1


 朝が来るのが怖いと、いつものように言われては、仕方なく、震える身体を抱き締める。特に、こうして抱いたあとは、やけに不安に駆られるらしい。しがみつくように抱きついてこられては、タバコを吸うにも一苦労だ。

 この女はどうも寝息を立てない。いつでも静かに寝て、たまに寝返りを打つから生きていると分かる。

 前に、それが怖くて布団を剥いで観察したことがあった。寒くなって布団でも被るかなって。だけどそれすらせずに次に起きたときに腹を壊されたので、それは二度とやらなくなった。

 そろそろ本格的にタバコが吸いたい。お前は隣で吸ってると喘息もあって咳き込むからな。そんな罪悪感でこんな嗜好品を味わいたくはないんだよ。

「|静《しずか》、ちょっとタバコ吸っていいかな」
「…うん…」

 と言いつつ腕だけは離してくれないんだよ。まったく面倒だな。

「大丈夫、いなくならないから」

 そう言って頭を撫でると離す。
 必要最低限の衣服を身に付けてリビングでタバコに火をつける。

 タバコをくわえながらコーヒーだけ用意してベランダに出ると、季節のわりにやっぱり朝は寒かった。

 早めにタバコを吸い終えて戻ろうと、窓を見ると静が立っていた。必要最低限の衣服を身に付けて。
 やれやれ仕方ないなと、窓を開けてすぐに抱き締めた。これがこいつを一番落ち着かせると分かっているから。

「眠れないの?」
「うん」
「いま何時?」

 見れば午前5時くらい。これはきっと、俺は寝ずに出勤だ。

「まだ時間あるね」
「うん」

 俺もわりと歳なんだよ?そんなに若くないんだよ?でも仕方ないな。

 最早俺は静の安定剤なのかもしれない。

 そのまま雪崩れ込むようにベットに押し倒して必要最低限を脱がせていけば、なんだか空虚な瞳で受け入れられて。
 確かにその、空っぽな感じ。それは好きなのかもしれないけどさ。

 俺とお前は、一体何なんだろうね。
 恋人とも違う、夫婦とも違う。だからと言ってセフレというほど廃れてもいない。
 だけど俺もお前もさ、お互いに依存しあって溺れ合ってる。何でだろう。本当だったら一夜限りでこんなヤンデレ、捨ててやろうと思ってたのにね。

 キスをしてそのまま下へ唇を落としていけばいつだってちゃんと反応は返してくれる。

 なんだろう、それも堪らないんだよね。普段なら、他の女なら、こんなに丁寧に愛撫しないのにね。
 初めての時なんてお前にホント、悪いことしたよね、多分。欲望のままに色々やったけど笑って許してくれた女なんて他にいなかったんだよね。

「静、」
「ん…何?」
「俺あんま若くないからさ、ちょっとうんざりするくらいでもいいかな?」
「うん…まぁ…」

 こうやって許してくれちゃうんだよね。こっから猿みたいに何回ヤろうとさ。
 なんでかな。全然お前のこと理解出来ないの、俺には。

 愛しい?少し違うな。もう少し惰性は入っている気がする。

 でもこうやって、背中に腕を回されるのとか、そーゆー無駄な鬱陶しさ、嫌いじゃなくて。

「今日は機嫌良いね」

 これならなんも罪悪感なく、お前一人をこの家に置いて仕事に行けるわ。

 全部終わってシャワー浴びてベットを見れば、静はやっぱり寝れないみたいで、ぼんやり座っていた。テーブルに薬の残骸がある。もう暫くすれば、寝るかな。

「起きたら飯ちゃんと食えよ。胃ぶっ壊すから」

 俺には声を掛けることしか出来ない。少しして静が布団に入って目を瞑ったのを見て、漸く出勤する。

- 1 -

*前次#


ページ: