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 掃除機を掛け終えた頃に藤川瑠璃は、香苗の服を着て「あの、すみません」と非常に気まずそうだった。
 掃除機の音で気付かなかったが髪はすぐに乾かすタイプらしい。

「あぁうんあったから」

 何て言えば良いかすげぇわかんねぇ。普通着せないだろうし、てゆうか俺なんだろう、器が小さいんじゃないかってくらいぐるぐる考えていて変態臭い気がしてきたな。

 けどまぁ「何にでも勃つ」という予防線を貼ったじゃないか、最低野郎な感じでいけば正しいのか?実は。

「…悪いな、いや、俺のじゃ明らかにデカいとか考えて、あったから」

 しかし耐えられない器よ!

「…いえ、ありがとうございます。着ちゃって良いのか、いや、着るべきなのかとか複雑でした」
「……そーだよねそーだよね!わかる、ごめん、」

 まさかそんなにズバッとハッキリと言われるだなんて思わなかったよ、思いの外動揺したよ。

「えっとあのなんか食える?ゼリーも用意した」
「…あぁ…。
 そうだ、最後食べたのいつだっけ…」
「え?何?」
「……お腹すいた、かも」
「…そーだなそーだな。食おう。パスタとカツ丼とカップラーメンとあと唐揚げとかまあ色々買ったけど」

 無駄にね。俺はカツ丼食いたいけども

「…カツ丼で」

 だよね。ん?思ったより食うねってそりゃそうか。
 …うんまぁ良いことじゃん。

 藤川瑠璃から仰せつかった俺は弁当を暖め、その間にビールを開け、まぁ一安心かなと暖めた弁当をテーブルに運んでやったが、藤川瑠璃はソファーですでにうつらうつらしていた。
 なんか、人間の三大欲求を見たような気がする。

「あ、寝るなら一応ベッド片したんだけど」
「あ…、はい頂きます」

 …何気に尽くしている気がするけど実はこの子、思った以上になんだか傷付いてなかったりして。
 いやけどかなり死にそうな感じだったよな。読めないなぁ。まぁでも傷付いてない方が良い訳だけど。

 まぁ、疲れるよな、そりゃ。

「…美味いか、カツ丼」
「はい、あの…取り調べの人が泣く気持ちがわかる気がします、美味しいです」
「うーん凄く良くわからないけどまぁ、元気そうでよかったような」
「…というか、安心したような気がして」
「そりゃよかった。やっと一息だな」

 気まずさもあるしテレビをつけてみたが「あっ、どうしよ…」と、彼女はカツ丼の半分くらいを食べてぼんやり言った。

「ん?」
「…どーしても、眠さが…勝ってきちゃった…」

 もしかして大して眠っていない生活だったりして。
 いや、今は余程、緊張が取れたんだろうか。

「あーまぁいいよ。一回寝てみても良いんじゃねぇか?また食え」
「はぃ…うーん…」

 素直にカツ丼の蓋を閉め、割り箸を蓋の上に置いた藤川瑠璃は「ごちそーさまでした」と言ってから、すぐ側のベッドへ寝転んだ。

 テレビの音量を小さくして、パスタと唐揚げをつまみのようにしながらビールを煽る。ビールは最高だ。下戸でもたった一本あるだけで疲れが抜ける。

 藤川瑠璃は、本当にあっさり眠ってしまったようだった。それは防備もない、普通の女の子の寝顔で。

 …情緒不安定だったしな、今日。というか、いつもなのかもしれない。
 そういえば今日、具合は悪そうだったな、昼。

 唐揚げもパスタもビール一本も飲食を終えネクタイを外しソファーに寝転べば、俺もぼんやりしてくる。

 クイズ番組がやっている。
 四角に入る言葉はなんでしょう、あぁ無理そういうの大体。
 送、向、突、力…全然無理。何?共通語…うーん送迎?あー無理。
 風?あぁなるほど送風、突風、風力…向風は無理があるんじゃないか、使うか普通。はい無駄。俺の脳ミソ何歳なんだろ。疲れたな。

 バカ枠と天才枠。つまらん。何が面白いんだろう…この手のテレビ。何もやってないなら別に良いか。いつも、つけないのにつけても、まともじゃないな…………。
 ……てゆうか……昼もパスタ食ったじゃん。………まぁ…いいや……。

「きゃああああ!」

 叫び声で目覚めた。
 テレビ画面にドアップのゾンビ。

「おぅあっ!」

 待って、待って、いま何時。俺もしかして超寝てた?2:45。ったく何得でホラーなんてやってんだよ何が楽しくてこんなん夜中に観るんだよやるなよっ!

  消した。
 あー超心臓バクバクするぅ。一気覚醒。ホントに勘弁して欲しいっ。

「あっ」
「…っなんだよっ!」

 ビビる。藤川瑠璃だった。そうだ、てか起こしたなきっと。
 ぼんやりしながら「おはようございます」と言う彼女の顔はケータイ画面に照らされる。それ、若干ぽいんだけど。

「ホラー嫌いなんですか?」
「…うんあぁビックリしたマジで。悪いな起こしたか」
「…少し前に起きました」

 ケータイが暗くなる。藤川瑠璃は見事に瞼が腫れてブス顔だった。ブルーライトって残酷だな。

 突っ込まないでおいてあげようと思ったらまた画面がひとりでに点る。
 藤川瑠璃はぼんやりとケータイを手にして仰向けになり眺めている。

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