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「でもさぁ、俺やっぱ芸能って共通するもんあるよなって思うわ。
さっきの兄ちゃんの覇気やら、それを見守る、と言うか楽しむのんちゃんやら。やっぱ生きてないと芸能はいけないね」
「ん?」
「依田ちゃん、なんでのんちゃん好きなの?」
「そりゃぁ…」
声が素敵だなぁとか。
なにより初めて舞台を観たときの、楽しそうな感じとか。
あとまぁ確かに、楽器をやる人には共通の、これは古典日本語にもない、横文字はわからないがなんかそういうなんだろ、“共鳴”だとか“夢”だとかを、勝手に俺が見たんだよな、多分。
でもそっか。
「うん、確かに芸能って、共通かもね」
「良い横文字教えてやるよ依田ちゃん。
そーゆーのを“シンパシー”ってんだよ多分」
「しんぱしー」
「運命とかよりなんだろな、身近にある共鳴みたいなね」
シンパシー、か。
そうか、シンパシーか。
「俺凄く、まぁ、あんまのんちゃんを知らんが、ちょっと依田ちゃんに似てる気がするよ」
「えっ」
なにそれ。
「照れるやん」
「ん?あそう」
涼しい顔をして勇咲は舞台を見た。
まだ客席照明は点いているが、観客の「ふぅ!」と言う、古典芸能の「なんとか屋〜」ノリの煽りがあり。
舞台を見ればのんちゃんや山口さんや高畑さんが、楽器を持ってなんか打ち合わせとかだろうか、話している風景で。
のんちゃんが裏方を頷けば客席照明が消えた。
そこから始まった現象はもう凄まじく。
まるで三人がもう終わってしまうなんて思えないような舞台で。
のんちゃんの息を吸う音、ギターの声や、山口さんのドラムも高畑さんのベースもすぐ近くにあって。
だけどなんだろ、キラキラしていてみんな楽しそうで。というか多分、音とかわかんないけどもう、多分いままでで一番良いライブな気がして。
乗るというより観入ってしまった。
てか、舞台というものをこんなに間近で観たのは多分、人生初だった。
「世界が雨のように 溢れ堕ちたとして
君といれば 多分
それがあれば いい」
そっか、そっか。
とても静かな歌だった。だけど胸にキた。のんちゃん、俺もそう思うとか、頭を色々過りすぎて、でも楽しくて。
一周回ってもう泣いちゃった。
きっと演者見解、想いとは真逆なんだろ、俺の気持ち。でもまぁいいや。凄い一体感とか、もうそれだけで今日を愛せるなぁとか、ホントに陳腐で飾り気のない感情が湧いてきた。
尊敬なんだろ、俺のこれ。宗教みたいな現象。ファンって多分そうだから、いつでものんちゃんは明るく居てくれるんだと、間近で観て息まで感じて思った。
アンコールは計3回。これも文楽にはない現象。けど新鮮、余韻から燃え上がるこれ。
3回目で
「あぃがとー!
終わろうと、思ったんだけど…一曲だけ特別に、Raspberry。今日はありがとうございまった!」
とてもロックな明るい曲が流れる。
あぁのんちゃん、のんちゃんらしい。凄く良い歌。これ確か、デビューの時のやつ。亀ちゃんが前に言ってた。
一人でも、守っていく生き方を、のんちゃんの少しの強い視線にも感じて。
これを大切にしたいんだのんちゃんはきっと、と感じた。
全部終わって余韻に、ぎこちなく勇咲を見れば「大丈夫かよ!」とか言われた。
「夢かも…」
スッゴいよすぎて最早勃起を越える、卓逸したレベル。燃焼しすぎて死にそう俺。多分いま俺真っ白。
「うわ依田ちゃんやべぇ」とか勇咲に言われたけど、勇咲は笑って、
「でもわかる。よかったねマジ」
もうそれはそれは。
「よかったーぅ!」
抱きつくしかない。
「うわ涙とかっ、」と勇咲は嫌がってたけど気にしない。頭ごしごし。
調子乗ってたら「本気でやだ!わかるけど引く!」と一回肘鉄を頭に食らった。痛い。酷い。
「もー帰ろう依田ちゃん。雀生師匠ん家ね。はい、」
「いやだぁぁ!現実とか嫌い!」
「わかったわかった。楽屋挨拶まずしようね。飲みに行っちゃだめだよ明日初日だから」
そう言われまして。
楽屋挨拶に行き、狭い楽屋で「のんちゃーん!」と一回抱きついたら「はははジャグジーやばいねー!」とか引き離され、俺はそれから飲みに行こう、なんなら抱いてもらおうとか考えちゃったけど結局勇咲に師匠の家まで送り届けられた。
帰れば師匠に「クソガキぃぃ!なに、何時まで遊び歩いてるたわけえええ!」と膝蹴りを受けたのは言うまでもない。
ま、いいや。痛いけど。明日またあるやと、許してもらって寝ることにした。
生きてりゃこんなこともある。
人は一人でも、何か共有が出来る。
そう言われたような気がしたのだった。
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