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「遅いわぁ!」

 新年のゴッド師匠のご挨拶はそれでした。

 あたくし達はカウントダウンから2時間くらい、慣れないくせに寝れず起きていて結果、30分くらい遅刻した状態でゴッド師匠を新幹線乗り場で待たせてしまいました。

 「こんのバカ弟子!」と、ゴッド師匠に首を腕でガッツリホールドされてしまった依田は、「痛いっ!師匠痛いっ!」と、より猫背になり、ご老体を気遣ってか弱めに師匠の腹をパシパシして降参していた。

 というか、まぁ当たり前なんでしょうが師匠、洋服でした。
 黒いハットに茶色いロングコートとマフラー、それに灰色の荒いチェックのズボン、折り目正しく。しかし真っ赤なマフラーという妙なゴッド師匠のセンスを、思わず頭から爪先まで眺めてしまった。

「あけましておめでとうです〜、遅れちゃってすみませーん」

 お辞儀をすればゴッド師匠、「あぁ、亀田さんあけましておめでとう」とにこやか。依田は最早師匠の腕に抱きつく感じに。
 痛そうに依田は顔をゴッド師匠に向け、「ししょー、あ、あけまして!」と苦しそうに言った。

 「ふんっ、」と依田をぶん投げるように離したゴッド師匠は先にすたすた。だが少し歩いて振り返り、「喪中だろ全く!」と言ってまた歩き出した。

 あ、確かに。

 思わず依田と顔を見合わせれば「へっ、へへへ…」と気まずそうに笑う依田。弟子って大変だね。可哀想にと、さして同情しないままあたしもキャリーバックを引っ張って依田を置いていくことにした。

 ホームに先についたゴッド師匠が無駄にキメ顔で腕組をして「ふむ、」と言う中、依田は特に何も言わず、それから後ろからついてきて暖かいお茶を3本買ったらしい。超絶笑顔で渡してきた。

「ん、」

 と短く返事をしたゴッド師匠はまず、「全く」と依田に言った。

「緊張感が足りないぞお前」
「いや〜、はい〜」
「全く」

 どうやらお師匠は機嫌が悪いらしい。
 まぁね、30分待たせちゃったからね。

「すみません、2時まで亀ちゃんと飲んでまして」
「はぁ!?2時ぃ!?」
「はい〜、いやぁ、東京で過ごすカウントダウン、初だったんでちょっと盛り上がってカルタとか始まっちゃって」
「それ、東京の意味あんのかっ?」
「ないです〜」
「ったく。
しかし、まぁ…」

 ふと師匠はあたしをみた。

「確かにそうか、毎年家におるからな紅葉」
「というか、師匠、ご自宅はいいんですか?」

 大阪待ち合わせでもよかったんじゃないだろうか。まぁ、あたしら30分遅刻なんだけど。

「まぁ…もし儂が正月明けに死んだらお前らのせいかもな」
「え?」
「幽霊っぽいですか?」

 依田が聞くと雀生師匠は「誰がじゃ!」と一発ぶっ叩いた。正直笑いのツボがいまいちわからない。

 新幹線が来る。
 ふざけっこしていた二人より先にあたしは前に出て、「行きますよ」と促した。

 東京から大阪。11,000円、往復22,000円。これを二ヶ月にいっぺんか。なかなか凄い。ましてやお師匠なんかは公演中、ホテルだろう。高い。それとも、弟子の家に泊まったりしてるんだろうか…いや、みな大阪か。多分。

 しかし。
 乗って、依田とあたし。
 向かいにゴッド師匠。
 気まずい。3時間。あたしは一体何を話すの。いま、プライベートすぎてよくわかんないんだけど。

「師匠」

 しかし切り込む依田。

「ん?」
「シュウマイ弁当買ってないです」

 は?

「な、なにぃぃ!」

 キレた。
 お師匠、キレた。のか?瞑りそうな目がかっ開かれた。
 依田、それに縮こまり、「すまへん、すまへんん…」と謝っている。

 なにそれ。

「お前弟子としてどうなんだバカたれ!」
「すんませんん、遅刻してきたから忘れちゃいましたぁ!」
「お前東京でシュウマイ弁当忘れるなんざありえへんわぁぉ!」

 血圧上がりそう。血管ぷっちんして死にそうなんじゃないかと不安になるくらいにゴッド師匠、依田にガチギレしている。

 面倒そうなので、

「すんませーん」

 車内の販売員を呼んだ。姿勢のいい清潔感ある女性。二人とも「あっ、」だの「待った、」だの言っているが、

「シュウマイ弁当3つください」
「はい、かしこまりました。その他は」
「大丈夫です」

 車内販売の女性は営業スマイルで去っていった。

 ほれ見たことかと二人を振り返ってやれば、何故だか落ち込んだ様子で二人とも俯いている。

「…ん?」
「…ツキコちゃん、初めてかい?」
「え、はい」
「亀ちゃん…」

 意を決したように依田はあたしを見つめて言った。

「お土産用なんだよ」
「ん?」
「シュウマイしか入ってないんだよ、15個」

 …。

「は、えぇ!?」

 驚愕だ。
 それ、誰得なんだ一体。

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