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 翌日。

「どうしようかなってちょっと悩んだんですけど。前やったのにちょっと、補足で」

 リュージは楽譜を広げて「これなんですけど」と指す。手書きの楽譜。

「おーお、ちょっと待ってこれ…は」

 曽根原がその楽譜を見ながら「ふんふんなるほど…あ、こうか…こうきて……こうで」と、その音を弾いている。
 聴いている亀田も「あちょっと雰囲気ちがーう」と楽譜を覗いた。

「まぁメインを弾いてるだけでも俺つまんねぇなと、ちょいちょい曽根原ブレンドをしてみたりして」
「なるほどなるほど。けど俺の見せ場も生かしてくれてるのね。Bメロから被せて間奏を押さえて…」
「Bメロに関しては低く歌ってるんで高いか…迷い中。この曲間奏はもうホントに曽根原ギターが超エモいなと思ったんで俺は頭一音は弾かなくてもいい、サビはベースに寄りたいかな…と」
「ほうほうこういうのはやるが早い」

 試しに二人で弾いてみるけれど、曽根原は何も言わずリュージの譜面を変え、主張したり引いたり、ならばとこちらも変え着いていけば「あ、いいねいいね卯月も」と音を入れてみたりして。

 たった8章節の提案は、「流れでAやろ」と16章節が前に追加されたりして、ドラムも入れて、またノリトもアレンジしてたりして。
 一通りやるうちにリュージはにやにやしそうだった。
 一通り出来たなら「うん、いいかもこれ」と、団結していた。

 …シビアだ。良い。性癖にも好みにも一致。

「流石だねリュージ。ぶっつけムチャ振りに着いてきた。サポートでふらついてただけあるわ、どう?」
「こっちの方が俺も楽しいですね」
「だろ?俺、リメイク版とかそゆの嫌いだけどリュージセクションはやりたいかもマジで。超エモくね?」

 と言いながら「はは、ちょっと録音したいいま弾いたやつ」と、曽根原が一人で自撮りを始めたので、どうかなぁ、と亀田に煽るかと振り向けば、亀田はケータイを翳し「ばっちり」と、写メを見せてくる。

 よくよく見れば「お兄様と金髪」と、写真二枚を上げた亀田のSNS投稿だった。
 その表情で、最高に楽しそうにやっていると自覚した。

「ホントだばっちりじゃん」
「亀ちゃん、俺の方が写メ、上げたよ」
「え?
 あ、ホントだノリトさん、いっぱい。全部リツイしよ」
「…俺がやってないだけになんか怖いわ」

 雑談しながらリュージは「えっとここはこうだっけ」と弾きながら楽譜を書き換える。

「ちなみに亀ちゃん…えっと半音上げたよねBメロ」
「どう?デッドヒート出来た?」
「うんエモいエモい。腹痛くなるかと思った」
「え?なんでなんでぇ?」

 急に自撮りを止めた曽根原はケータイを見つつ「あ、マジいーじゃんこの写真たち。全部リツイ!」と言いながら「あ、のんちゃんのもリツイする〜」「あ俺も〜」と、何を言っているかリュージにはイマイチわからず。

「すげぇ謎の単語飛び交ってるんだけど」
「拡散だよ拡散〜、やればリュージも。したら宣伝してよ〜。リュージはめっちゃ色々やってっから良い広告塔だわ」
「言うてそんなやってないですよ俺」
「そんな浮わついたリュージも腰据えてくれる気になったのかねぇ、おじさん泣きそうだぜ…」
「…え、俺ポロってました?」
「単純に聴けばわかるわ、ちゃーんと「染まったるけど俺じゃなきゃ出ない音だよね」感がビシバシと」
「…調子乗りましたかね」
「いや楽しいね。良い調子の乗り方。
 昔サイドやってたからどーくるかなって楽しみだったんだけど、喧嘩みてぇ。今回はスッキリするパターンのやつ」
「あっ、」

 前バンドでのグラシアの前座を思い出す。

「はっはっは懐かし〜。あたしこいつやべぇと思ったわ!」
「帰ったら血塗れだったもんなあいつら」
「で、本人失踪しちゃってんのっ!」
「いやホントにあれはやらかしてすんません」
「あの子達すんごい顔真っ青だったよね。俺もあのとき「こいつはやべぇ後輩だ」って楽しくなった。あれなんでいなくなっちゃったん?」
「あー…」

 思い出す。

「…なんかどーでもよくなっちゃって…すんません…。言えなくて。
 熱量が違うことは最早諦めがついてたんすけど、趣味じゃねぇのになってあの瞬間、なんか切れた、萎えた。虚無感ってやつなんすかね。彼女も寝取られ気付けば覚束ないジャンキーしかいねぇ。そんなん、なんでやってたんだよってね」

 …あまり話したい話ではないけれど。

「あはは、確かにそりゃやんなるわ。あたしも似た感じで「爆死せよ」ってスタジオバイバイしたわ」
「…爆死せよってワード強くね?」
「のんちゃんの“But She Said”だよ」
「…は?」

 曽根原は一人腹を抱え「なにそれちょーウケんだけどぉ!流石卯月だ!」と爆笑した。

 …けどなんだか、そう。

「あれから嫌になっちゃってて…。まぁ、前座ぶち壊したんで俺が言うことじゃないけど」
「いんや?リュージはぶち壊れてねーし、それはよかったとこだよな。ステージは確かに悲惨だったけどパフォとなったかは客次第だし。
 あれからあそこパクられたの結構早かったよね。まぁ、うんざりしても今マジでやろうとしたの、なんで?」
「あー…いや、この前やって結構…なんかいいなって」

 あの日隅っこで泣きそうになりながらかっけぇ、かっけぇ、って聴いてましたよと、胸に留めて。

「ははっ、だろ?じゃ、マジちゃきちゃき超新曲作ろーぜ!」

 笑い飛ばしてくれたことも。なんだか心地良い。すっきりして、思いも固まった。

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