8


 掛け直すことはしない。

 この荷物の量だと3日くらいは帰らずに済むかな。

 悪いことをしたとは思う。けれども俺はこうやって、どこかで終止符を打たなければならないんだ。

 昔からやっぱり変わらないな。姉ちゃんからずっと言われてた、『何をやっても続かない』。まさしくこれだ。

 でも続いた方だった。ただそれがよくなかった。

 たくさんあいつを苦しめた。本当はだいぶ前からわかっていたのに。

 だから最低な終わらせ方にしよう。恨めば良い。恨んでわかんなくなるまで恨んで無になって、そして解放されれば良いんだ。

 俺はお前らを捨てて色恋沙汰に専念するよ。それでいいだろ?それがいいだろ?
 だから、だから…。

 あーちくしょう。
 最低になりきれないんだよ気持ちが。だから半端なことになってるっていうのになんでこんなにあいつらの、幸せなんて願ってるんだ俺は。

 違う人を見つけてね?俺が言える立場でもない、無責任すぎる。でもそれくらい太い神経じゃなきゃまた引き摺るんだよ、じゃないと、居心地が良いからまた口実を作って戻って苦しめるだけなんだよ。

 そう、俺にはもう関係がない。あいつらは無縁だ。なんもない。

 なのになんでこんなに。

 早く、早く着きたい。早く雪子さんに会いたい。辛そうだって良いなんだって良い。

 でもこんな弱いままでいいのか…?

 だめだ、一回休もう。

 そう思って電車に乗ったあと一駅くらいで降りた。駅のトイレで吐いた。胃が痛い。

 もうなんだっていい。
 こんなもん、こんな雑踏みたいな雑念、ホント、全部水に溶けて亡くなっちまえば楽なのになぁ。

 自販機で緑茶を買った。
 吐いた後の過呼吸や心拍数の上昇が落ち着くまでは駅のホームに座っていた。
 ここは雑音しかしない。大きな雑音。どんなに静かな日でも大抵うるさい。

 今更思う。

 死にたいとは思わないんだ、もう今更。あれはガキの頃特有のかっこつけの陶酔に似たものだ。

 本当に死のうとしたやつには多分わかる。案外死ねない。人は簡単には消えない。
 通り越したらそこは無だ。ただただ生かされている感覚。なんで自分が今生きてるかすら問わなくなる。だって、どう足掻いたって自分はそこにあるんだもん。

 今更光ひとつ亡くなったところで33年。こんだけの物しか積み重ねなかったんだ俺は。

 ただ一人になっただけ。でも俺はわりとこうやって生きてこなかったか?
 じゃぁなんで今雪子さんのところに向かってるんだろうね。もうわかんないや。

 電車に乗ろうか躊躇っても結局乗ってだらだら考える。
 景色が急速に流れていく窓の外を見てぼんやりと浮かんだ言葉。

ごめんね、さようなら。

 そして浮かんだ真里と小夜の笑顔に、悔しいけど電車の中で一人、どうしても泣けてきちゃって。

 取り敢えずマスクをして俯いて周りを誤魔化したつもりになっていようと思った。握られた拳すら手のひらに食い込んでも痛くなかった。

 早く、早く着きたい。

 笑顔じゃなくても良いんだ、誰か、雪子さん、少しでいいから、隣にいてくれ。本気で今俺は苦しいから。

 誰かこのあとさ、道歩いてる俺の背中刺してくれないかなホントさ。
 俺多分これから先、人と関われないんだよ。なんなのこの喪失感。
 ねぇでもこれを聞いたら怒るかな、哀しむかな。
 これって、想っている相手が生きてる方が辛くないか?多分だけどさ。

 この感情すらやり場が亡くなってすべてを灰に変えちまったあんたから、奪う気は毛頭ないよ。無理だもん。

 だけど覚えとけよ。生きてるって、生きてるやつって、こんだけ相手に対して辛くなるんだからな。それは今のあんたには真似出来ないだろうね。

 精々あんたは、雪子さんに綺麗な思い出だけを刻み付けるだけにしときな。羨ましいよ、そんな見ず知らずのあんたが。
 って、恨み辛みになりつつあるな。これじゃいかん。俺はいま暴走気味だ。鬱になってる場合じゃない。

 取り敢えずダメそうなら内科に連れて行こう。大丈夫そうなら喉の風邪薬かな。

 電車を降りて頭の中で切り替えた。こうでもしなければやっていけない。というか雪子さんに流石に悪い。

- 75 -

*前次#


ページ: