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数日もしてしまえば、正直それを忘れかけている。
朱雀には会っていない。何故だかはわからない。
噂を聞く前に何故だか男娼達が自分によそよそしく、なんなら「うわっ、来たわ」と露骨に避けるようになった。
幽霊よりはましかもしれない。
いや、仕事が滞る。
同じ若い衆の先輩である青鵐に聞いてみれば「いや、あんさんそれホンマに言うとるん?」と苦笑されるばかりで。
「…朱雀は7日程謹慎食らっとるで」
「…え?」
「あぁもう店主がな…」
「…そーなんですかぁ?」
「…なんも言われてないんか、」
「…言われてまへんよ、なしてなんです?」
「…アホお前、と言うかなしてあんさん普通に歩けとんねん…。苛められたんと違うんか」
なるほど…。
しかしそれは筋が通っていないだろうと、「忘八になんか、」と仕事にならなそうになり、「待て、待てや翡翠」と先輩に止められてしまった。
「…あんさんがなんもないんも救いやけど皆正直ようわからんのや。あの忘八が考えることなんて、なんせ忘八やし。却って、あんさんが朱雀を貶めただとか…。
正直な、正直に言うで、わては男娼でもないからな、お前ホンマに知らんのか?」
「…何がですか」
「…あんさんがその…なんや、例えば男娼の鬱憤晴らしに付き合うとして」
「…うん、あい」
この二年それなりに翡翠は陰茎を吸ってきた。
お前一生店に出れんくらい焦れったいし変態かと言われながらも。仕方ない、何本もあってそれぞれが愛しそうにしたところで、最早陰茎は陰茎だとしか翡翠には思えなくなっていた。
「あんの忘八、最近になって二分ずつ、徴収しよんねん、給料から」
「…はぁ!?」
「今更やからわからん。とにかくお前に関わると金が減るわ〜、言うてな」
「うっわ〜……」
脱力した。
あの人でなし、そんなことしよったんか。血迷いすぎている。その銭は一体どこに消えとるねん。
「…ホンマの人でなしやったんかぁ…」
「いや、まぁわてだから言うがこの血迷い方半端やないで」
「それはわかりますよ」
「問題はなんでそんな血迷うてるかや…」
「知らん、もう知らん、」
「翡翠、絶対忘八と寝たやろお前」
茶があったら多分吹き出しそうになり噎せているだろう。
わかりやすく前のめった若者に「な?せやろ?まぁそうやな今までが血迷いなんや…」と悟ったように言う青鵐、「いえ、一切」と翡翠が返せば「隠さんでもわかるわ」と、返されてしまう。
「しかしあの男に徳があったやなんて」
「あの、恥ずかしいことを申し上げるかもしれまへんけど」
「こんな店で何言うて」
「一切ないです」
「あぁ、そうやねぇ…てアホか、なんでそこで」
「ホンマなんですぅ。おかしいですかね?」
「え、なんやそれ」
「小姓やろ、茶屋やろ?なんやあの人変態違うかて思いますよね…」
「お前待て、あの変態武智を攻略した言うんは嘘なんか?」
「いや、そっちはホンマでして」
「せやなぁ?何使えない冗談言うてるん?おもろないからやめろそれ」
「…流石大阪者ですなぁ青鵐兄さん…。素直にえらいわぁ…京者と訳が違う…。わてはそれくらいのどつきの方がホンマに性に合うてます…。あんさんには苛められへんやろうなぁ…」
この少年は変わっていて、同郷の癖に本音を隠すときほど喋る京者に近い奴だと、青鵐は知っている。
それが、京者と訳が違う、性に合ってる。など、なるほど信じられないわと、「…ホンマかいな」と青鵐は声を潜めた。
にやっと笑った翡翠に末恐ろしいと「なるほどな…」と、言い分は納得した。
「そりゃあ…どないなことか…」
「普通、そうなりますよねぇ…」
「あんさんはヘタクソやけど愛情あると専ら聞いたんやけど」
「そないに言われてはるんですか、わては」
「あぁそうやねぇ…」
「うはぁ…」
恥じらいを捨てて来たはずの翡翠だったがこうもはっきりしてしまえば、陰茎達にとてつもなく恥ずかしいと感じる。いや、これも小姓の仕事と割り切るにしてはなかなか恥ずかしさは勝る。
こりゃぁ勤まらん、こいつも大分血迷ってきたなと翡翠を見た青鵐は「あぁ…ほんならな、」と提案を打ち出した。
「同郷として美鶴は長いし、どやろ、鬱憤聞いてもろては。あいつ確かその場にいた聞いたけど」
「…却って恥ずかしい」
「うん、せやけど器もデカい男やで」
「あんさん言うこと全部恥ずかしい」
「アホか、京者と違うねん、まんまやねん、初かいな全く。若い言うんは大変やな。せやから便所や言われんねん」
「待ってや、そんなん言われとんのですか、わては!」
「そやで?」
「もう皆最低!」
「あぁ、せやけど人間不信も捨てたら楽やわ…」
「…犬に食わせろと?」
「上手いこと言うなぁ。ほな仕事にならんし行ってこい」
なるほど。
だから自分は店にとって幽霊扱いなのか。
良いこと聞いたで青鵐兄さんと、「うん、行って来ますわ!」と、無邪気に近い態度で去る翡翠に「純って怖いわぁ…」と、自然と一人言が青鵐の頭を走る。
店を揺るがしている。傾城とはまさしく、これである。
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