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私はずっと、
多分、出会ったときからずっと。
歩くんが好きで好きで堪らなかった。
「深景ー」
「なぁに?」
「ほらほら見ろよー。これ」
そう歩くんに呼ばれて行って見てみると、蟻《あり》の行列があって。
「働き蟻だよ」
「はたらきあり?」
「そう。餌を運ぶんだってさ」
「へぇー」
そんなつまらない会話が楽しくて。
「ねぇねぇ見てよ深景」
「なになにー」
「鯉に餌あげた。桜と一緒に食べてるよ」
「ほんとだー!」
なんだか、お兄ちゃんといるみたいで、いろいろな発見があって。
人生が、日常が、いろいろな色に染まっていくのが楽しかった。
「深景ってさ、」
「ん?」
「なんか、綺麗だよね」
「えぇ?」
「ほら、澄が初めて会ったとき言ってたでしょ?『お人形さんみたいだね』って。あれ、確かになって思う。
でもさ、お人形さん、よりはちゃんと、何て言うか…人間っぽいし。例えばさ、桜も綺麗だし鴉《からす》はうるさいし、セミは怖いし」
「うん」
「そーゆーとこ、やっぱり綺麗だよね」
その歩くんの一言で、私は気付いたんだ。
あぁ、好きなんだって。
その微笑みを思い出すだけで、私は未だに幸せになれる。
それで性的快感だって得られる。
それくらい好きだ。
なのに。
「私さぁ、歩くん好きかも」
「え?」
誰にも相談していなかった。
まず私はそのころ、この気持ちに気付き始めた頃だったから。
「だってさ、歩くんかっこいいし」
「うん…」
「やっぱり年上の彼氏って、よくない?」
「…うん」
バカじゃないのかと思った。
理穂はこうやってすぐ、ころころと好きな男が変わる。
「あれ?だって昨日、隆平くんに…」
「ちょっとやめてよ!フラれたもん!
でも考えたんだけどさぁ、りゅうちゃんは背が高いから好きだっただけなんだよね」
「…そう、なんだ」
それであんだけ騒いだの?
「…深景ちゃんは?好きな人とかいないの?」
「え?」
怒りが沸いてきた。
なんなの?
「いないよ」
私はこんなに一途なのに。
「だよねー。ぽい」
黙ればいいのに。
それからずっと理穂は歩くんが好きだったようだけど。
私だって、好きだった。私の方が、遥かに歩くんを好きだった。
だけど、ずっと隠してきた。
理穂のこと、応援はしないけど、後ろめたいのは嫌だったから。
「はい、もしもし」
孝雄の声で回想から我に返った。
あれから二人でずっと、ご飯を食べたりセックスしたりして時間を潰していたら夜になった。
ほとんどセックスしていた。
セックスのほとんどを、私は孝雄から教わった。おもちゃも体位も場所も。この、忌々しい男からほとんど全てを吸収した。
「…わかった、掛けるわ」
そう言って孝雄は電話を切った。
「椎名理穂がバックれたってよ、今日」
「…あんたから電話して」
「はいよ」
孝雄が電話を掛ける。
「あぁ、もしもし理穂ちゃん?相手先から聞いたけどバックれたって?
あ?何?明日?だめだめ遅いよ。覚悟しとけよ」
それだけ言って孝雄は電話を切った。
「まずいな」
「何が?」
「怪我したとか言ってたが…雰囲気的にありゃぁ家にいたっぽかったな」
「え?」
「…バレたかな」
最悪だ。
「どうすんのよ」
「…考える。一回帰るわ」
最悪だ。
ここまできてバレたら元も子もない。
最早ここまでか。これは身の安全を確保しなければ。
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