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 4人で歩の家を出た。歩は、“彼女”の代わりの深景を家まで送るらしい。

「日が長くなったなぁ」

 ぼんやりと、まだ沈まない太陽を見つめて歩は呟いた。

「そろそろ夏休みだからな」
「そう言えば俺さっき決めたんだけどさ、また行こうかなって思ってるんだ」
「え?」
「アイルランド」

 隆平がそう、ふと言う。

「夏休み?」
「うん。そんなに長くじゃないけど。大学あっちに行こうかなって…」

 そっか。

「寂しくなるけど、いいな、夢があるって」
「一喜は?」
「俺かぁ…どうしよっかなぁ」
「せっかく良いとこ出てるんだし、大学行ったら?」
「…深景は?」
「私は、大学出て…幼稚園の先生になりたい」
「うわぁ、すげぇ向いてんな」

 想像が出来てしまう。深景が園児達に囲まれている姿が。

「深景は面倒見すげぇ良いもんね。
 なんかさ、岸本は将来さ、ITの社長とかやってそう。一喜は幸せな家庭を築いて、老後はゆったりみたいな」
「なんだよそれ」
「ま、将来なんてわかんないよね。俺は明日のことだってわかんないもん」
「しっかりしろよ」

 軽い口調で隆平は言ったのだろうけど。歩は凄く真面目な顔で、「…そうだね」と返した。

 深景の家の近くまで来た。この辺で俺たちはお別れだ。

「じゃぁ、また学校でな」
「あぁ、また…」

 次はいつ会えるか分からないけど。
 歩と深景に手を振ると、二人は歩き出した。

 久しぶりにみんなと会えて、昔のような時間を過ごせた。

「隆平」
「なに?」
「久しぶりに楽しかったよ」
「うん、そうだな」
「俺ずっとさ、歩とどう付き合っていいかわかんなかったんだよ、あれから。
 だってもしかしたらさ、澄は理穂が原因かもしれないし、歩が、理穂を思って…とか色々考えたら結果、やっぱり俺は理穂の方に立たくちゃならないなと思ったし」
「うん」
「でもさ」
「一喜さ、歩の家に来る前、俺に何か言いかけてたよな?何か、言いたいことあった?」

やっぱり言おうかなぁ。

「…うん。
 最近、理穂、帰ってこないんだ」
「え?」
「うん」

 俺はいつも、兄貴としてはホントに三流品なんだ。

「帰ってこないって…?」
「最早どこにいるかわかんねぇんだ。たまに帰ってくる。あの事件以来、あいつ、ちょっと悪くなったって言うか…」
「一喜…。なんで言ってくれなかったんだよ」

 言ったところでさ、隆平。

「そんな顔するってわかってたからだよ」
「だって、」
「それにさ、見栄くらい張らせてくれよ。俺だって兄貴やりたかったんだよ。けど」

 多分、もう…。

「俺さ、例え本当は歩が澄を殺したとしても、今なら少し気持ち、わかる気がするんだよ。今なら、葬式の日に罵って決別したりしないんだ」
「一喜、」

 あぁ、もう。
 話さなきゃよかったけど。

「はい、ごめん!
 今更何言ってんだよな、俺がさ。この話、やめよう!」

 隆平は俯いてしまった。
 どこかで、わかってたんだけどな。隆平に話せば隆平がこんな顔をするのは。

「隆平、」
「ごめん、何も、俺は何も…」
「いいよ別にさ。りゅうちゃん、」

 まるで隆平はこの世の終わりみたいな顔をして俯いた顔を上げるから。やっぱりこっちがしっかり笑ってやらなきゃならなくて。

「話せてよかったよ」

 ホント、それだけで充分だ。

「俺も、聞けてよかった…。こんなことしか出来ないけど…」
「充分だよ。ありがとな」

 いつもこんなにも、誰かがいてくれたんだ。こんな些細なことにすら俺はずっと、気付かなかった。

 家の別れ道に差し掛かる。

「今日は本当に楽しかったよ、よかった。
また明日、学校でな」
「あぁ…また…」

 笑顔で、別れることが出来た。
 言葉は溢れ出ようとするくせに、どこにもないんだ。

 俺は二つくらい秘密を言っていない。
 でもそれは言わないのが多分正解だ。

 ひとつは、小夜が、何者かに店に押し掛けられてから、あのビラのくだりがあったということを歩に言っていない。

 何者かはわからない。

 俺の時も、自宅の郵便受けに散々嫌がらせのビラやら写真やらが入っていた。多分犯人だ。歩が、理穂を犯した犯人じゃないと言いきれたのは、それがあったからでもある。

 俺のことや小夜のこと、これが同一犯だったら。
 今の歩なら何をするかわからない。
 だが引っ掛かる。
 犯人が笹木だったとしたら。どうやって小夜の情報を仕入れたのだろう。

 果たしてこの事件、首を突っ込んで解決して良い物なのだろうか。
 考えているうちに家についた。

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