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 バックグラウンドに甥たちの元気な声が聞こえてくる。

「もしもし姉ちゃん?」
『おー、終わったかぁ?』
「うん、今から行くわ。かっちゃん元気やね」
『うるさいからそろそろ寝かしつけよ思っとったんよ!』
「ええやん、子供は元気が一番ええよ。小夜は?」
『小夜ちゃんとも仲良くなってなぁ、ちょっと|竜太郎《りゅうたろう》の方がなー、でれとるんよ』
「うわぁ〜、やんちゃやなぁ、想像したらおもろいわ!」
『まぁ待っとるから{emj_ip_0792} 友達とおるんやろ?早ぅ来ぃや!』

 電話は一方的に切れた。

「仲良いんすね」
「そーか?」
「家まで送ろうかと思ったけどお姉さんの家行くんじゃ大丈夫かな」
「大丈夫だよ!」

 次の電車はすぐに来た。始発だから誰もいない。席に座ると、すぐに眠気が襲ってくる。

「真里、どこまでだっけ?」
「起こします?いいっすよ」
「うーん、5駅行ったら…」

 それだけ言って寝てしまった。

「光也さん」

 声を掛けられる。右手が暖かい。彼女もこうしてよく手を包んでくれてたなぁ。とか思っているとペチペチ叩かれ、しまいにはつねられ、目を開けた。

「次ですよ」
「あー、うん、ありがとう」
「まったく、気持ち良さそうに人の肩で寝やがって」
「うん?…あ、ごめん!」
「全然いいよ。家に連れて帰ろうかと思うくらいだわ。気持ちよさそうで起こすの嫌だったわ」

 たった15分ほどでそんなに寝たのか。

「送って行きましょうか?」
「大丈夫。姉ちゃん家にはちょっと寄るだけだから」

 そんなこと言っているうちに駅に着いた。真里には礼を言って電車を降りる。

 北口の階段を降りて改札を見れば、小夜と姉貴が立っていた。

「あれ?」
「よっ!」

 姉貴と手を繋ぐ小夜は眠そうだ。

「わざわざ来てくれたんか…」
「あんただいぶ飲んだな?ちゃんと連れて帰るんやで!」
「あぁ、さんきゅー」

 小夜と手を繋ぐのを見届けたのか姉貴は、そのままくるっと背中を向けて歩き出した。その姉貴の背中に小夜は、「お世話になりました」と言ってお辞儀した。姉貴はそれに後ろ手を振った。

「行こっか」

 小夜に切符の買い方を教える。
 二人で電車に乗るのは初めてだ。

「小夜、電車だよ。乗ったことある?」

 小夜は首を振る。やっぱりそうか。

「しんかんせん?」
「似てるけど違うかな」
「新幹線乗る?」
「今は乗らない。電車。新幹線乗りたいん?」

 小夜は頷いた。

 ホームに降りると、そんなに待たずに電車が来る。

 終点近く、しかも上りで時間帯も遅かったおかげで電車はがら空き。二人分の席なんて余裕で空いていた。端の席に座るとすぐ、小夜は俺に凭れて寝てしまった。

 気が付けば俺も寝ていて、終点に着いた頃、ちょうど起きた。

「小夜、着いたよ」

 なかなか起きない。ちょっと肩を揺らす。

「せめて立って」

 そう言えば小夜は寝ぼけながら立ち上がった。そのまま電車を降りて小夜を降ろす。

「切符どこやった?」

 小夜は、ポケットから切符を取り出して見せた。それを受け取り、背中を向けてしゃがむ。

「ほら、おんぶしてくから」

 小夜は背中にほぼ、倒れ掛かるようにおぶさって来た。少し打撃。そのまま小夜を抱えて改札まで歩いた。

 駅員がいる窓口の前まで行く。

「すみません、これ、切符なんですけど…」

 左腕で一度おしりまで抱え、右手で二人分の切符を出した。出してすぐ、また両足を持つ。

「はい、こちらからどうぞ」

 そのまま会釈して改札を出た。

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