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 “林檎の木”の前まで来て鍵を開ける雪子さんの手が少し震えていることに気が付いた。

「風邪薬とかありますか?」
「あるんじゃないかな…」
「まぁいいや、買ってきます」

 確か近くに、結構遅くまでやってるドラッグストアがあったはずだ。

「光也くん、大丈夫よ」
「いいから。あ、一回コートだけちょっと貸して貰おうかな。
 あ、スポドリ買ってこよう。
 明日ここ、休みでしたっけ?」
「うん…」
「それはよかった」

 店の電気をつけると、雪子さんは結構汗をかいていて。

「まずは熱を図ろう」
「うん…」

 そう言って熱を測らせると38.4°。なんだかんだである。

「あー、結構あるね。頭痛とかは?」
「うーん、特に…」
「総合かなぁ。ちょっと待っててくださいね」
「光也くん!」

 雪子さんは先程体温計を取り出した救急箱から薬の箱を取り出して見せた。

「あった!」
「おぉ…よかった…」

 安心してみて気が付いた。

「あっ」

 めっちゃ家上がり込んでる。

「ごめんなさい、お邪魔してます!」
「あぁ、いいのよ。お茶でも…」
「いや、寝ててください。てかスポドリ買ってくるから」

 取り敢えず一度外に出て一呼吸。

 勢いに任せたと言うかそんな感じだが、これは果たしていいのかな。
 でもまぁ仕方ないと言えば仕方ないか。

 店に連絡を入れ、スポドリを買って林檎の木に戻る。居間には雪子さんは居なくなっていた。
 そりゃそうか。寝室って二階かな。

「雪子さーん…」

 ちょっと声を掛けてみると二階の方から物音がしたので行ってみる。
 二階には二部屋あって、手前の部屋の障子を雪子さんが開けたところだった。
 寝巻きに着替え、寄りかかるように障子を開けたその姿はなんだか弱々しい。
 スポドリを渡した。

「…台所だけ借りていいですか?」
「…ええ…」
「朝飯だけ作ってくから」
「え、そんな…」
「大丈夫。そしたらちゃんとお店に戻るから」
「…ありがとう…」

 了承を得たところで俺は階段を降りてキッチンに向かった。

 居間には旦那さんの仏壇がある。それを見ると少し気が引けてしまう。だが今はごめんなさい、雪子さんの体調の方が大切なんです。

 割り切って台所に立ってみると、思ったよりは使用感があった。あまり料理をしないと聞いたから、もう少しなんか、使ってない雰囲気かと思いきや、食器棚を見ても最近ちゃんとまんべんなく使われていそうだ。
 冷蔵庫の中もちゃんと物は揃っていた。取り敢えず味噌汁と冷蔵庫にあった魚を照り焼きにし、あとはだし巻き玉子ときんぴらごぼうを作った。

 完璧なる朝御飯だ。久しぶりにここまで作ったので美味いかどうかちょっと不安だ。

 作り終えて帰ろうと思い、雪子さんに挨拶をしようと寝室を覗くと、もう寝ているようだった。置き手紙を残して一人店に戻った。

 “Hydrangea”の明かりはまだついていた。時刻は0時を廻っている。普通だと今頃帰るくらいだ。

 店に入ると3人が雑談していた。俺の姿を見るなり「おかえり」とおっさんが言った。

「やっと帰ってきたよ。飯は?」
「まだ」
「だと思った。早く食っちまえ。
 雪子さん、大丈夫そうか?」
「多分」
「そっか」
「まぁ長旅で疲れが出たんだろうね。あんたもお疲れさん」
「うん、ありがと」
「早く治るといいね、雪子さん」
「そうだな」
「ご苦労様。
じゃ、俺は帰るよ。また明日な」

 そう言っておっさんは帰ってしまった。相変わらずの俊足である。

 親子丼を食って着替えてすぐ店を後にした。店を出てみて疲労に気が付いた。
 今日も小夜は後部座席を開けてくれた。車に乗ってすぐに眠りについた。

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