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「あれからドエロの彼女とどーなの?」

 対バン後すぐに、例の先輩からサポートの誘いがあった。
 ギター、もう一本入れようかなぁ、ということだった。今日はその、顔合わせなのだが。
 直球過ぎる。

「いや、」

 ベース、現役SM嬢の亀田卯月《かめだうづき》。
 ドラム、元「elegrand」のノリト。
 ボーカル&ギター、曽根原朔夫《そねはらのりお》。

 現在細々とライブハウスなどで活動中の3ピースバンド。通称「グラシア」、正式名称「the grass alive sonic」。

 メンバー達はそれぞれ、「あーやっぱり」だの、「マジかぁ」だの「元気出せよ」だのと言っている。昼前のスタジオ。

「いや、彼女じゃないです」
「残念だったねぇ…同棲までしたのに」
「同棲はしてますよ」
「それは彼女じゃないの?」
「違いますね」
「あれ、リュージはゲイだっけ?」

 ベースギターを弄りながら平然と聞く亀田に「違うね」と竜二は言い返す。亀田は今日もてかてかな黒い革の短い上下を着て、いつでも出勤体勢だ。

「卯月のとこはそれだもんね〜」
「え、そうなん」
「いやあれはある意味違いますよ〜」
「セフレだろ。ウチと一緒じゃん」
「違うね。だってあたしはレズビアンだもん」
「えっ、なにそれそうだったの」
「ちょっと神戸《かんべ》くん長い付き合いなのに知らなかったん?ここはちょっと特殊なんだよ〜」

 「あー本名勘弁してくださ〜い」と言うノリトや先輩の笑い声。しかし竜二には亀田の話ばかりが気になった。

「マジか亀ちゃん」
「うんそー」
「それ上手くいくの?」
「いってるいってる。襲おうものなら三味線のバチでぶっ殺してやろうと思ってる。背?下の部分って凶悪らしいよ」
「あー、古典芸能の人だっけ。逞しいなどっちも」
「言うてあたし、あいつん家に婚約者として乗り込んだことあるけどね、カミングアウトしに」
「ナニソレよくわかんないんだけど」

 「あその話ね!」と先輩は笑っている。

 正直、竜二はサポートの話が来るまで、いや確かに異様なグループだとは思っていたが、もう少しなんというか、爽やかなバンドだと思っていた。
 それは曲調やらなにやらなのだが。

 こんなメンバーであんな曲が出来るなんてと、最近新たな感動でよりファンになりそうな自分がいる。

 伊織はグラシアの昔からのファンなのだ。

「ん、でも待てよ、鷹峯たかみねくんとこは普通って言えない…?けど男女恋愛の男女同棲だったよな?」
「あーはいそうっすね。普通にセックスします」
「それは恋人じゃないのか?」
「違いますね、もう少し業務的です。家の名義俺、連帯保証人があいつ、男女、てなだけです」
「う〜ん?」
「ある一定で互いに不感症なんであいつは平気で別のセフレを家に呼びやがりますし、これ数日前の話なんすけど」
「はぁ!?」
「ですよね。金曜日の先輩だそうで。今日は今日とて月曜日の|桝《ます》くんがいますし」
「…え、なんで平気なの鷹峯くん。無理してない?」
「いやドエロなんで却っていいっすね。俺は二日にいっぺん朝までとか流石にそろそろ体力的にキツいっすね多分」
「あ〜…なるほど…。いや、言うて俺や曽根原さんより一回りは若いじゃないか鷹峯くん。多分俺はその頃取っ替え引っ替え」
「嘘でしょ〜ドラムバカでしょ〜神戸くん〜!」

 あわわ本名は…というノリトと先輩の笑い声のなかに「う〜ん」と考える亀田。

「そりゃぁテク的な、なんつーか摩擦ではなく?」
「ん〜…多分違うと思いたいけどね。不感症なくせにドエロなんだよマジで」
「なにそれ?」
「亀ちゃんには難しいか。不感症ってのは心がだよ。なんつーか、セックスは生理現象なんだよ、あいつ」
「そりゃそうだけど」
「一昨日な、一昨日。まぁ確かに俺もクソつまんねぇ映画をパクってきたんだけどさ」
「なになに〜?」
「|座頭市《ざとういち》っす」
「うわムードとか…」
「いやクソつまんねぇ暇だわ〜と思ってベットからおっぱい揉んでも無。あいつも無表情で観てて、座頭市。何回やっても無。いやまあ確かに土曜日なんで?金曜日めちゃくちゃ抱いた後だから疲れてんのもわかるんすけど」
「金曜日の先輩どこ行ったの」
「俺ん家。帰ってお流れになったから抱いた」
「うわぁ別に聞かなきゃよかったけどどーなったん?」
「はい。もう無すぎてマジかすげぇなとか思ってでもまあいっかってケータイ弄ってたらエンドロールで上乗られて「は?」って流石に抱いたわ」
「結局じゃんそれ」
「いや意味わかんなくねぇかこれ。二時間何に耐えたん?いや耐えたんか?それ。そんなに座頭市面白かったのかと聞けば「よくわかんなかったよね」っては?意味わかんねぇんだけどって感じで」

 「仕返し…」と言ってしなっしなをビンビンに変えた伊織の顔が浮かんだ。座頭市のエンドロール。

「やっぱテク的な問題なんじゃないのそれ。あたしにヤらしてくんない?調教し」
「うんあいつ多分ヤろうって言われたら犬とも猫とも女ともヤると思うわ」

 ファンの性事情を暴露されているとはまさかドエロでも思うまいと、若干竜二も金曜日の件の腹いせになってきていることに気付いた。

 「都合良っ!」だとか「あはは電波ちゃん!」だとか「それは確かに恋人じゃないな…」という大混戦に竜二が面倒だなと思っていれば、「まぁやろっか!」と先輩が切り換えてくれた。そもそも先輩が言い出したのだが。

 そこだけは統一して「うぃ〜っす」になるのがグループの良いところ、と、少し羨ましくなった。

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