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「あぁ、まぁ吉田さんについては儂も聞き及んだ。無念であったな。聞いたと言うのは藤嶋宮治か…藤宮鷹という御仁だろうか」
「いかにも。
 折角酒もあるんだ、突っ掛けながら如何でしょうか、少し僕も興味がある」

 特に無礼でもなく言う高杉に幹斎は「すまんな、まだ火消しが残っておる」と断った。

「…藤嶋と藤宮か」
「あぁ、まぁそうか、存じていたか。やはりただ者ではなかったな君たちは。
 …あれから善福寺ぜんぷくじが襲撃されたと聞いた。君はどうやら」
「いや、違う方の善福寺に世話になったんであまり何もなく」
「……そうか」
「あぁ。襲われたのは麻布山あざぶやまだったが、俺は……千葉道場の近く、上井草村かみいくさむらでな」
「……ははっ!なるほど運も強ぇな。そうか、何より…とも言い難いが」

 素直にそう、少し俯いた高杉に「まぁ酒でもやりやしょうか」と翡翠は提案した。

「升は確かに余ってますんで」
「…そりゃぁ愉快だ、有り難いよ」

 そう言って翡翠が「では持ってきます」と寺の方へ向かうのだから、まぁ追い返すものでもないが、

「……こう見えて偉い坊さんやってるんで、申し訳ないが部屋など、上等なもんは与えられない」

 と告げるが、高杉はははっ、と笑い、

「あぁいい、酒は立ってでも飲める」

 そう言われた。
 そうは言われたが手前はあるしと、幹斎に一応、「縁側と言うのは問題ないのか」とこっそり聞いてみた。

「…敷地という点ではまぁなぁ、でも元日は人を招くものだ」

 と了承を得て縁側へ二人を通した。

「…つまみもまぁ話でいいか」
「あぁ構わないよ」

 そのうちに久坂が高杉に「どういったものなのか」と聞いているのもわかる。
 「すれ違ったんだよ」という高杉のそれが確かに本当だ。

 升を5つ持ってきたマメな翡翠だったが、一つ余らせれば高杉はそれぞれに芋焼酎を注ぎ、「まぁ好き嫌いがあるとは思う」と言った。

「僕も久坂も、正直合うもんじゃぁなかったけどな」

 言いつつ酒を交わした。
 注がれた時点から臭いがキツいものだなと思ったが、いざ口にして見れば「…うーん」と翡翠が呟く。しかし朱鷺貴は「癖はあるな」くらいだった。

「悪いな、貰い物で。元日の再会を祝すには本当に強ぇものだな。
 改めて、高杉晋作だ。長州藩主の小姓を務めている」
「…俺は久坂玄瑞と申す、医者だ、こう見えて」
「へぇ、お医者さんなんですねぇ」

 どう名乗ろうかと過った末に「翡翠です」と名乗った。

「南條朱鷺貴だ。ただの一介の坊主だこう見えて」
「…失礼を承知だが、御仁ら偉く変わっているよなぁ」
「まぁ言われます」

 ふと間が落ちたところで「江戸はどうだった?」と高杉は聞いた。

「僕にはつまらなくて仕方がなかったんだが」
「…まぁ世間が少しだけ見えたな」
「狭い世間知らずから言いますと、そう言えば長州藩の吉田さんにはもう一人会いました。吉田さんというのは多いもんなんで?」
「確かに多い。ちなみになんてやつだ?」
「……えっとなんやったか、遊郭の番頭をやっとりましたえ。……うーん」
「よもや稔麿としまろじゃないか?」

 久坂が言うのに高杉が「稔麿?」と疑問そうだった。

「…去年、いや、一昨年になったのか。高杉が伝馬にいた頃、上州あたりであやつとは連絡を取っていた。わらびのあたりだったか。お前は嫌いな質だから言わなかったが」
「まさしくです!…そんな名前だったかわからんですが」
栄太郎えいたろうと名乗っていたかもな」
「えっ、あの守銭奴番頭?」

 朱鷺貴がそう言うと高杉が「ふっはっはっはは!」と笑い飛ばした。

「稔麿くんを守銭奴だなんて、まぁ確かに少しズレてもいる野郎だけど。資金集めでもしてたんかあの稔麿くんは」
かつらの事も探していたようだ」
「あぁ!探せ言われたわ!」
「まぁ、君の方は一度言ったが、一瞬で娑婆の者じゃないと思ったからな。稔麿くんはそう言うの、嗅ぎ分けられる男ではある。確かに君が言う通り得たいが知れないわな。
 …ひょんなことから出会ったな。京ヤクザとの知り合いともあれば、あらかた坊さんでも時世は、読めたか?」
「…わからんですけどねぇ」
「まぁそうだ。僕もまだわかっていない。
 しかし京には縁がある、切っても離せないもんだ。恐らく、変わっていくのは京からが火蓋となりそうなほど」
「…はぁ、」
「…個人的に聞きたいんだが、藤嶋、藤宮という男はどんな人物だ?」

 えらく高杉は酒を飲むようで、十升の土器を「なくなっちまったな」と振っていた。その他は、まだなかなか飲めないものなのに。

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