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 それから。
 考えれば全員、自分の教室の場所すら知らなかった。
 そして思い出したのは荷物。これは確かテキトーに置いてきた昼を思い出し下駄箱へ取りに戻ったら。

「なっ、だこれはぁぁ!」

 ナトリは絶叫した。

「やられたねー」

 トートバッグには見事に、くしゃくしゃになったエロ本が3冊くらいぶち込まれていた。
 被害を被ったのはナトリのバッグだった。

 理由は簡単。

 文杜はそもそも鞄とかバッグとか、そういう類いのものを持ち歩かない。体育着はギターケースにベースと共に突っ込み、空いていた何かの教室へ勝手に置いた。

 真樹もリュックだがこれは帰りを考え、下駄箱の上に置いて貰った。

 被害者ナトリは、下駄箱の一番綺麗な下の段を、「めんどくせぇ」の一言でロッカー代わりにし、バチと体育着しか入っていないくせに口が広く真新しい『Fender』のロゴが入った黒いトートバッグをそこに突っ込んだのが悪かった。
 見事、バカ男子高校生共の餌食となった。

「…ぅ、げほっ、」

 その事情に咳き込みながら真樹は腹を抱えて爆笑。
 文杜も、「うわぁおっぱい」とか言いながらまるで汚いものかのようにエロ本の端っこを摘まんでぷらぷらしている。

 確かにぼろっちいけど。使い込まれた感すげぇけど。なんなのそれ。

「君こんなん好きだっけぇ?えぇ?だいぶ熟女もんじゃねぇかこれ」
「知るかバカ!どっか突っ込んどけよ」

 ちょっと顔を背けるナトリをからかうように、「ほれほれ」と文杜は摘まんで近付ける。心底ナトリが嫌そうなのに文杜は思わずニヤリと笑った。

「えぇ?そこに突っ込んであったじゃない」
「お前エイトビートかますぞクソ狂犬ん!んなんくれてやるわ!」
「その焦り方がまたなんとも言えず童貞臭いね、でも可愛くないなぁナトリは」

 と言いながらちらっと文杜は真樹を見た。恐る恐る狂犬を見上げる様、想像した通りだ。

「見る?おっぱい」
「ごふっ、」

 今度は咳込みながら口を押さえて真樹は吹き出した。かなりウケている。

 だっておっぱい。このクソ狂犬野郎からすげぇ興味なさそうに、というか虫けらかよ、くらいの目付きで「おっぱい」。
 なんなのそれエキセントリック。てかお前は何様だよ。

「えぇ?嘘ぉ、マジで真樹ちゃん。やめよう。多分黒」
「文杜ー、本気で脳ミソ直でエイトビートすっぞコラァ。おいチビてめぇも頷いてんじゃねぇよ捨てなさい、燃やしなさい。お兄ちゃん怒るよ真面目に」
「ナトリやっぱ童貞じゃない?」

 真樹にウケた。いい加減に咳込みすぎてこいつ死にそう。けど地味に文杜は嬉しい。

「ねぇ文杜ぶっ殺していいかなマジで。知ってる?フィリピンにはなぁ、大人になるとき皮切る儀式あんだよやる?やっちゃう?多分カッター真樹持ってるよな?」
「誰が仮性包茎だコラぶっ飛ばすぞクソハゲ台湾!Mother Fuck!」
「あんだとバイチー!ウォリーニー!」
「あちょっ、それはごめんなさい、俺君とはそういった」
「字が違ぁぁう!誘ってない!入れてない!日!日本、ジャパン!そしてスラング!バカかてめぇ!」

 ついに真樹はしゃがみ込んで「ひっ、ひっ〜」と、涙まで浮かべて下駄箱に寄りかかっている。そんなにおかしいかこの下ネタ合戦。だいぶ頭が沸いている。

というか。

 三人それぞれはっと我に返って唖然とした。そして。

「寒ぃぃぃ!」
「ぇっくし、」

 これはエロ本を早々に誰かの靴箱へさっさと腹いせにつっこんで保健室に直行せねば低体温で死んでしまう。特に真樹。ナトリは殺しても死なないけど多分真樹ちゃんは死んでしまう。

 狂犬、思わず鞄からエロ本三冊抜き取り、その辺にぺしんとぶん投げた。

「早く行くよナトリ!真樹死ぬってえぇぇぇぇ!」

 ぶん投げた拍子に、わりとエグいページが開かれ、文杜も絶叫した。

「うるさっ!何?どうしたのバ…」
「なんでこんなグロっ!完璧にこれあのズルむ、やべぇぇ…」

 突如顔が真っ青というか、なんでそこに文杜が驚愕なのか、アテがあるようなないような、取り敢えず文杜の心身に何かしらあったらしい。

「大丈夫かお前やべぇぞ。悪かったよ傷抉って。お前のがやべぇから保健室早く行こうってチビ!見るなバカ!18禁だからそれって無修正じゃねぇかぁぁぁ!」

 今度はナトリが頭を抱えた。

 やべぇ、だっていまガチで見たらなにこれ初。衝撃なんですけど。案外よくないかもショック!けどなにこの怖い物見たさスキャンダル過ぎて泣きそう。どうしよう。

 やれやれ困った。

 取り敢えず釘付けになって固まってしまった狂犬と台湾人の背中に真樹は頭突きを一発ずつかました。
 鼻水は拭けたが軽く脳震盪でぼーっとした。我に返った二人に引きずられながら真樹はあっさりと保健室に連行されたのだった。

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