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 それから2ヶ月があっという間、忙しく過ぎた。気が付いたら12月に入ろうとしていたころ、休憩時間に柏原さんが、「あんさ、クリスマスどうしよっか」と言ってきた。

「はい?」

 それは彼女に言うべきじゃないのかと思ったが、ふと店のカレンダーを見ると、平日であることに気が付いた。

「あぁ、なるほど、お店の企画ね」
「そうだよー。酒は光也にシャンパンの発注数任せるとしてもさ、料理だよー」
「あそっかシャンパンか。置く場所考えないとなー」

 光也さんは棚を見て溜め息。確かに最早置く場所を、今の状態では考えなくてはならないだろう。
 「発注変えたらいけるかなぁ…」とか一人でぶつぶつ言いながら考え、しまいには棚から酒を出し始めた。

「光也、いまは休憩だから仕事スイッチOFF!」

 とか言って柏原さんが光也さんの後頭部を人差し指でぐりぐりやってみる。

 …ダメだ、聞いてない。しまいにはウザかったらしい、パシッと払われてしまっていた。

「あぁぁ…やっちまった」
「いいんじゃね?最早これはこれでもう休憩楽しんでんだよこの人」
「本題そっちじゃなかったのに…」
「料理は仕方ない、俺が考えよう」
「てかいいや…あいつがこっちの世界帰ってきてからにするよ…。真里、外行こ…最早プライベートになる俺も」

 自分で蒔いた種はどうやら蒔いたまま放置するらしい。
 仕方なく付き合い、自販機まで歩いていく。

「お前らさ、クリスマスどうすんの?」
「はい?」
「いや、真里の電撃告白とかさ」

 いきなり何を言い出すんだこの人は。でも目がめちゃくちゃ期待してる。

「何って、店入ってるじゃん」
「んなのわかってるよ、てか、んなキリシタンイベントごときで休ませないわ。あ、ちょっと仏教イベントのときは客足無さそうだから考え中だけどね」
「素直にクリスマスと正月って言ってよ誤解生むから」
「場所柄的には正月ど〜かなぁ〜」
「いや聞けよ」
「まぁ仕事はいいとして。お前らさ、一緒に暮らし始めて初の一大イベントっしょ」

 そう言われてみればそうだ。二人で何かってのはとくに何もないな。

「まぁそういえば」
「その調子じゃまだなんも考えてないな」
「いや、そりゃそうじゃん?だって男二人ですよ?」
「まぁ、でもちょっと特殊じゃん」
「ん〜」

 そこを突かれると確かにそうなんだけどさ。

「そう言うお宅はどうなんすか」
「俺?」
「うん」
「んー…そうなんだよ…。何がいいかなぁ…」

 まったく人ん家のこと考えてる場合かよ。

「俺も立て込んでたからなぁ…。まぁお前らもだよね」
「付き合ってどれくらいなんです?正直俺らわりと衝撃受けましたよ。あんたに女いたって。最近?」
「んー。まぁあんまそうだよね。私生活とか話さないもんね。最近…ではないかもね」
「なんだ煮えきらないなぁ。まぁ別にいいけどさぁ。まぁいい歳だから結婚とかなのかなとか考えるとさ、あげるもん変わってきそうだし…とか色々思ってさ」
「んー、ありがと。まぁそうだねぇ…。テキトーになんかゲーム機でもあげとくかな」
「ゲーム機って…」

 思わず笑ってしまった。まさか本気で言ってないよな。

「え?暇潰しにはよくね?」
「あーね。俺が彼女だったらまずキレるけどね。おもしろいね」

 まぁちょっとここは訳ありっぽいな。なんせこんだけ長くやってても柏原さんの素性はわかんないし正体すらあれで漸く少しわかったくらいなんだからな。法に触れてないことだけは祈りたい。

「じゃぁ!そーゆーお前は?」
「え、俺?えー考えてなかったな」
「お前だからダメなんだよ。マメじゃない男は嫌われるよ」
「だからさ、俺らさ」
「あー、はいはいはいはい。これがさぁ、良い機会じゃん告っちゃえよ」

 あれ、この人知らないの?

「いや俺一回告ったよ」

 暫し沈黙。

「えっ。嘘ぅ!」
「いや嘘ついてもしょうがないでしょ」
「は、え、あ?おっさんパニックなんすけどは?」
「一緒に住むとき然り気無く」
「え、え!詳しく知りたいなにそれちょーおもろい」

 面倒だな。

「いや大筋は前話した通りですよ。一緒に住もうって話の時俺告ったって言いませんでしたっけ?」
「聞いてないよ!は?え?あいつがガキ連れ込んでからちょっとした自殺未遂からやべぇから一緒に住んだ、親了承だよな?」
「うん。なんか色々日本語間違ってるけどまぁまぁそう」
「なぁんだよ!あぁなるほどね!
 え?それってさ、付き合ってんの?」
「いや、ないない」
「あ、そこはそうなんだ。はぁ…お前らやっぱ面白いな」

 なんか妙に一人で納得したらしく、うんうんと頷いた。

「一言じゃ表せない関係だな、お前らもさ」

 まぁ確かにね。そうなるよね。

 それを聞いてより楽しそうに柏原さんは店に一人戻って行った。「光也ー!ココア買ってきたよ!」とか言いながら。

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