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聞いたらもう何?
授業中ぼーっと外眺めてたらプールに人が浮いてたから死んでるのかと思って走ってきちゃった。泳げもしないのにって。
マジなんなのこの子。
しかもすげー必死で。
思わず笑ってしまった。
「面白いね。あんた何年?」
「1年です…」
「何組?名前は?」
「…4組の小日向《こひなた》です…」
珍しく名前なんて聞いてしまった。
ただ、笑っちゃったけど流石に申し訳ないから。
「汚かったでしょ、プール。制服も最悪だろうからシャワー浴びてきたら?」
「え?」
「あ、大丈夫。嫌なら俺どっか行ってるから」
「いえ…あの…タオルは…」
「ん?あ、あぁ、気にしないで」
タオルを貸してやったらそんなんだし。破天荒っぽいくせになんかそーゆーところはちゃんとしてるというか。
全く持って掴めないタイプの子。
丁度俺の教室もすぐそこだし、ジャージでも貸してやるかと思い、少し歩いた教室の窓を開け、侵入。全身びしゃびしゃ、しかもお久しぶりな状況にみなさん唖然。
「お、おい、浦賀…!は、入るときはせめてドアから…」
とか言う的外れなことを先生が言ってるが無視してジャージを2組だけ取り、窓から退散。だって、この状況は窓が一番近いんだもん。教室が一階でよかった。
そいつは次の日律儀にも洗濯までして、岸本に案内されてカウンセリング教室までジャージを返しに来たのだった。
面白いやつ。
初めて出会うタイプだった。
この小日向小夜《こひなたさや》とはそれからしばらく、屋上で一緒に昼飯を食う仲になり。
それも最初は、俺が根負けしてその日だけのつもりだった。
ところが。
「明日からここでお弁当を食べましょう。みんなで!」
とか言い出すから。
「えー…」
「お昼だけ学校に来るのでも構いませんので。なんならお弁当作ってきますから」
「…あんた変わってるね」
「よく言われます」
「褒めてないけど」
「だって、おかしいんだもん」
「は?」
そう言う小日向小夜は凄く楽しそうで。
「いきなり水に浮いてるしなんかカウンセリング教室通ってるしヤンキーだし、仲悪そうにしてるけど実は生徒会長となんかありそうだし。私気になっちゃった。
そのくせ意外と律儀だしなんか感性豊かみたいだし。ちょっと面白そうじゃないですか」
「…なにそれ」
「いいです。勝手に私が気になっただけなんです。
私は、気になったものは放っておかないようにしています。単なる気休めですけど、そうしないと失う物がたくさんあると思うんです。それは嫌なので。私の変な癖に付き合わせてすみません。嫌なら嫌で構いません」
そんな真っ直ぐに言われてしまっては…。
はっきり言って苦手なタイプだ。だけど俺は俺で、こいつに少し興味は持った。
それから毎日、カウンセリング教室がない日も昼にはちゃんと学校に行くようにしていた。
特に大した話をするわけでもない。本当に雑談ばっかりで。
だけどなんだろう、そんな当たり前な日常が。
懐かしいような、色濃いような。
澄が死んでから一年を振り返ることが、小日向さんと会って増えた。
この一年俺は一体、何してたんだろう。
凄く灰色で濁った生活をしていたような気がする。
「浦賀」
「ん?」
とある放課後。
そう、放課後。
あろうことか最近この眼鏡野郎と一緒に下校なんかしていて。
「最近なんか楽しそうだな」
「…うん、そうかも」
「久しぶりに澄に挨拶でもしようかな。深景も来たいって言ってたよ」
「え、深景が?」
「うん」
「…どうなのそれは」
「一応申し訳ないと思ってるんだ」
「…いや、思わないはずなんだけど…」
「普通のオスならね。でもお前は別にチンパンジーじゃないからね」
「…お前やっぱ嫌いだな」
「ははっ、嫌いで結構」
無駄に学力があるやつはこれだからムカつく。
「歩、」
「なんだよ」
「あ、怒んないんだ」
「とか言うけどお前たまにそれ呼んでるからね」
「あそう?バレてた?」
「本気でムカつくな。用件なんなんだよ」
「このタイミングも変なんだけど。
俺お前のことを疑ったことないから。
…通夜の時さ、ちょっと、誤解されるような聞き方したかなってちょっと引っ掛かってたんだけど」
なんでそれ今言うかな。
「…それ別に…今?
てか、ずっとそれ胸に秘めてたわけ?」
「…まあ。
それでだってさ、なんか…」
こいつ、ホントにバカだなぁ。
「あー、はいはいはい!いいよもう、てか忘れてたってか覚えてないわ。
お前は女子か。うじうじしやがって」
「悪かったな。でもわりと重要…」
「そうでもないよ。お前はなんなの?昔からなんっつーか下手くそってか引きこもりかよ」
「いや、それお前に言われたくないんだけど」
「うん、確かに。でも言われるんだよバカだなぁ」
「うるさいなあ」
「まあはい、お気持ちだけ頂いときますよ」
頂いたもんがカビ生えてそうでぶっちゃけ怖いけどな。
不器用を通り越してこいつは不細工と言うかなんだろ、形が歪すぎる。んなちまちましたこと気にすらしないっつーの流石に。
そんなことまで気にしてやってる器ねぇよ。
でも、まぁ、こいつなりの気遣いなのは、皮肉なことにわかってしまう。付き合いが長いからいいが、他でやったらこいつただのウジ虫野郎だぞ。
「お前さ」
「何?」
「童貞だろ」
「…残念だったな」
「は?ちょっと待って知らないんだけどってかええー…嫌だわ」
「とことん失礼なやつだな。お前ほどは遊んでないがな。てか俺、最近気付いたんだ」
「え、なに怖い」
「うん、爆弾投下かも。
俺バイセクシャルかもしれないんだ」
…それはつまり。
「俺には返信できない解答だよ」
マジか。
その日岸本は澄に線香をあげて帰っていったが、どんな会話をしたか、とかそれからどうしたかとかあまり覚えていない。
突然のカミングアウトに頭がついていっていないのだ。
だが帰り際に、
「あー…浦賀」
「なに?」
「あれ冗談ね」
「は?」
「その…俺がバイセクシャルだって」
こんな言いにくそうにしてやがって何が嘘だ。
「お前昔から嘘下手。なんかあったの?」
「いや…」
「そう」
「たださ」
「うん」
「ちょっとわかんなくなってるっていうか…うん、そんな感じ」
「好きな人でも出来たか」
「そんなとこかな」
「春だねぇ…。
まぁ、気を付けて帰れよ」
「うん。聞いてくれてありがとう」
「あぁ、こちらこそ」
と言えば、手を差し出して来るので握り返す。強い眼差し。
大丈夫、お前わりとメンタル強いよ。
そのまま岸本は名残惜しそうに帰っていった。
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