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 私がそう言うと、二人は顔を見合わせた。

「昔よくやったよね、三人でさー」
「そうだな」
「確かに…」

 マリちゃんがキッチンを見渡す。

「狭さとか、こんなんだったよな。でもなー小夜おっきくなったからなー」
「あ、そっか」

 ふと、みっちゃんが笑った。笑って、今度はアイスココアを出してくれた。

 さっきは氷に目がいっちゃったけど、みっちゃんってこんなに細長い指だったんだ。血管が透けて見えてる。

 みっちゃんはマリちゃんにも何かドリンクを作って持っていった。

「じゃぁ今日はよろしく」
「あいよ」

 そう言って二人はその場で乾杯した。一口飲むとそのグラスを持ったまま、みっちゃんはカウンターから出てきて隣に座った。

「真里が作ってくれるって」
「マリちゃんありがとう!」

 奥に叫ぶとマリちゃんは、視線はずっと手元を見ながら片手を挙げた。

「あ、そうだ。真里ー、俺米いらないから!」
「でたよ。ダメですー。子供も見てるんでちゃんと今日は食べなさいー」
「えー、マジかー」
「好き嫌いしちゃダメって小夜、教えといて、そのおっさんに!」
「いや、好き嫌いじゃないんだけどな…」

 とか呟くみっちゃんと目が合うと、グラスを向けてきたので乾杯をした。みっちゃんのグラス、中身が透明だ。

「ご飯嫌い?」
「いや、そーゆー訳じゃないけど…なんかね」
「昔もあんまりなんか、食細かったよね」

 あんまり語りたくなさそうだな、なんとなく。話題変えようかな。

「なに飲んでるの?」
「麦焼酎だよ」
「みっちゃんよく飲んでた?」
「焼酎とか日本酒とか家にあったな。今でもあるよ、なんとなく」

 家にあるわりに、マリちゃんと飲む以外は見たことがなかったな。ストックしてあるお酒の瓶のパッケージをよく見た気がする。結構コロコロ変わるんだよなぁ。

「でもみっちゃんあんまり飲んでるの見たことないかも。マリちゃんとはよく飲んでたけど。
 あ、あと薬飲むとき!昔は真似すんなよって言ってたけど、あれダメだったよね!」

 私が笑いながら言うと、「あーあ、バレちゃった」とみっちゃんも笑ってた。

「小夜は今どの辺住んでんの?」
「三鷹!」
「近いな」
「うん。さっきマリちゃんと話しててビックリした。
 いつでも会えるんだね」
「…そうだな…」

 みっちゃんは少し俯きがちに言う。
 何か考えてるのかな。なんとなく。

「やっと会えたね」
「ずっと時間合わなかったみたいだからな。小夜、いくつになった?」

 私は、両手の平を広げた後、右手の平に左の人差し指を一本あてる。会ったときと同じ、だけど数が増えた自己紹介。
 覚えてたみたいでみっちゃんは、微笑んで頭を撫でてくれた。

「8×2で16歳だな。あれから8年か。すげぇな、8年でこんなに変わってるんだな」
「そう?二人はあんまり変わってないなって思ったけどなー。相変わらず仲良しだし」
「俺たちの8年と小夜の8年はまた違うような気もする。8年長かっただろ?」
「うん…確かに。色んなことがあったなぁ。
 長かったような短かったような」
「大人になるとそれすらないからな。ただ毎日同じ日を過ごす、気付いたら3年経ってる気がする、みたいなね。
 まぁでも色々あったと言えばあったのかな。店開いてるしな」
「柏原さん、なんか良い人そうだった」
「良い人だよ。苦労人だけあってね。変な人だけどね。あの真里が懐くくらいだからな」
「確かに。私初めて会ったとき、マリちゃん怖かったもん」
「なんだってなんだって?」

 噂をすればなんとやら。マリちゃんがご飯とお吸い物を、大きな取手のあるトレーみたいなもので運んで来て、前に置いた。
 ひとつだけ極端に少ないご飯茶碗はみっちゃんの前に置かれた。それからもう一度戻って西京焼きとポテトサラダと切り干し大根を出してくれた。いつのまにこんな作ってくれたんだ。

 マリちゃんもカウンターから出て隣に座った。私は手を合わせて「いただきます」と食べ始める。西京焼きとか、手作りなんて始めて食べた。

「美味しいね」
「これウチで出したいね。西京味噌買ってきたらいける?」
「いけるんじゃん?多分これテキトーに捌いて塗って放置だよ」

 そんなに簡単なんだ。

「魚によって焼き方ある?」
「あーわかんねぇ。こんなの地元にありふれてたから考えたこともなかったわ」
「確かにそっか、郷土料理なんてそんなもんだよな」

 そっか、みっちゃんそう言えば京都出身なんだ。

「まぁ仕事の話はいいや。なんの話してたの?」
「え?真里が殺人鬼みたいだねって話」

 うわぁ、話盛ってるよ。

「そんな話してないよ!」
「なんだ、今自分でも納得したのに」
「え!?」
「だって小夜さ、まだわがままとか言わないからよかったけど、俺マジ当時ね、お前のこと光也さんが見てないうちにどっかに棄ててこよっかなって思ってたもん、最初」
「えぇ!?」

 マリちゃんのイメージが崩れていく。

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