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「じいちゃん!ちょっとさ、母ちゃんと父ちゃんと、会ってくるから!」

 そう真里が奥へ叫ぶと、「あいよ!作っとくから!」とじいさんは顔を覗かせ、また引っ込んだ。

「うるせぇジジイで悪いね」

 そう言いつつも真里はなんだか嬉しそうだ。

「いいじゃない。楽しい人だな。人懐っこい」
「いや、普段はあそこまででもない。人懐っこくはあるけどね。結構好き嫌い激しいかな。初対面であんな好かれる方が珍しい」
「へぇー。どこの人なん? 」
「オランダから泳いできたとか言ってた。一応もう日本国籍らしいよ。いわゆる永住外国人ってやつ」

 物理的にその距離を泳いでくるのは無理だろうが、確かにそれだけの根性はありそうだ。

「真里はクォーターってことになるのか?」
「そーゆーことだね」

 意外な事実を知った。

 真里はそのまま家の引き戸を開け、「ただいまぁ!」と叫ぶ。奥からすぐに、「真里?」と、声がした。慌ただしく足音が聞こえる。
 真里のお母さんが現れたので、俺は頭を軽く下げた。

「あら、こんにちは…」

 物腰柔らかで話し方に品がある。典型的な“お母さん”と言う感じの人だった。長髪を後ろに束ね、エプロンで手を拭きながら登場するあたりまさしくそれ。

「突然すみません。志摩と申します」
「いえいえ。こちらこそ、あまりお構いできなくて申し訳ありませんが…。あ、お茶用意しますね」
「母さん、昨日話した先輩だよ。荷物運び手伝ってもらう」
「あ、あぁ!あれ、今日なの?」
「うん」

 お母さんは俺のことを見た。
 ヤバイ、気まずい。

「わざわざすみません…。まぁ、どうぞ上がってください」
「…お邪魔します」

 なんとも言えない気持ちのまま、俺は真里の家に上がる。
 階段の前まで来て真里は即、二階へ行こうとするがお母さんは俺を居間へ促す。

 困惑に思わず立ち止まると、真里とお母さんは視線で無言の語り合い。痺れを切らしたお母さんが、「お客さんにお茶くらい出さないと。貴方も、忙しないわよ」と溜め息混じりに言い、「どうぞ」と品のある笑顔で俺に言う。

「急に押し掛けちゃったのにすみません、じゃぁ…、少しだけ」

 お母さんの無言の圧力に俺は負けてしまった。

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