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「いやそうじゃなくて、だから、」
「あーはいはい、わかったうるせぇなチビ」
「えホントにわかってんの?」
「うん、やる気出したことだけはわかった。
いーよ、日程とかよっちゃんに言っとく。それでいいか?」
「マジかサンキュ」
にやっと真樹が笑った。
それを見て一之江がふと。
「うんまぁ、帰ったら?あとはやるから」
と言ったもんだから。
「は?」
真樹は思わず口にしてしまった。
「どしたのよーちゃん」
「なにが」
「なんか冷たくない?」
「別に」
「あそう」
それだけ答えて。
しかしいたたまれなくなったのは一之江の方で、ギターをわりと雑に膝から降ろし、真樹の顔も見ずにデスクに戻るが。
真樹はじっと、体育座りをしてソファに座ったまま一之江を眺めた。
それもいたたまれない。
「…なんだ真樹」
「いや、別に」
「今日はいいのかスタジオ」
「うん、いいけどよーちゃん」
「なんだよ」
「嫌い」
はっとした。
真顔で何もなく言う真樹に、何も感じないのが、酷く。
「俺そーゆーの嫌い。
なにがあったか知らないけど嫌い。よーちゃん、でも…。
なんで西東さんがよーちゃんに頼んだかわかった気もする。ねぇ、よーちゃん。西東さん、よーちゃんのこと考えてると思う。俺らもだからやらなきゃなんないの、ねぇ、俺ってだから、みんなとやらなきゃならないの。本当はちょっと怖いんだけど。やらなくていいって言われたんだけど、それだけじゃないの。出来なくてもいいって?けどやるの」
「…どうした、真樹」
「まぁ見てろよ。綺麗事やってやるよ。それが人でなしだわ。
俺多分人も自分も嫌いなんだよ。けど、だから音楽聴いてたんだよ」
なにも言えなかった。
そりゃそうだ。
気持ちなんて。
「意味わかんない」
痛いほどに。
「そう思う」
痛いほどにわかりたくなんてないんだ、本当は。
誰がどうとか。
目の前がどうとか。
青く霞んでしまって正直わかんないんだよ、精神なんて。人に入り込んだら最後、俺はあと何回手が震えるほどにフラッシュバックして薬付けになって、ぶっ倒れて血を吐く。でも人って死なないんだとか何回考える。
精神科医とか調子こいてるが正直こいつらの方が遥かに。
ダメだ、ダメだ。
「真樹、」
「なに」
「俺もお前なんて…」
ダメだ結局。
「うん、よーちゃん。
俺は自分が凄く嫌いなんだよ」
「やめよう」
「けど人に恵まれてきたの。それだけは確かなんだ」
「真樹、ごめん」
「母さんは、産んで良かったって言った。父親は違った。だからわかんないんだ俺、どっちだか。けど、大切な友達は、一緒に探してくれそうだから、やってみようって思った。投げ出すやつを、拾っていこうって、思ってみて集めたものだったから。
だって俺は自分を投げちゃったからさ。
西東さんの話聞いたら余計そう思ったの」
「聞いたの」
それには答えずに真樹は曖昧に笑うばかりで。だが、この少年は予想に反し、泣かないようだった。
「悪かった」
「うん」
しかし受け止めるには少々、どうだろう。
「まだ、大丈夫らしいから、」
そう曖昧に言う真樹に、一之江は再び立ち上がってまたソファまで行き、立ったまま抱き締めた。
俺ってそこまで大して生きてねぇや。
そう思った瞬間。
「泣かないでよ、よーちゃん」
そう言われてしまって。そうなのかと、納得する自分がいた。
少年たちに自分は何を見てきた、いままで。
誰と何をしてきた、という人生の考えが、短い、たった27年の中でなかったのだと初めて噛み締めたような気がして。
だから、そうか。自分は。
真樹の肩が腕の中で震えた。そして楽しそうに言うのだ。
「よーちゃんってさ、意外と寂しがり屋だよね」
「…そうかもしれない」
「俺よーちゃん家に戻ってやってもいいよ」
まぁなんて。
「いいです。小憎らしい。第一、」
お互いに良くない。
よっちゃんが言うとおり。あの水色の水は、最後巡回こそすれ、呼吸器をダメにする。気が狂う。まだ、俺の循環器は正常ではないから。
「じゃぁ西東さんと」
「もっと嫌だよ。酒飲み過ぎて胃が出るわ」
「蛙かよ。でも一緒に住んでたんでしょ?」
「そんなことまで聞いたのか。だいぶ前だよ」
「ねぇ俺にもCD貸して」
「は?」
「西東さんは持ってないって」
「何を?」
「映画の人の」
考えてみて。
はっと思い付いて。
「あいつが言ったの?」
「うん」
「…はぁぁ〜、」
力抜けるようにその場に座り込み、一之江は頭を抱えた。
え、俺なんか言っちゃった?
「…よっちゃんには内緒な。
プレイリストってなんか醜態やん。いいよ。映画みんなで観よう。あんまりバカ高校生に観せるもんでもないけど」
「…わかったわ」
なんかよくわからんが了承を得たらしい。取り敢えずスタジオ終わったらみんなで一之江の部屋に押し掛けよう。
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