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「…その薬が真樹に合わないんじゃねぇかと思って色々試したんだよ」
「は?」

 そして西東は睨むように首を緩く曲げて一之江を見る。

「しかも陽介、昔もそーゆーことやってるから胃がめちゃくちゃ弱いんですよ。肝臓とかね。だからあっさり血が出ちゃうのよ。
 大方、いろんな薬も飲んで吐きまくってそうなったんでしょう。そのうち頭もイっちゃうよ?時間ずらすにしたって、結局こうなってるじゃない」
「なにそれ」

 脳に漸く意味が浸透し、「なにそれ、ちょっと…!」と、真樹の感情が爆発。ベットから出て立ち上がってみたが眩暈にぐらつく。

 「おいおい!」と、側にいたナトリが支えようにも「うるさい!」と払いのけてふら一之江につきながら向かって行こうとする真樹を「はーい確保」と、西東が腹を、エルボーかますかのように捕らえる。

 しかし暴れる。

「っざけんじゃ、ねぇよ!んの、クソ医者ぁ!」
「はいはいはいはい。ホントだねぇ、元気だねぇ」
「ちょ、離してマジ、あいつ」
「何に腹立ってるかまず聞こうか」
「だって、だって…!」

 急に真樹は暴れやめ、耐えたようだが無理だったようで。一筋から決壊。それに西東は手を離し、一之江を睨む。

「あんで、んなこと、してんだよバカ!
 ぁぁ、あんた、んなんで、死んだら、洒落になんねーよ!センスねぇよ!」
「真樹…。
 すみません西東?さん。ちょっとこいつすぐ泣いちゃう」

 文杜が心配そうに西東から真樹を受けとる。それには目もくれず西東は「別にいいですよ」とおっとりと言った。

「だってさ陽介。僕もそう思う。
 ただあまちゃん、君はなんて言うか、こう、道徳の行き届いた優しい子ですね。
 でもそれだけです。やってることはそこのセンスのねぇクソ医者と変わりませんよ。君の未来、これから長いってのになんでそんな死んだ目してんのか、でも人の事に、どうしてそんなに目を輝かせられるのか、わかってあげられないのが僕のセンスです。
 僕は陽介のためには泣けません。陽介が患者のために毎回自分を実験台にする意味もよくわかりません」
「確かにそれには同意するけど」
「ねぇ陽介。
 ごみ袋から溢れた空き缶は人々に蹴飛ばされる。僕はそれに水を注いで花を添えたい。いつか話したつまらない戯れ言です。僕には、才能はこれと言ってないから。センスないから。だから君はここで寝ていてください」
「…だから、それは、」

 漸く西東は睨むように三人を見た。

「センスねぇ僕から言いますよ。てめぇら全員センスねぇんだよ。
 悔しかったら1年後僕のところにいらっしゃい。こんなセンスねぇ血ヘド吐いてるアホでもねぇ、見なよ、マウスは逃げずに薬漬け、なんなら自分からハムスターみたいに脱走して逃げて薬を食いに行ったんだよ結果これ、現実これ。
 これを見た君たちの成長を僕はプロデュースしたい。どうだい趣味を見つけない?」
「なぁ、すげぇ良いこと言った風で申し訳ないがよっちゃん、そいつらバンド、やってるようだぞ」
「えっ」

 沈黙が流れた。
 それから西東、「センスなっ!けどセンスある!」というよくわからない一言。
 痛そうにしながら一之江は笑った。

「お前って、とことん引き運あるよなぁ…」
「…あぁ、そうですか。しかし話は早いですね。明後日僕のスタジオに来て下さい。腕を見ましょう」
「え、」
「いや」

 文杜とナトリがどもる。それに対して西東、「なんですか?」と不機嫌そうに腕を組む。それに対して真樹が一言。

「中学の文化祭で一度きりだよ」

 正直に答えた。西東が唖然とする。

「それはやったうちに入るのでしょうか陽介くん」
「入らないな」
「そもそも何故やったのですか」
「いやぁ、俺がその…ヤンキーでやることなくて、やることを作ってくれたんですけど…その、あまちゃんが?」
「生きてねぇな」

 申し訳なさそうに文杜が言うなか痛烈な一之江の一言には、反論不可。しかし気に入らないので舌打ちは返す。

「え、いいことじゃないですか君たち今どうしちゃったの」
「惰性です」
「ホントそれです」
「うわぁ開き直り具合がもう可愛くないねぇ!ダメダメ!じゃぁ明日から!学校帰りに来なさい」
「バイトが」
「しかもそのクソ医者のマンションに引っ越しました」
「はぁ!?なにそのハンパなジゴロ感というかん?なんだそれ」
「いや真樹が」
「ははぁ〜ん。なるほどですね。君、そこまで患いましたか。実は僕もあそこ住んでるからよくわかるんです。ここの隣のマンションでしょ?」

 三人揃って「えっ」がハモった。
 何者だこいつ一体。

「陽介それを早く言いなさいよ君って頭悪いよね。でも好都合じゃないですか」
「いやお前最初から話聞く気なかったよね」
「はい、じゃぁ帰ろう。大丈夫、君たちってついてるね。じゃぁ陽介、精々胃潰瘍治してね」
「いや待て、だから医者は」
「はい、あまちゃん退院しましょーね。お薬はテキトーに飲んどけばいーよ僕わかんないし」
「いや西東さん、ちょっとふざけないでね」
「えまだあるんでしょ?大丈夫大丈夫。アーティストなんて皆最後はヘロインやるんだから」
「おいよっちゃん、いい加減殴るぞ」
「何?対して変わらないじゃんはいはーい」

 やべぇ。
 日本語がまるで通じない。

 初めて会う人種に3人とも唖然。なんだこいつは宇宙人なのか?しかしそんな3人に西東は一言かます。

「大丈夫だよ。
 僕が君たちに世界がどれだけ淀んで美しいか、見せてあげようじゃないか、世間知らずの高校生諸君」

 この一言。
 この時はわからない。だがなんとなく従ってしまった要因で、恐らく、鮮やかな衝撃だったのかも、しれない。

 それから「はぁ…」と、あっさりすっぱりと何故だか退院手続きを済ませ、一之江を置き去りにして魂が抜けたように三人揃って着いて行ってしまったのだった。

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