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 そして卯月が来るまでは。

「Your outsiderはぁぁぁあ♪」

 最早ライブをしていた。
 超気持ちよく酔っていた。手叩きとかしていた。なんなら山口に、

「山ちゃーぁぁん!」

 抱きついていた。
 超酔っていた。

「うわ〜のんうるせーマジ」

 (笑)状態の山口。

「Hey Dance?Dance!」
「あ。ちょいちょいのん」
「ん?」
「ツキコからメール来た、俺に。
『のんちゃんは果たして渋谷のどこにいるのですか?』だって。相変わらずあいつ質素だなぁ」
「たからや!」
「ツキコ来たことあったか?ちょっと俺迎えに行ってくるわ。
 山ちゃん、のん処理よろしくなー」

 そう言って高畑は店を出てしまった。
 山口と二人、取り残された俺に山口が言う。

「のん〜、今日、俺帰れなぃよぅ」
「飲み過ぎたな山ちゃん〜まったくぅ」

 なんか二人で。
 山口は何故か膝枕状態だしぶっちゃけこれは調子こいて飲ませ過ぎたかもしれないな。

 仕方ないのでSNS(最近マネージャーから使い方を教わった)でちょっとファンツイートを見て回る。

 わりとみんな、今日も楽しんでくれたようだ。ラストを感じさせていない。美学だね。我ながら関心。
 みんなに『ありがとー!』だの『Thank you!』だの書いて回るが即山口に、

「のん、わりと誤字たっくさんある、酔ってる?」

 と言われた。

「気持ちく泥酔」
「そっ、気持ちくないぉ、ちょっとぉ、俺にん夢見してよ!」
「俺はね、いっつも夢見てるよー♪」
「じゃぁさ…。
 てぇか俺ね、やっぱ高畑チューニングのアドィブよかったぁあ。あれもっ、感激しちゃって泣きそーだお!」

 あのチューニング。
 ライブ中にもやっちゃったのだ。高畑は。にやにやして。
 どうやらこいつらにも夢を残せたらしい。よかった。素直に嬉しい。

「はいはい、山ちゃん楽しそーだったなぁ」

 あぁ、そうそう。

「俺、さぁ…」

 そして途端に。
 山口は人の膝で嗚咽を漏らして泣き始めてしまった。
 あら、珍しい。

「ちょ、どうしたの鼻水、涙ぁ!」
「のん〜、俺辞めたくねぇよぅぅ」
「まったくぅ、仕方ないなぁ。
 おやっさん、ごめーん。バカみたいにアルコールたっかいやつと水をこいつにあげてー」

 おやっさんに頼めば「あいよー」と、どっちが水だかわからないグラスを二つくれた。これ、絶対いたずらだ。

「のん〜、朔夫〜!」
「なんだよ山口〜。
 だから止めないって言っただろ〜。ねぇ〜、happyしようよ!」
「ごめ゛ん゛のん〜!」
「だからー、いいって」

 凄くぐだぐだ「うぇぇ〜」と泣いちゃってる山口。どうしよう。いい加減スキニーが生暖かく冷たくなってきたんだけど早く二人来ないかなぁ。

「山ちゃん、ねぇ。
 俺だから止めないって決めたんだから、哀しいこと言わないでよ」

 これはマジ。
 だって寂しくても悲しくても音楽は楽しくて、音楽でしか俺、生きていけないもん。

「お前ら捨てても音楽止めらんないんだもん」

 でも、なんでこんなことしか俺は言えないんだろ。
 流石にそれには山口も「ひっ、ひっ、」と静かになった。

 好きならやればいい、何を捨てたって。だってそれ理屈じゃなくて、ホントに必要なものじゃん。
 俺にはそれしかないんだもん。哀しいけれど、それも、それしかなくて。

 あぁ、ダメだなぁ、酒回っちゃってる。水だと思って飲んだら水かどうかすらわかんねぇし。

 「ほら」っつって山口を起こしてもう片方飲ませたら「うぇっ、」とか言ってるし、まぁ、いいか。

 がらがらがらと店のドアが開いて漸く、寒そうな卯月と「なにそれ」と言ってる高畑がお出ました。

「卯月お疲れ〜」
「お疲れっす。えっと、ビールで。
 のんちゃん、山口さん大丈夫?ホモ臭いけど」

 おやっさんにビールを頼みながら卯月はいつも通り痛烈な一言。山口が「おぇっ」となりながらちゃんと起き、

「らいじょーぶ、おつかれーツキコー。
 おら、俺ゲイだから、いーのいーの」

 すげぇダメそうに山口は答えた。流石に高畑も「先輩ネタぱくってんじゃねぇよ山ちゃん」と苦言を呈する。
 半分寝ながら山口は「まぃだぉ、俺、マジのんにforever loveだぉ」とか言ってから沈黙した。

「…ヤバいっすね山口さん」

 卯月が目の前に座り、高畑はその隣に座った。高畑にもビールが来て、山口抜きで乾杯した。

「いやぁ俺ズボンがびしゃびしゃ。山ちゃんヤバい」
「ここ最近病み期だよね山ちゃん。
 俺がいない間になにしてたのお前ら」
「慰め」
「ヤバいのんちゃんそれヤバい」
「あ、卯月ー、ジャグジーはぁ?」
「え?」
「ジャグジー」

 俺も眠くなってきた。
 てか胃が痛い。飲み過ぎと歳かもしれない。まだギリ40じゃないのに。

「あ、あとねー、来年たんじょーび会やろうと思うからぁ、卯月来てねー」
「ん?なにが?」
「あん、俺40だかぁ」
「ねぇ高畑さん、のんちゃんヤバくない?」
「ツキコ初めてかこれ。
 のんはいつも酒癖クソ悪いよ」
「あ、いやぁ、ちょっとだけ覚えある、てかグラシア、マジで…ですか?」

 高畑がちょっと俯いた。
 「言ったのかのん」と、声を落とす。

「言ったよ」

 でも。

「俺がやるって決められたの、卯月とジャグジーのお陰だからさ」

 そうだろう?と見上げれば、卯月は寂しそうに笑い「のんちゃんってば」と言ってくれた。

 それから更に飲んだ。
 悲しさなんてぶっ飛ばしちゃえ。自分達はずっとそう歌ってきたから。

 何故かわからないが卯月の方がぶっ潰れていた。

 「のん、お前も、」と、高畑は当たり前に卯月と山口を抱えていたし、でもなんとなく、「いや、いーや、二人をよろしく」と俺は一人線路沿いを歩いた。

 朝日が昇るのが、綺麗だったからかもしれない。

 ギターケースが重い、と言うか痛い。ライブ後だからな。まぁまぁ、歳を感じる。

 持ち直してやっぱり思う。やるぞ、ムスタング。なぁ、そうだろう?と。

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