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「クリスマスで思い出したんですけど」
「どうしました?」
「家に不在表が入ってたんですよ、クリスマスの日に」
「贈り物ですか?」
「普通なら疑わないでしょ?しかしね、不在表の受取人の欄に俺の名前、差出人にも俺の名前が書いてあったんですよ」
「えっ、なにそれ怖い」

 なぜか柏原さんも参戦。興味持ったのかな。

「怖いでしょ?俺そのとき一人暮らしだったし。覚えがないわけですよ」
「それ詐欺ですか?俺その手の詐欺一回引っ掛かりましたよ。いや、引っ掛かってはいないけど…着払いとか代引とかになってて」
「え、おっさんまさか払っちゃったの?」
「まさか。送ったやつに喧嘩売ってんのかって言っとけって言ったらその場で宅配の兄ちゃんがすっげー申し訳なさそうに、喧嘩売ってんのかって言って荷物持って帰ったよ」

 うわぁ可哀想に宅配の兄ちゃん。めっちゃ光也さんと柏原さんとお客さん盛り上がってるし。

「その話面白いですね!」
「お客さん、どうやらその感じだと詐欺じゃなかったねきっと」
「詐欺ではなかったですね。
 よく見たら25日の不在表二枚目だったんですよ。一枚目が24日。しかも一枚目は、フルネームで差出人も受取人も書いてある、二枚目はご本人様って書き方なんです。二枚目から見た俺からしたらかなり怖いわけですよ」
「想像しただけで怖いそれ」

 然り気無くお酒を聞いて出してあげてる光也さん、最初よりやっぱ慣れたなとか思って見ていた。

「これはもはや住所知ってそうな知人に聞くしかないと思いまして聞こうと思ったら、親か彼女しかいないわけですよ」
「ほうほう」
「親に聞いたら、未来の自分に送っといたんじゃないかとかワケわかんないこと言われるし」
「うわぁ、そのパターンだったらすっげぇやだ」
「大体なんで過去の自分が今の住所知ってんのかって話でしょ。いつ送ったか知らんけど。でもそう思ったんだけど…実ははそのパターンだったんですよ」
「えぇえ!」
「まずどうやって?問い合わせたの?開けちゃったの?」
「不在表のチェック欄、着払いでも代引でもなかったから、取り敢えず問い合わせたら、なんかゆうパックだったみたいで。まぁ爆弾とかでもないのかなぁ…タダだし開けるかと思ったら5年前の自分からの手紙と、指輪。何これってなって。
 読んでみたら、
 5年後もまだこんなクソアパート住んでんのかとか、もしそんときに付き合ってるやついたら渡してやれよとか書いてあって、しかも千円くらい一緒に入ってたんですよ。
 考えたら、確か初入社の初任給とかで。多分舞い上がってたんだなぁって」
「で、その時彼女いた訳じゃないですか?どうしたんです?」
「実はその不在表の流れ話してたんで、開封したとき一緒にいたんですよ」
「ほぅ!で?で?」
「あんたバカだねって。死にたくなりましたよ」
「でしょうね。俺ここの初任給なんて酒と貯金ですからね」
「そ、こいつすっげぇドライだから」

 ああそうだ。クソみてぇに酒買ってきてたな高いやつ。俺なんか喜んでちゃんと封筒に包んで母ちゃんのとこに一万円送ったと言うのに。

「やっすい、どこで買ったかも分からないような指輪、入ってたんですけどね。彼女もらってくれましたよ。いまや妻です」
「えっ!なっ!なにそのオチおめでとうございます!なんかサービスするわ!真里!何か出して!」
「えぇ!?いいんですか?」
「当たり前でしょう!」
「この人こーゆー人なんです。俺からも一杯」

 と言ってそのお客さんはドリンクとだし巻きをサービスされていた。

「あぁ…よかったここにきて。実はね、その彼女、連れ子がいて、その子とうまくいってるんだけど女の子なんです。
 年頃になってきたから何あげようかなって悩んでてなに欲しいって聞いたらなんか今朝、いらないわよ!とか言われて喧嘩になっちゃって…。でもどうやら妻に聞いたら、ママより先になんで私に聞くのよ!ってさ。優しいんだかなんだかわからんなって思って悩んでたんです」
「そうなんですか」
「もしよかったらまた来てください。貴方が次来るまで潰さないでおくんで!」

 そうおどけて柏原さんが言うとお客さんは心の底からという感じで微笑んで、「ぜひ!」と言って、しばらくして帰っていった。

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