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 話しているうちにカレーが出された。確かに少し、スープっぽい。

 手を合わせて二人で「いただきます」と言ってから食べ始める。だけどなんだか、「光也くん、丁寧ね」と言われた。

「そうですか?あ、これなんだろ、大根?」
「あぁ、時期的にそうかもね。
 いやぁ、なんかなんとなくいただきますがなんか本当に有難い感じが伝わってくる…」
「んー?」

 別にそういう自覚もないけどなぁ。

「これは大根じゃないなぁ…」
「うん、なんだろう?カブかなぁ?」
「これはきっとさやえんどう」
「なんか…楽しそう」
「また出汁が野菜に合ってて美味いな…これ」

 なんだろう和食のような、それでいてちゃんとカレーだし。出汁は本だしかな。
 一人で考えながら食っていてはっと気付いた。そう言えば雪子さんと来ていた。
 雪子さんを見ると、綻ぶような優しい笑顔で俺を見ていて。

「うわ、なんかすみません。美味かったんで、つい」
「気に入ってくれたみたいでよかった」
「ここ、おっさん来たら喜びそう。おっさんよく、「素材を生かせる味付けって素晴らしいよな」って言ってるから。それをカレーで出せるってすごいなって」
「光也くんも料理やるの?」
「まぁ…あんまりやらないけど、一人暮らし長かったんで。今は小夜も真里もいるし」
「あ、そっか」
「なんとなく、朝は最近小夜が担当で、真里は仕事で作ってるし…って感じで休日は俺が作ったり小夜が作ったり。
 なんか新作開発したい時なんかは真里が作ったりもするけど」
「光也くんの得意料理は?」
「んー、なんだろう…一般的な定番っていうか…あ、ハンバーグとかオムライスとかは真里に美味いって言われたかなぁ…。まぁ子供が好きそうなのは小夜が小さいときわりと一緒に作ったから…」

 雪子さんはずっと楽しそうに話を聞いてる。凄く聞き上手なんだよなぁ、この人。

「雪子さんは?得意料理ありますか?」
「実はね…私料理あんまり得意ではないの」
「えっ、意外」
「人並みくらいには多分…炒め物とか煮物とかね。けど胸を張って得意!ってほどじゃないのよ。ホント生きていく最低限って感じ。
 いま光也くんがハンバーグとかオムライスって言って凄いなって思ったもの」

 それがいわゆる最低限のような気がするんだが…。

「それこそカレーとか?」
「そう!」

 男子大学生並みなのだろうか。
 でも…。

「アップルパイ、美味かったですよ?」
「お菓子はね、得意なの」
「なるほど…」
「ご飯は旦那任せだったのよ」
「じゃぁ今は?」
「うーん、外食が増えたかなぁ」

 なるほど、それで毎日のようにウチに来るのか。

「たまに作ると楽しいんだけどね。やっぱ一人だと、作るよりも買ってきたりした方が安かったりすることもあるのよねー」
「それわかるかも…。
 俺も一人の時あんまり作らなかったな。でもたまにはまっちゃったりして」
「そうそう!
 光也くん今の生活長いの?」
「いや…。今の感じになったのは半年くらいじゃないかなぁ…?基本的には一人です」
「そうなんだ…」

 雪子さんは少し考え始めた。まぁ確かに普通の人から見れば俺たち三人の生活は少し異風なんだろうな。

「まぁ、変わってますよね」
「え?…いや、」
「なんとなくわかります。俺も変わってるなって思ってるから」
「あ、うん…」
「…もともと、真里は昔バイトの後輩で、おっさんが社員。おっさんが辞めて店開くからお前ら二人来いって言われていまあの店があるんですよ。そのころ俺たち一緒に住んでて…。
 小夜はその少し前くらい、まだ8歳の頃に出会ったんです」

 溢れるように言葉が出ていく。普段自分のことなんて語らないから少しぎこちないけど。

「…まぁ、あんまり話すのも…二人のこともあるから」
「複雑な感じ…なのね」
「多分。
 初めて小夜を見たときはホントに咄嗟の行動でした。いま思うと支離滅裂だし、よくやってこれたなって思うけど、あの勢いは…なんて言うんだろう、青臭さだったのかな。
 俺たちは多分凄く曖昧な関係なんです。多分ちょっとぶつかったら骨折する。だけどなんだかんだで上手かったり下手だったりでやって来てる気がする。今となっては良い親友であり戦友…かな?」
「なんか…夫婦みたい」
「え?」
「いや、また違うのかもね。でも…なんだろ、夫婦には似てる…。一生に会うか会わないかの存在、なんでしょうね」

 そう言って雪子さんはにっこり笑った。

「ホントはちょっと興味あるけど、それは3人の秘密ね。
 なんか良いわね。なんか…辛いこともきっとたくさんあったんだろうけど、でもなんだかごめんなさい、聞いてたら暖かくなっちゃった。
 …性格悪いかしら?」
「いや…!それは逆じゃないかな?」

 今度はちょっと思案顔で。なんだかそういう雪子さんを見てたらこっちまで顔が緩むのがわかって。

「光也くん?」
「いや、すみません、なんかちょっと…、雪子さん、そんなになんか不安そうに「性格悪いかしら?」なんて言われちゃったら、ちょっと面白くて…!」
「まぁ!」
「表情がコロコロ変わるんだもん…!
 やば、俺が性格悪いかな、なんか…」

 可愛らしい。

「…素敵です。いいなぁ、そーゆーの」
「…そう?」

 そうやって少し恥ずかしそうなのも。

「大人になってもそんな感性があるのって、いいな」
「…褒め上手ね」
「褒めて…るのか、確かに。思ったことそのまま言いました」
「貴方も充分…」

 なんだろう。

「あ、休憩よね{emj_ip_0793}」
「あぁ、まあ…」
「そろそろ行きましょうか!」

 急に雪子さんは慌て始めて伝票を持った。もうちょっと余裕あるけど、残念。

 伝票の金額は見ておいたので、雪子さんが伝票を出したタイミングでお金を出した。

「え、」

 戸惑っていたが取り敢えず、「ごちそうさまです」とおばちゃんに挨拶をして二人で店を出た。

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