12
そしてその日の昼から、また三人で昼飯を食べて。
小日向さんのお兄さんが残した怪文書や、本の話で盛り上がり、そこから、一緒に図書室に行くことになった。
だが途中で、職員室に寄るのを思い出し、担任に挨拶をした。
担任は俺の退院を涙目で喜んだ。
この人、意外と良い人なんだよなぁ。
それから図書室に寄った。
そこには、一喜がいた。
一喜と俺は、暫し見つめ合った。あれ以来、一喜とは会っていなかったし連絡すらしていなかった。
全然変わらない。ただ、なんでこんな時間にここにいるんだろう。
「…あっ」
「…一喜?」
漸く一喜が俺だと認識すると、とても挑戦的目で見て冷めたように笑い、「久しぶりだな、歩」と言った。やはり酷く軽蔑している。
「うん…久しぶり」
「まだ居たんだな、お前」
「まぁね…」
「よりによって、こんな時に会うなんてな」
皮肉のように言う一言。なんだろう、意味がよくわからない。
「…なんで?」
「知らない?」
一喜が溜め息を吐く。諦めたように笑うが、なんだか、言いにくそう。
「今謹慎中なんだよ、俺」
「…どしたの」
「皮肉にも無実の罪を被せられてな。俺が苛めというか…カツアゲしたってさ」
「えっ…?一喜が?」
「ああ、俺が」
そんなわけがない。
あの、一喜が。
「…やってないんでしょ?」
「そんなこと、するわけねーだろ」
不機嫌に顔を反らし一喜は背を向けた。
聞き方が悪かったな。
だが、そんなのに構ってられない。
「一喜、それ、誰が言ってんの?」
「え?」
俺はまた繰り返したくはない。
一喜、お前はそんなことをするやつじゃないって、俺は昔から見て知っている。そーゆーこと、人一倍嫌いだった。お前はそーゆーやつだった。
「…歩?」
「どうして、そうなったの?」
沈黙が流れる。
「…お前にはかんけーねーだろ、歩」
「…まぁ、そうだけど」
「今更優しくしないでくれ。俺、どうして良いかわかんないんだから」
そう言われてしまっては。
俺は何もお前には返せないんだよ。
「…まぁ、そうだね…。悪かったな。じゃぁ、小日向さん、放課後」
「はい…」
どうしたらいいかわからず、図書室を去った。
一喜の、なんとも言えない切ない顔も、俺のこの想いも。
俺たちには、思った以上に障害がある。思った以上に前には進めていないらしい。
お前にも前は向いて欲しい。だけど俺がそれを言うのは間違っている。だったら言わないで前を向かせてあげられたら…それが一番いいんだろう。
こんなときに、今更、本当に今更思う。
何が正しかったんだ?
澄を守りたかったんだ。だけど…。
だけど、どうしてこんなに罪悪感に駆られるんだろう。なんで、嘘を吐き続けてごめんって、激しく思うんだろう。
一人になって、学校の中庭でそんなことを思った。
てか、まずは一度考えるのをやめよう。迷宮に今なら入りそうだ。
そうだ、菓子折りを買ってこよう。小日向さんのお兄さんたちに。
それから出来るだけそれを考えないようにして放課後を過ごした。
小日向さんが働く“Hydrangea”は、とてもいい店だった。
どうせなら、一番上のお兄さん(仮)の、みっちゃんさんに会いたかったけど、生憎不在だった。
最初は正直緊張しかなかった。事情が事情だし、迷惑じゃないかな、と思っていたが、まさかのバイトの誘いまでされた。
小日向さんは、人々に本当に恵まれている。
俺はどうだっただろうか。
俺だって、守りたい人はいる、いた。
今出来ることはなんだろう。俺は今、あいつらとどうありたいんだろう。
そう考えたら想いなんて一つしかなくて。
澄、俺って多分最低かもしれないんだけどさ。
ちょっと気持ちが揺らいでるんだよ。今だから、どうしていいかわからないから。考えるより、動くしかないのかもしれないね。
春の、日が延びた夕方の暮れの空が刺さるように染みる。
俺はでもさ、ずっとお前にとって長い間、少なくともお前の一生分は、最高の兄貴でいられた?
どうかな?
答えてなんてくれねぇよな、澄。
まぁいいや。
俺は俺でやってもいいかい?いい加減。
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