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 現在のみっちゃん家から前のみっちゃん家まで遠かったようで、マリちゃん曰く、電車なら合計で二回は乗り換えるようなところらしい。

「まぁ今住んでるの田舎だしな。当時逆によくあそこ住んでたね」
「んー?意外と区の端とかだと安いんだよ。あとはね、住み始めたころ学生だったし、大家さんと仲良かったから安くしてくれたりしてたんだよ」
「そうなんだ」
「季節ごとにね、姉ちゃんが過剰に色々くれるから大家さんにお裾分けするじゃん?そのうち仲良くなるんだよ」
「てか、受け取ってくれるもんなんだ」
「それもねぇ、言ってた。
今の人たちは挨拶にすら来ないのに兄ちゃん珍しいね!って。それで気に入られてさ」
「そーゆーもんなのか」
「まぁ物騒だからわからんでもないけどね」

 最初に住んでいたアパートに寄ってみた。ペンキだけ塗り替えた感じで綺麗にはなっていた。私たちが住んでいた部屋のベランダには洗濯物が干してあった。

「なんか新鮮だな」
「何が?」
「俺たちのあと、当たり前だけど、誰かが新しい生活を同じ場所で始めたんだな」

 みっちゃんは部屋を見て、懐かしいような嬉しいような、そんな表情でアパートの一室を眺めていた。

 それから私たちは紫陽花通りを通る。あの時と同じく一面に紫陽花が咲いていて、
 「これは別子テマリ。これはガクアジサイ」と解説していく。昔はわからなかった。

「へぇ、種類っていっぱいあるんだな」
「昔好きになったから。勉強したんだよ。みっちゃん花の図鑑買ってきてくれた。未だに持ってるよ」
「そうか…」
「今きっと光也さん嬉しいんだぜ。まだ持っててくれたんだって」
「…そりゃぁ」

 そう言ってにっこり笑ったみっちゃんに、なんだか嬉しくなった。

 それから三人で紫陽花の名所の公園に行った。だが…。

「あ、」

 途中でさらさらと雨が降ってきてしまった。

 私とマリちゃんは折り畳み傘を指した。さすがにあの時の傘は持ってなかったけど、似たようなものをあれから選んで買っていた。

「ほら光也さん、似たような傘持ってんだよって…光也さん?」

 何故かみっちゃんだけは傘を指さずにしゃがんで紫陽花を眺めていた。

「みっちゃんどうしたの?」
「風邪引くぞ」
「いや、なんかさ…」

 振り向いたみっちゃんは少しだけ髪の毛から雨が滴っていて。

「紫陽花ってやっぱり雨の花なんだなぁって思ってね」

 しゃがんで傘に入れてあげた。そうするとみっちゃんは穏やかな顔をして右手を差し出したので傘を渡す。立ち上がり、「行こっか」と言ってみっちゃんの左手を借りて立ち上がった。

 その手は雨に濡れて冷たかった。だけどすぐに、私の体温で暖まった。

 折り畳み傘の相合い傘なのに私は全然濡れない。ちらっと見るとみっちゃんややっぱりちょっと濡れていて。私の視線に気が付くとぎこちなく微笑んだ。

「車までだからめんどくせぇなって。小夜濡れてない?大丈夫?」
「うん」
「時間余ったな、どうしよっか」
「光也さんそういやシャツ欲しいって言ってたね。行く?」
「あー、言ってたね。行くかー、暇だし」
「てかびしゃびしゃじゃん。どうしたのいきなり」
「意味はない」
「まぁね、昔から確かに突拍子もない人だけどさあんたはさ」
「え?」
「うん、なんでもないよ」

 不思議そうな顔をするみっちゃんをよそに車の鍵を開けるマリちゃん。なんかホント息ぴったりというかなんというか…。

 然り気無く私が今度は後部座席に乗ると、二人とも、「後ろでいいの?」「気持ち悪くなんねえ?」と声をかけてくるが、「大丈夫よ」の一言で片付ける。それでなんとか調和がとれる。

 車に乗ると、「どこがいい?」とマリちゃんが聞く。しかしみっちゃんは、「んー…」と、こんな調子。

「取り敢えずじゃぁショッピングモールとか行こうか」
「あー、そうするか」
「つかいつもどこで買ってんの?」
「あー、仕事の?三枚500円とかのテキトーにスーパーで買ってきたんだよね。失敗したわ。すぐ死ぬシャツ」

 みっちゃんの発言にマリちゃんは声を殺して爆笑している。それにみっちゃんは「え?どした?」と疑問を投げかけていた。

「い、ちょ、ふっ…」

 最早マリちゃん、言葉になってない。

「俺なんか言ったかな?なんだろ?」

 だが今回は、マリちゃんは運転しているせいか立ち直りが早かった。

「あのね光也さん、どっから訂正していいか最早わからん…だってさ、ねぇ?」

 うわぁ、ぶん投げられた。マリちゃんはかまわず笑い出す。

「え?俺おかしい?」
「まずさ、スーパーに売ってねぇし売ってても3枚500円なんてね、あり得ないから!靴下じゃないんだから!」
「あ、靴下だわ。うん。靴下スーパーで三枚500円で買ってる」
「なんでシャツと間違えたの!?」
「いやでも安いやつだよ」

 会話聞いてるだけでも支離滅裂過ぎてわからない。けど、とにかくみっちゃんがなんかズレてて天然なのはわかった。

「まぁわかった。いつものよりは高いの買おうね。あんた金あるでしょ?」
「うん」

 と言うわけで。

 昔一度来たことがあるショッピングモールに寄った。シャツ何着かと私服を買っていた。

「引越し祝い」

 と言って私も、花柄のワンピースを買ってくれた。

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