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3ヶ月ほど前、突然柏原《かしわばら》さんに宣告をされた。
「実は俺さ、店持ちたかったんだよ」
と。それだけだったら、へぇそうですか、店建てちゃうんです?と言えたのだが、彼はそれをさらに越し、
「お前ら二人、来てくれるよね?」
と、バイト帰り、カラスでの飲みの席で軽く言われたもんだから、
「そりゃぁ呼んでくれるならね、俺はいつだって行きたいですよ」
と、俺も軽く答えてしまって、|光也《みつや》さんも「あぁ、まぁそうだね」とか言っちゃって。
「ホントに?いつでも?実はね、そろそろ店出来るんだよー」
なんて嬉しそうに言われてもね、二人でハモって「はいぃ!?」としか言えないじゃん。急すぎて。
「いやー、やっと夢叶ったよー」
「いや、え?急じゃねぇ?」
「急じゃねぇよ?店なんてポンと建つわけねーじゃん。農業ゲームのやりすぎじゃないかお前」
「いやそうっすけど、てかやってねぇし。そこはわかってますよ?俺も一応学生とはいえ大人だからね?そうじゃなくて。
え?打ち明けるの急すぎませんか?」
「いやー、言おうと思ってたけどなんかお前ら大変そうだったからさー、言うタイミング逃したよね」
何言ってんだろこの人。気ぃ使ってるようでまったく使えてない。
「でさー、最近お前ら見てるとメンタルボロ雑巾だから口説くなら今かなってさ」
「前から思ってたけどわりとクズだよなおっさん」
「あんねー、こんくらいじゃないとやってけねーぞ若造」
光也さんはいつもの氷くるくるをやめて山崎を一気に飲み干した。
「お、いいねいいね」とか言って柏原さんも久保田千寿《くぼたせんじゅ》を煽るように飲む。
すかさず光也さんは鳥飼《とりかい》と千寿をオーダー。俺も何か飲むか聞かれたが取り敢えず断った。
光也さんが静かにセッターに火をつけ始めると、流石に空気が少し変わった。
「…まぁ俺はいいけどさ。いつ出来そうなの?」
「そこは抜かりない。一ヶ月くらい。お前らが明日にも辞める申請したらちょーど良いくらいかな」
「余裕ないねぇ…。
ただ真里《まさと》は卒論とかあるからさー、その辺は?」
「俺別に無茶苦茶ゆるーいゼミだから、なんだったらこっから卒業まで行かなくていいんじゃね?って勢いだよ」
「マジかよ。大学ってやっぱすげぇな」
「まぁちょっと言い過ぎたけど」
普通信じないだろそこ。
「まぁすぐじゃなくていーよ。俺も言い過ぎたから」
「いやそこ言い過ぎるか!?まぁええわ明日な。
俺と真里はあんたんとこで何やったらいいの?」
「光也はバーテン、真里は料理。どうだ!」
光也さんは運ばれてきた酒をまた一気に飲んで次をオーダーした。最近ずっとこんなんだなぁ。
「また勉強せんとな…。
今日はおっさんのおごりやからな」
「うん、最初からそのつもりで来たからいいよ。
お前どうした?」
「別に。明日休みやしええやろ。
はー、楽しみやねぇ」
ふと柏原さんが俺の顔を見た。取り敢えず目線で合図。
でも確かに、久しぶりに光也さん、少し嬉しそうかな。小夜《さや》がいなくなってからなんとなく、酒に溺れていたが楽しいと言う言葉なんて出てこなかったからなぁ。
ある意味やっぱ、この人すげぇな。何か話たわけじゃないけどなんとなく心を読んでくれるから。
「まぁたまには飲めや。酒は楽しい方がいい。喜んでくれて何よりだ」
「まぁクソみてえに突然やったけど、あんたらしくてスカッとするわ。俺はあんたのそーゆーとこ好きやわ、結婚しよか」
「真里、ちょっとこいつの調教ヘタクソなんじゃないか?」
「ちげーよ。その人はいーの、アホだから」
「まぁねー」
今のちょっとぐさっと来たからな。
当の本人知らん顔してトイレに行ってしまった。帰ってこなかったら迎えにいくパターンじゃねぇか、これ。
「俺さ」
「はい?」
「あいつの飲み方嫌いなんだけどさ。今日は、まぁ嫌いなんだけど、それでもまだいい方じゃね?多分」
「だいぶマシ。てかわりと幸せそうだけど?」
「そっか。ちょっとさ、言っちゃマズかったかなって気もしたけど」
「いや、返って感謝します。あの人ホント最近ヤバかったから。突然すぎてちょっとなんだよって思うけど、逆にタイミングよかったかな」
「然り気無く悪口言ったね今」
その日から、俺達の慌ただしい3ヶ月が始まった。
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