかしこれはおっさん、何かを企んでいそうだ。

「光也くん優しいから。けど大変ね」

 心配そうに雪子さんは言ってくれた。

「変な人だったね」
「お客さんにそんなこと言っちゃダメだよ、小夜」
「でもさぁ〜心配になるよ?」
「大丈夫だって」
「こーやって自覚ないんですよ!ちょっと説教してくださいよ!」
「小夜ちゃん、優しいわね」
「小夜ちゃん、こいつはね、説教しても腹ぶっ刺されたりするから」

 うぉぉ、それは痛い過去話じゃないか。

「え!?」

 「あのですね…」と二人して話そうとしているのでそれを制した。それは黒歴史だ。てか女の人にして良い話じゃない。

 おっさんの足を踏みつける。「痛いから!」とか言ってる。もう知らん。ちょっとムカついたのでその場を去り、キッチンへ。

「あ、いじけてるね」

 真里がにっこり笑い、ちょっと冷めた焼き鳥の皮をつまんで口に入れてきた。美味い。

「だってさ」
「雪子さん来た?」
「え?うん。あそうだ。もつ煮」
「はいよ」

 真里はすでに煮てあったもつ煮に火を掛け、少し煮立ってきたところで器に盛った。
 ついでに俺にも少し盛ってくれて、食べる。

 やっぱ真里の味付け美味いな。

「美味い」
「どうも」

 さっそくもつ煮を持っていく。雪子さんは一口食べて、「美味しい」と言ってから七味を掛けていた。

「あ、七味わかるわ」
「でしょ〜」
「俺実はさ、もつ煮食えないんだよね」
「えっ」
「え、なんでメニューに入れたん?」
「真里のが美味いって前のバイト連中に聞いて味見したらさ、真里のは食えるんだよー」
「私食べたことない!」
「あー、ちょい待ってな」

 俺はキッチンに行き、小皿にもつ煮を盛った。「どしたの?」とか言われたので、「小夜が真里のもつ煮食いたいってさ」と答え、小夜にも出してやった。

 一口大根から食べて、「んんっ!」とか言って食べていた。

「美味しい!さすがマリちゃん!」
「なー。真里やっぱ料理美味いよな」
「嫌いな人も食えるってのが良いよな」
「これ家でも食べたい!」
「休みの日にでも作らせるか」

 何気ない会話をしていると、「あら?」と雪子さんは疑問顔。そうか、雪子さんは知らないか。

「俺ら三人同居してるんですよ」
「あら、だから仲良しなのね」

 だからというわけではないけど。まぁ仲は良いだろうな。

「良いわね、そういうの」
「まぁ…楽しいですよ。たまにスッゲー喧嘩するけど」
「喧嘩するほど仲が良いて言うじゃない」
「そうですね」

 喧嘩するとわりと洒落にならないこともあるが。この関係、俺もわりと好きだ。

 ただふと思う。いつまでこれは続くんだろうかと。いつかはきっと、みんなそれぞれの道を行くんだろう。近い未来で可能性があるのは小夜の卒業。それまでに俺は少しは今より…。

「みっちゃん?」
「ん?」

 考え事した。

「何か考え事した?」
「いや、別に」

 お前にも良い人ができてさ、真里にも…。
 どうなんだろうな。
 少し先の未来を考えて、ちょっと寂しくなったり新鮮な気持ちになったりした。

 それから閉店時間まで雪子さんはいた。

 いつも通り、雪子さんを家まで送って行くことにした。

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