7


「なんかなぁ…」

 そんな俺達をみて姉貴がふと笑った。今日、初めてまともに姉貴の顔を見た。

「光也、楽しそうやないか…」

 その言葉への答えは、今はっきりと言える。

「うん」

 それ以上の言葉はお互いにいらなかった。

 俺はもう言葉にすがるのは止めたんだ。感情なんて語らなくていい、語ろうとしなくていい。いままでそれをやろうとしたから周りを傷付けたんだと最近気付いたから。だから姉ちゃん、俺は語らないよ。

「姉ちゃん。心配すんな」

 しかし思いは、語るべきもの。

 思いを汲み取ったかはわからないけれど姉貴は、にっこり笑うだけで、何も言わなかった。ただ、少しほっとしたようには見えたのは俺の感情かもしれないけど。

「言えたじゃん」

 真里はそれに、まるでいたずらっ子のように無邪気に笑った。

「言ってないよ。何も」
「……そうかい」

 思いと感情を縛り付けて離さないものが言葉なのだとしたら、これだけしかないんだ。数が少なかった。それにすら俺は気が付いていなかったんだ。

「みっちゃん楽しいんだ?」
「ん?うん、まぁね。小夜は楽しいか?」
「うん、楽しい!」
「小夜ちゃんー!」

 竜太郎が下から手を振る。小夜も手を振り返していた。勝海はちょっとシャイぶって「けっ」なんて言ってる。

「勝海、今日は小夜にカッコいいとこ見せたってや」

 勝海は俺をちょっと見上げてからぷいっとそっぽ向いてしまった。だけど小さい声で、「当たり前じゃん」と言っていた。

「おもしれぇ、子供って」
「な。俺もあんなんだったんかなー」

 好きな子に対して露骨にシャイだったり、感情の起伏が激しかったり、ちょっとのことで驚いたり。一日一日がドラマなんだなぁ。

 でもそれって本当は大人だって変わらないはずで。ただ、鮮明かどうかの違いでしかないのかもしれない。

「うちらちょっと準備あるから、なんかあったら寄ってな。勝海と竜太郎はあと一時間くらいしたら出るんよ」

 少ししてから小夜を下ろし、会場付近まで歩いたところで、姉貴達は関係者用のテントへ向かった。
 小夜は、「がんばってねー!」と言って手を振った。

 地区のお祭りと聞いていたから、てっきり小規模なものかと思っていたが、大通りもある程度通行止めにしているし、わりと出店もあって、思っていたより規模がでかいようだ。

 一時間、何をして時間を潰そうか。取り敢えずは熱中症対策に何か買っとこうとコンビニでお茶を確保。

 それから昼飯もかねて出店を回ることにした。小夜にとってはどれも初めてのようで、祭りの現象全てに興味を示していた。

 わたあめが出来るのを見て喜んでいたり、お好み焼き屋のおっちゃんの技術に「すごい…」と感心したり。

 少し困ったのは金魚すくいだった。

「あれなに?」
「あれ?金魚すくい。なんか紙みてーなポイってやつで金魚掬って遊ぶの」

 真里がそう説明して覗きこむ。小夜はまさか生き物がいると思わなかったようで、これに凄く興味を示した。

「これ本物!?」
「そだよ」
「やるかい?」

 おっちゃんがポイを渡す。小夜は困ったように俺を振り返った。正直言ってしまえばちょっと困るが、そんな表情で見られてしまうと、ダメだと言いづらい。掬えなくても一匹くれたりするからなぁ。

「う〜ん」
「俺ん家ちっちゃい鉢あるからあとで取り行ってやるよ」

 渋々頷くしかなかった。

「取れたらちゃんと世話するんだぞ」
「うん!」

 おっちゃんにコツを教わりながらいざ、プレイ。ポイを斜めに入れてみたが、ちょっと追いかけてしまったようで破けてしまった。

「あーあ」
「お嬢ちゃん残念だったね。はい」

 やはり、一匹金魚を袋に入れてくれた。小夜は「いいの?」と申し訳なさそうに手を伸ばしす。おっちゃんは笑顔で金魚をくれた。

「ありがとう」
「よかったな」

 小夜は黙ってコクりと頷いた。

- 51 -

*前次#


ページ: