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 そしてその日の昼から、また三人で昼飯を食べて。
 小日向さんのお兄さんが残した怪文書や、本の話で盛り上がり、そこから、一緒に図書室に行くことになった。

 だが途中で、職員室に寄るのを思い出し、担任に挨拶をした。
 担任は俺の退院を涙目で喜んだ。
 この人、意外と良い人なんだよなぁ。

 それから図書室に寄った。
 そこには、一喜がいた。

 一喜と俺は、暫し見つめ合った。あれ以来、一喜とは会っていなかったし連絡すらしていなかった。

 全然変わらない。ただ、なんでこんな時間にここにいるんだろう。

「…あっ」
「…一喜?」

 漸く一喜が俺だと認識すると、とても挑戦的目で見て冷めたように笑い、「久しぶりだな、歩」と言った。やはり酷く軽蔑している。

「うん…久しぶり」
「まだ居たんだな、お前」
「まぁね…」
「よりによって、こんな時に会うなんてな」

 皮肉のように言う一言。なんだろう、意味がよくわからない。

「…なんで?」
「知らない?」

 一喜が溜め息を吐く。諦めたように笑うが、なんだか、言いにくそう。

「今謹慎中なんだよ、俺」
「…どしたの」
「皮肉にも無実の罪を被せられてな。俺が苛めというか…カツアゲしたってさ」
「えっ…?一喜が?」
「ああ、俺が」

 そんなわけがない。
 あの、一喜が。

「…やってないんでしょ?」
「そんなこと、するわけねーだろ」

 不機嫌に顔を反らし一喜は背を向けた。

 聞き方が悪かったな。
 だが、そんなのに構ってられない。

「一喜、それ、誰が言ってんの?」
「え?」

 俺はまた繰り返したくはない。

 一喜、お前はそんなことをするやつじゃないって、俺は昔から見て知っている。そーゆーこと、人一倍嫌いだった。お前はそーゆーやつだった。

「…歩?」
「どうして、そうなったの?」

 沈黙が流れる。

「…お前にはかんけーねーだろ、歩」
「…まぁ、そうだけど」
「今更優しくしないでくれ。俺、どうして良いかわかんないんだから」

 そう言われてしまっては。
 俺は何もお前には返せないんだよ。

「…まぁ、そうだね…。悪かったな。じゃぁ、小日向さん、放課後」
「はい…」

 どうしたらいいかわからず、図書室を去った。

 一喜の、なんとも言えない切ない顔も、俺のこの想いも。
 俺たちには、思った以上に障害がある。思った以上に前には進めていないらしい。

 お前にも前は向いて欲しい。だけど俺がそれを言うのは間違っている。だったら言わないで前を向かせてあげられたら…それが一番いいんだろう。

 こんなときに、今更、本当に今更思う。

 何が正しかったんだ?
 澄を守りたかったんだ。だけど…。
 だけど、どうしてこんなに罪悪感に駆られるんだろう。なんで、嘘を吐き続けてごめんって、激しく思うんだろう。

 一人になって、学校の中庭でそんなことを思った。

 てか、まずは一度考えるのをやめよう。迷宮に今なら入りそうだ。

 そうだ、菓子折りを買ってこよう。小日向さんのお兄さんたちに。

 それから出来るだけそれを考えないようにして放課後を過ごした。

 小日向さんが働く“Hydrangea”は、とてもいい店だった。

 どうせなら、一番上のお兄さん(仮)の、みっちゃんさんに会いたかったけど、生憎不在だった。

 最初は正直緊張しかなかった。事情が事情だし、迷惑じゃないかな、と思っていたが、まさかのバイトの誘いまでされた。

 小日向さんは、人々に本当に恵まれている。

 俺はどうだっただろうか。
 俺だって、守りたい人はいる、いた。

 今出来ることはなんだろう。俺は今、あいつらとどうありたいんだろう。

 そう考えたら想いなんて一つしかなくて。
 澄、俺って多分最低かもしれないんだけどさ。
 ちょっと気持ちが揺らいでるんだよ。今だから、どうしていいかわからないから。考えるより、動くしかないのかもしれないね。

 春の、日が延びた夕方の暮れの空が刺さるように染みる。

 俺はでもさ、ずっとお前にとって長い間、少なくともお前の一生分は、最高の兄貴でいられた?

 どうかな?
 答えてなんてくれねぇよな、澄。
 まぁいいや。
 俺は俺でやってもいいかい?いい加減。

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