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「もしもし?あー久しぶり。うん。聞いたわ。ふーん。へー。あーね、今からね。うん、ごめん今も明日も明後日も、てか休み週一だからさ。よろしくなー。
 え?嫌だよ行く気ないし。うん、悪いけどよろしく。後でなんか奢るわ。じゃぁね」

 電話はあっさり切られ、みっちゃんは戻ってきた。

「あーすみませんね。もう大丈夫なんで」
「え?」
「仕事戻りますよ」
「…なんか遥子ちゃんの話だともう明日明後日の話だから今から向かうとか言ってたけど…」
「らしいですね」
「え?マジいいよ行って」
「いや、いいです任せたんで」
「…」

 お客さんも心配そうな顔をしてるのを見て、柏原さんは何か言いたそうだったけど黙った。

「取り敢えず今いたお客さんに何か出そっか」

 そこでその話は終わってしまった。サービスでドリンク一杯ずつと小鉢の料理一品づつを出した。

 お客さんからみっちゃんは、元気だせよとか、逆にドリンクを頼んでもらったりしていた。

 収集がつき始めた頃、急にさっきの女の人が、「大丈夫ですか?帰った方がいいんじゃないですか?」とか余計すぎることを言い始めてまた騒然としてしまった。みんなやはり、帰りなよとか、大丈夫?とかいうセリフを残す。逆にみっちゃんがすごく居心地悪そうな感じになってしまっていた。

「まなみちゃん」

 私が離れているときふと、あの女の人とみっちゃんが話していた。そうかこの人、まなみちゃんっていうのか。

「今日さ、この後暇?」

 そんな一言が聞こえてきてちらっとみっちゃんを見る。まなみちゃんはちょっと戸惑っていた。

「やっぱりやめとくわ」

 みっちゃんはそんなまなみちゃんを見てやんわりと微笑んでお酒を飲んでいた。

 その一杯を煽るように飲むと、また次を注いで飲む。それを三回くらい繰り返したあたりでお客さんが、「兄ちゃん、いつもより早いね」と言い始めた。

「俺案外ざるなんですよ」

 だけどそこで飲むのを止めてしまった。

 22時を迎えるとお客さんもほぼいなくなり、残りはまなみちゃんともう一人くらいになった。

「小夜ちゃん今日はお疲れ様。よく頑張りました」

 と柏原さんに言われて、だけどなんか上がる気分にもなれなかった。

「どうだった?今日は」
「疲れ…ましたね。
 柏原さん、ご飯作ってください」
「あー、いいよ」

 一応上がってカウンター席に座った。みっちゃんは「お疲れ様」とか言って頭を撫でてくれて、リンゴジュースを出してくれた。

 単純に嬉しかった。ただ、疲れた。けどバイトを振り返ると、ちょっとやりがいがありそうな仕事だなと感じ始めていた。

「みっちゃん、今日は教えてくれてありがとう」
「明日もみっちり叩き込むで」
「明日…?」

 本気で帰らないのかな、京都。

「当たり前やないか。なんや、小夜、入って二日目でまさか辞めるなんて言わんやろ?」
「言わない…」
「以外と楽しかったん?」
「…どうだろう。でもなんか楽しい気はした」

 そんな会話をしていると、マリちゃんが奥から出てきてご飯を出してくれた。

「初バイトお疲れさん。苛められてない?」
「え?」
「苛めてないわ!なぁ?」
「あ、京なまり入ってますねお兄さん。今日はお酒禁止ですな」
「いや、なまりなんて入っとらんよ?あれ?」
「はいアウトー。これは俺ん家に帰るコースですねー。
 光也さん、酔っぱらってんのはいいけどお客さん。あちらの方…」

 マリちゃんが見ていたのはまなみちゃんだった。物凄い形相でどうやら睨まれていたようだ。だけどみっちゃんが振り向くと、微笑んでちょっと手をあげる。

「はいはーい」

 とか言ってオーダを取りに行く。

「小夜」
「何?」
「お前、怖いから今日一緒に帰ろうか?あの女なんか…」
「…うん」
「何にします?」
「同じので。あの…」
「はい?」
「この後大丈夫です…」

 その会話を聞いて、二人で顔を見合わせてしまった。

「マジ?」
「はい」
「うーん」

 みっちゃんは一瞬マリちゃんをちらっと見てから「ありがと。店閉めに1時間くらいかかるけどいい?」とまなみちゃんに聞いた。まなみちゃんが頷くと、みっちゃんは優しく微笑んだ。

「…小夜、取り敢えず店で待ってて。なんだったら一緒に片付けもやってみる?」
「うん…」

 そう言い残してマリちゃんは浮かない顔をしてまたキッチンに戻った。

 片付けって言ってもこの前お店閉めた後、いたからなぁ…。

 あと一時間どうしようかなと思っていたら、その後すぐにまなみちゃんも、もう一人残っていたお客さんも帰ってしまった。

「早いけど閉めちゃおっか」

 柏原さんがそう言ったので、看板をしまって店頭の照明を落とす作業を最初にやった。

「お店閉めるときは最初にこれね。じゃないとお客さん入ってきちゃうから」
「はい」
「さて、俺たちも飯食うかー。小夜ちゃん飯食ったあとだけどなんかいる?」
「大丈夫ですよー」
「じゃぁあまったプリンあげるよ。まだ食えるなら」
「じゃぁもらいます」

 みんなはご飯を食べ、私はプリンを食べた。

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