7
それから。
「いやホント言わんといてな、はぁん、俺のぅ、こんな姿ぁ、」
バイト先、六本木の奥まったビルの7階のわかりにくいところにある『violet』にて。
「んなこと言ってぇ」
バシン。「いやん」、「お客さん和服よりこっちのがいいんじゃね?おししょーさまぁぁ!」バシン。
パフォーマンスで雀生さんを、黒い、股間と首元しか隠れない黒い皮の衣装に着替えさせてショータイム。
現在22時。腕はダメとか言ってたけどあたしは人間国宝の腕に蝋燭垂らしまくっている。
介護人は依田と穂咲兄さん、本名伊坂初音《いさかはつね》。送り迎えはジャクソンくん。
伊坂さん(穂咲兄さん)は紳士笑顔で、酔っ払って頬が上気してるのはわかるが、若干ししょーに引いていた。
「いつから知ってたの紅葉」
しかもまさかの、
夫婦、と称される自分の相方である、只今仏頂不機嫌面の猫背三味線の師匠がそんな状態、師匠にそんなことをしている女はそいつのレズビアン同居人。
本日一番不憫なやつかもしれない伊坂さん。
「いやあぁ、ツキコ様ぁぁ!」
「なぁにおししょーさまぁぁ!」
ばしーん。
「いやいつからっていうか入門したときから薄々ししょーは変態じゃないかと思っていた俺は」
「はぁ、そうか…」
「しかしまさかこうだとは思わなかった」
「あら、誰が変態だって?」
「なんでもないですよお嬢さん、どうぞ良い機会なんでぶっ飛ばしてあげてください死なない程度に」
「亀ちゃんってホント怖い。
初音さん、俺が死んだら多分亀ちゃんが犯人だ」
「なに?やられたいのか依田」
「俺痛いの嫌いだよホントは心中物とかも痛そうでやなんだよ」
「そうだったの紅葉」
「そうだよぅ。俺三番叟《さんばそう》くらいの緩いやつがいい」
「それはちょっと君の技術じゃ楽してんだろ」
「うん。あと廿四考《にじゅうしこう》」
「鬼だねぇ。てか狐だねぇ」
「ねぇあれなら兄さんの艶だって」
「でも君と二人でやりてぇなぁ。今だときっとあの師匠は付いてくるから君はツレでしょ?」
「まぁね。てかあんな大曲はいまの俺じゃぁ…」
「弾けるよ弾いてたじゃん」
なんか、仲良いなぁ。
確かに、夫婦みてぇだなぁ、この二人。
「そういやぁ君さぁ。ゲイってマジなの」
ぶしゅっと。
依田は漫画のように焼酎を吹き出した。そして言う、「はぁ!?」
「いや彼女が」
依田に睨まれ、おしぼり出してやったら奪い取られた。
ちなみに今ししょーはNo.1のユキに苛められている。
「君なんてこと言うの」
「いや打開策…。だって、英語テキスト…」
「違うじゃんっ!だから、俺はさぁ、君のこと抱け」
「てめえ店でそれ以上言ったら左手にウォッカで火ぃつけるかんなクソ野郎」
伊坂さん、全てかどうかはわからんが察し、「ごめんなさい女王様」と謝ってきた。
「え、でも君が英語テキストに挟んだそのチケットっていうのはつまり…。
もしかしてここのダンスショーのチケット?」
「違うよ初音さん。ただ単にあの…ライブの」
「そーそー。あたしもこいつもファンなの“のんちゃん”」
「あ、なぁるほど!じゃぁライバルじゃん」
いや、違うけど。
まぁ、うーん。
めんどくさいので「そうっすね」とか言っておけば、「えっ」となったのは依田。
なんだよお前空気読めよ。
「亀ちゃんそうだったの」
「違うよだからお前なにぃ?もう空気取得してホント。そうだったら何故お前にチケットやるの」
まぁ私も持ってるけど。言わないでおこう今は。めんどいから。
「え、俺一人?」
「大丈夫私も行く」
「君出ないじゃん」
「うん、お前介護。あとあたしもファンだからのんちゃん」
「ねぇそれってライバルじゃなくて?」
「いや違うんですだってほら、うーん、めんどくせぇな…。
私声フェチ、のんちゃんショタ声男性、私の性的対象、ではないけど好き、リスペクト、以上」
もういいや。
そろそろダンスショーだし逃げよう。
ダンスショーの準備をしに幕に逃げた。
あたしの狙っている、店No.2、M担当のある意味あたしの相方であるミカが俯いていた。
ミカは、くるくるパーマの黒髪な、痩せ形の、顔の小さな可愛らしい童顔の23歳だ。M担当、実際吐き癖があったりするナーバスタイプだ。
「どうしたの、ミカ」
「ツキコ、あのさぁ」
ママさんが曲をセットしながらちらちらと様子を見つつ、「リンキン・パークのGood Good-byeね」と言う。
「あの人に抱かれたってホント?」
「へ?」
「だってさっき」
「えっ、いや」
「私のことあんなに愛してるって言ったくせに」
「ちょっと、ミカ?」
「バカみたい、その気になっちゃったじゃん。私のことからかってたんでしょあんた」
「違う、違うよミカ」
「もういい死ねこのクソアバズレビッチ!あんたなんか顔も見たくない!」
なっ。
照明が消えた。
- 7 -
*前次#
ページ: