13
「またああやって。優しくて残酷な嘘を吐かなくちゃいけないんだね」
「これで良くも悪くも、小夜の…生きる糧になってくれたら」
言葉の呪縛の重さは、よくわかっているから。
「ホントに汚れていたいね…心地よく」
小さな嘘の埋め立て地でこんなに大きくなって汚れたなんて、これはなんてサイケデリックな苦しみなんだろう。じわりじわりと胸に来る痛み。
小夜にもいつかあの言葉で、これだけの痛みに気付く日が来るだろう。その日になったら。
真里が運転席に乗ろうとしたので、「俺が今日は運転するよ」と提案すると、「え?」と驚いたように言った。
やっぱり。顔を見ると真里は泣いていた。
「うわっ、すっげぇ顔」
「うっさいな!」
「お前さっき酒飲んだだろ」
「あ、そう言えばそうだ…」
そう諭すと素直に助手席に乗り込んだ。さあ運転出来るかな。
あ、ちょっと擦ったな。
「おいおいおいおい、今すげぇ音したけど?」
「気のせいだよ」
「待って、俺酔い覚めたから、変わらね?」
「そーゆー問題じゃないから」
少し不服そうだが飲酒野郎に言う権限はなし。
「光也さん」
「ん?」
なんだよまだ何か文句でも…。
「ホントのことって、何?」
「んー?」
的はずれだったな。
俺が将来、もしも小夜に逢えたら教えたいこと。
「内緒」
神様なんて、いないと言うこと。
本当に辛くなった時、呪縛から逃れたくてしょうがなくなったら、今度はちゃんと教えよう。
俺が教える、唯一嘘じゃない一言を。
「はー。これから俺たちどうしよっか」
「好きにしろ。俺は何でもいいや」
「…小夜に言ってた、俺ともいるの楽しいってのは?嘘じゃない?」
「さぁね。お前よく聞いてたね」
「…確かめたいからしばらくいようかな」
「…そうかい。
じゃぁ帰ったらやけ酒付き合って」
「あーはいはいはい!わかったよ。
ホントにあんたダメなやつ」
「今更かよ。あっ」
また何かぶつけた気がする。
「だから怖いつーの!」
「うるせぇな、こっち何年ぶりだと思ってんだよ。最後の免許更新が運転したの最後だぞ」
「マジかよ、それって」
「2年かぁ」
「これ更新アウトっしょ」
「だって医者がだめっつーんだもん」
「ドクターストップかよマジ変わろう?俺らこれ生きて帰れないから」
「心配性だな」
「あんたに言われたくないってかこれ常識の範囲内だから」
「そうだ、帰ったら姉ちゃんのメアドと番号送っといて」
「え?」
「ほら、消しちゃったからさ。…あっ」
「わかったってあんたさ!これレンタカー!ざけんなマジ!もう怖いよマジ泣きそう」
「泣いてんじゃん」
「違う意味でだよバカ!誰のせいだ!」
こうして、二人でなんとか家に帰った。途中こっそり運転を変わったのは言うまでもない。
俺の変わった一夏は、あっという間に過ぎたのだった。
次の日、ちゃぶ台に残されていた、小夜が練習していた名前を書いた紙がこっそり、小夜と水野さんの住所にすり変わっていたのはきっと、真里の優しさだった。
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