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「ええっと機材は何?それ自前?まぁそのテレキャスあればいーよ。アンプは俺チョイスでやるから」
「いや待ってください。俺この後講義あるし」
「えバンドは?」
「あいやだからぁ、」
「どーせ講義なんて出ねぇだろ。お前何年?」
「いや3年ですけど」
「ふぅん。はい、行くよ」
「いやだからさぁ」
「は?なに?」
「いやふざけんなよ、講義はマジだよ。俺卒業出来るか危ういし」
「じゃ留学すればいいじゃん。俺明後日からカナダに旅行行くよ」
「はぁ?」

 なにこいつ。
 俺いま日本人と話してんだよな。

「語学留学。いーよ。今から理事長に言ってきてやるよ。俺も昔そんなんで海外で遊びまくって卒業したし」
「は?」
「おい知らないのかよ。俺ってここの卒業で、しかも帰国子女だぜ?」

 あっ。
 えっ。

「え、えぇぇぇぇ!」
「んで、大学サークルでバンド立ち上げて今に至ーる。だから日本の仕組みよくわかんなーい」

 メンバー、ベースのヤツがそこで漸く「あっ」と言い出した。

「あんたフェスで、文化祭ノリで、つか海外ノリでダイブして出禁になったって」
「えぇ?そーんな風に言われちゃったのロッキン」
「あっ」

 メンバー、ぽつりぽつり思い出したらしい。そして俺も少しずつ思い出してきた。

 そうだこいつ。
 そういやそうだ。
 そして何より多分だが。
 ストイック過ぎて最近ギターが一人辞めたんじゃなかろうか。大して有名でもないが。

「え、太田さん」
「なんだい」
「ま、マジすか」
「マジマジ大マジ」
「あのぅ、今更聞いていいですか」
「なんなりと」
「何故ですか」

 何故俺なんだ。

「え、君上手くなりたくないの?」

 いやそれを言われてしまうと。
 いや上手くなりたいっすけど。

「いや上手くなりたいっすけどぅ」
「はいじゃ早くして。明後日からセブンデイズでカナダレコーディングなんだよ」
「は?」
「マジマジ大マジ。
 なのにクソ田中辞めやがってマジふざけんなよ俺3ピースとか唄えねぇしってナーバスムード炸裂だったんだよ〜。あーよかった。なんならサポートでいいから早くして」
「えぇぇぇぇえ」

 こうして。俺、奥田弦次は。
 大学をぶん投げ突然、まぁまぁ売れ始めたパンク?バンド、「ele ground」のサポートギターとして急遽カナダへ、出張となってしまったのでしたが。

 あの時はまだ、学生の時分。
 正直、一回きり、なにより。

 高揚感があった。

 だって、ele groundと言ったらまぁ、当時少しギターをやっていた連中には軽く流行ったバンドだったし。

 そして俺は、21歳、大学生。はっきり言っちゃって、はっちゃけている。飛行機に乗ってるときのテンションの高さ(けして誰にも見せない内なる自分)たらなかった。

 何より。カナダ。なんだよカナダ。どうしたカナダ。大丈夫かカナダ。大丈夫かGenji.

 レコーディングしていても、もう上の空。
 やべぇよエルグラ。
 ハンパねぇよエルグラ。

 しかしながら。

「はいstop、stop、stop」

 たまにレコーディング中、太田のこれがあった。

 何がだろうと、そんな時俺は唖然としてしまうのだ。

 楽譜は、前任ギターの田中さんが書いたパートの譜面を貰い、なんとなく飛行機の中で見て覚え、案外弾けちゃうだろうなぁ、シンプルだなぁ、とか思っていたので身構えずにやってみて、やはり、このバンドってすげえと音合わせをしていて思うのだけど。

 ベースの高安さん、いますげぇ本調子なんだろうな。なんてノせやすいんだろう、とか考えていたときに今回は入った「stop」。

 なんだ、どうした。

 わりとあんたも、好調じゃなかったかなぁと思うけど。

「タカ、あのさぁ。
 ちょっと前に出すぎなんだよねぇ。俺のレスポールが死んじゃうじゃない」
「いやでもさ太田。
 そこはサポートが押さえてくれてる分、俺とお前でいったらよくないかって」
「何を言っているの?歌だってあるんだからまずテレキャスターで盛り上げてベースは控えて俺は基本でいって唄う。だから太鼓だってシンバル押さえて。
 俺はこの歌、Make meは歌詞なのわかる?センスないねぇお前」

 えっ。
 えええっ。
 雰囲気最っ悪。

「はいもう一度いま俺が言った通りにやって」

 タカさんは太田を睨みながらも「ハイハイ」と言い、またベースを構え直した。
 太田がじゃらーんとやればそれはもう、終了して歌が始まり。


make me again
make me again
make me again song for you


 まぁそうかこれがプロの、太田プレゼンツかと、まぁサポートだしと、その時の俺は、そう思っていた。

 まぁ、そう嫌なことばかりじゃなく、俺にとっても良い刺激にもなった。

 カナダは広く、日本しか知らなかった俺が知らない世界があったし。

 もちろん、よくわかんなかったけど多分機材もよかったんじゃない?音とか。くらいにしかその頃は思えなかったし。

 ただ仲良くはなれた、太田以外、タカさんとノリトさんと。

 これでまぁ終わり。そう、思ったのだけど。

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