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 “ゲイバー 銀座 Flack”は、フロントビルの4階にあった。

 正直、店名の時点で客足なんて微妙だろうと容易に想像がついた。
 4階という寄りにくい位置だし、どちらかと言えばここは銀座ではないし。ロゴも白地に黒文字という微妙なセンスだった。

「あぁ、微妙でしょうねなんか」
「やっぱりそう思うか?」
「最近増えたんでまぁまぁこの界隈も見てきましたがここが一番微妙っすね俺のなかで。確かにゲイバーってセンスが両極端ですけど」
「普通のキャバクラでも微妙だよな」

 坂上と陽一の中で「そりゃ売れねぇよな」と納得したところで、エレベーターを呼ぶ。定員6名400キロくらいの、いかにも古いエレベーターで、ここはつまりそういうビルだ。ここしか借り入れられなかったのだろうか。

 4階で降りればすぐ目の前に店がある。外装は確かにそれでもレトロでおしゃれな雰囲気だが、木の扉には取って付けたように「会員制」と銀のプレートがあり、扉には料金プランが記されている。Open14時、これは早い。
 Men's Only、ボトルセット2000円、ショットセット1500円。これはまずまず相場である。

 簡易的な確認をして店の扉を開く。カランと店のドアが鳴る。

 カウンター席でサラリーマンの隣に座っている、一見すれば陽一からは「ホスト」という印象でしかないちょっと髪が長めの若者が「いらっしゃいませ」と、客に売っていた媚を一度こちらに寄越す。語尾に残りがあった。

 その他2人ほどがバーカウンターにいたが、一人、短い金髪の店員が「いらっしゃいませ」と出迎えた。
 目がとても澄んだ青年だった。

「お二人様でしょうか…?」

 と、笑顔の下に少し困惑が見えた気がする。二人で来店したことか、どうしても出る職業臭か、それとも自分達がその筋ではないのを見分けたのか。いずれにしても確かに、店では気色が違うようだ。店員も先にいたサラリーマンも、皆一様に陽一と坂上を横目で見ている。

「営業時間中に悪いな」

 そう挨拶をしながら陽一は胸ポケットから名刺を渡す。
 茶髪の青年は名刺を凝視し「…オーナーですか?」と、ますます迷宮入りしたように小さな声で訪ねてきた。

「…田野倉氏と話がしたいんだが」
「…まぁ、はい…」

 なんとなくは掴んだらしい青年が腰を屈めるような低姿勢で、真横にあった「STAFF ONLY」の扉を「すぐここなんですけど…」と促しながらノックをし、開けてくれた。

 然り気無く陽一は仕込んだボイスレコーダーのスイッチを入れた。

 青年は二人に先に入るように合図をし、扉を閉めてから「田野倉さーん」と奥へ呼び掛ける。

「お客さんですー。あおやぎ?さん…の」

 陽一が取り合えず青年に掌を見せ「ありがとう」と感謝を告げると、青年は頭を少し下げてすぐにスタッフルームを出て行った。

 「田野倉さん」と陽一が呼んでやろうかというタイミングで奥の暖簾から、いかにもバー経営をしている、といった出で立ちの、紫シャツが目につく中年の男が現れた。

 自分よりも明らかに若い男二人を見たせいか、「ああ、どうも」とナメ腐った冷淡さで田野倉は目の前のパイプ椅子を促してきた。

 後ろにいた坂上は何も言わないが、陽一は「いけ好かねぇ」という坂上の心の声を聞き取った。実際自分も、そう思う。

「初めまして、川上と申します。
 …青柳から|見ヶ〆料《みかじめりょう》について話を聞いて来いと伺ったのですが、何かこちらに至らないところがあったでしょうか。
 見たところ後は用心棒でもお付けしたらよろしいでしょうか?」
「…何を聞いてきたかは知りませんけどここのショバ代、なんとかなりませんかね」
「なんとか、とは?
 立地的には…ここ、賃料40万にして10%公益費4万なんて、相当譲歩していると思いますけれど」
「…はぁ!?
 …まぁ、いずれにしてもこの店舗がそんなにするわけないやろ、本気で言ってんのか」

 確かに。

 銀座立地の条件で四階ならばピンキリだがまぁまぁ相場だろう。
 しかしここを新橋の駅近くとしたら話は変わってくるし、ここは正直ビル耐性として古い。賃料としてもぼったくってるのは事実だ。

 だが、いずれにしてもとは、どういうことか。

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