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 茶色い瞳、潤んでいて綺麗。
 薄く微笑み、その耳元から首筋へ、髪をなぜるように触れると、くすぐったそうに、甘い吐息でそのビー玉のような目は目蓋に引っ込んで。

 それから、綺麗な鎖骨。

「やめて、」

 そう言うくせにさ。

 降りて降りて、滑らかな白い肌。けどどうして、首筋に回すその手首には傷があって、腕には青痣があって。

 へそあたりにある傷、赤い、血が出ていて。

 そう、君をあの家で発見したとき、俺、でも綺麗だなぁなんて思ってしまって。

 その傷に舌を這わせて歪んだ表情。けど髪をなぜられるその激しいような優しい手首の傷。それも悲しいほど綺麗。だから、つい手にとって、握ってあげたくなっちゃって。

「んっ、人でなし、」

 あぁ、そうなの俺って。

 そしてその綺麗なんだろう、脚に指を這わせて、声にもならない声で、苦しそうな、でも快楽に歪んだその君を。

「愛してんの、」

 肩を叩かれて。

「…っ!」

 起きた。ライトは電気スタンド。

 大変だ、なんちゅー夢を見…、
うわぁぁ、やっぱ完全に元気ですよどうしよう、どうしよう。
 後ろにはその、夢の中であんなことしてしまった張本人が寝ていらっしゃ…。

 トントン。
 あれ、やっぱり肩を叩いてるな。

 文杜が恐る恐る後ろを見ればにやっと微笑むのが凄く可愛らしくて。
 「おらがおぃ…」と、何かを言っているが、目を閉じている。

 えなに?起きてんの?寝てんの?

「ま、真樹?」

 だが今度は。
 トントン、それから背中の寝巻きを緩く掴んでいるから。

 何これ拷問なの?取り敢えず抱き付いて押し付けてやろうかと体の向きを代え、さっき途中だった脚、試しに裾を捲ってみた。

 すべすべやんなんやし。やべぇ。

 本気で抱き付いて太腿あたりにぐりぐり押し付けて頭の匂いを嗅いでいたら急に横っ腹辺りのシャツを強めに引っ掻くように掴まれ、「い、行かないで、行かないでぇ!」と真樹が絶叫し始めたから。

「え?真樹?」
「う、はぁ、ぁぁ、あっ、まっ、あっ、あぁぁっ!」
「真樹、どうしたの、真樹ぃ?」

 離れて顔を見てみれば、なるほど過呼吸だ。きつく目を閉じて、うっすらと泣いている。

「真樹、落ち着いて…、文杜だよ、真樹?」

 目を開けた真樹は、何を見ているかわからない空虚な目で、「あ、あ?」と、どうやら混乱しているようで。

「真樹。ふーみーと!狂犬!どうしたの、怖い夢、見たの?」
「空に、空に、あの、いっちゃう、落ちちゃう、屋上から、血が、」
「うん、わかった。深呼吸しようね。吸って吐いてって」
「ダメなのダメなの、あぅ、あの、薬を、く、ください、あっ、はぁぁ、」
「…オカモト先生に、聞いてくるか」

 いつの間にナトリも起きて、立って見ていた。

「…待ってナトリ。
 俺が行く。真樹も連れてく。一緒に行こう。
 こんなもん、あるからおかしくなったんだって、そう」
「わかった」

 ナトリが頷いてくれたので。
 文杜は起き上がり、真樹をおぶって隣のチャイムを鳴らした。

 だが応答がない。
 試しにドアノブを捻ればあっさり開いてしまった。なんて不用心な。
 そう思って怒りでナトリよりも先に、真樹の熱い息を耳に浴び動悸を背中に感じながら文杜がリビングを開けると。

「なっ、」

 キッチンの流しに、どうやら吐いているらしい一之江の背中が目に飛び込んできて。

 挑戦的な、しかし弱りきった表情で「よぅ…」と掠れ声で振り向いて言う一之江の口元には血が、付着していた。

「あんた…」
「よぅ、ちゃん…、はぁ、」

 ナトリも後ろから見つめる。それから「うぇっ、」と嘔吐いて一之江は血を吐き出していた。

「ちょ、なっ、」
「よ、ちゃん、いや、」

 真樹の動悸が激しくなっていく。
 どうしよう。

「見んじゃねぇ!」

 一之江は叫んだ。そして今度は「ごはっ、」と喀血し、寄り掛かるようにシンクに凭れた。

「はぁ、…なんだ、ど、した、チビぃ」
「いや、あんたがどうした」
「あ?うる、せぇよ、薬を、ミスったんだぉ、んなことより、そいつはぁ?」
「文杜、おろ、はぁはぁ、うぁぁ、降ろしてぇ、はぁ、あん人、死、」
「バカぁ、死ねねぇ、国木田ぁ!」
「はい、はい、」
「わりぃ、ちょっくら、隣電話してくれ。引き取り人はぁ、“サイトウヨシミ”で、な…」

 腹を押さえて一之江はぶっ倒れた。

 「いやぁぁぁぁ!」真樹の絶叫と、ぶん殴ってくるそれを、押し止める以外の役目を文杜は知らなかった。

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