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ケリーはワインと、トイレットペーパーのようなものを抱えていた。
「Dear my sons,(親愛なる息子たちよ)
Today's pattern is also good,(今日のパターンはとてもいい)」
…やばいな、今日の天気は雨だけど、恐らくこれは「本日はお日柄もよく」というやつだろう。
確かそれは日本文化で大安やら先勝やらと天気には全く関係のない挨拶だったと思うが、ファッキンイエローモンキー文化をファッキンイングリッシュですべらかに言う顔の赤いエセ神父の心意が不明だ。
しかしケリーはペラペラと「Good day is I'm a suggestion,Thought about naming you.」と進めてしまうのでなかなかケリーについていけないけれども「Look at this!」と、抱えていたトイレットペーパーのような凄く薄い紙を広げ、赤ら顔のままケリーは俺たちに見せつけた。
『月夜里 祥真』
「…えっと、つきよざと…」
「No! Your name is Syoma-Yamashita だ。読めなかろう」
「………」
突然「はぁ、」と溜め息を吐いてドサッと椅子に座ったケリーは
「これやるよショーマ」
と俺を見て言い、仕方なくと取りに行けば俺が受け取るか受け取らないかでひらひらとその紙を落とすようだった。
「…日本じゃそれを『習字』と言うそうな」
「はぁ…」
「家《ウチ》とは違う宗教文化だが、Temple、Shrineといった施設では祝い事でこーやって字をしたため、飾ったりすると聞いたことがある」
「…はぁ、」
「イッセイが死んだ」
まるでガックリとわかりやすく頭を垂れたケリーが、そう言ってワインをらっぱ飲みしたのだから、命名ありがとうございますとも言えず。
ただユミルが「どゆこと?」と、ケリーに詰め寄りそうな勢いだった。
「まんまだよまんま。フィリピン沖で見つかった」
「なんで」
「知らんわ」
突き返したケリーはぼんやりと、神父服のポケットから少し太いパイプと、木の葉を丸めたような塊を取り出して咥える。
「……一撃だ。お前らにヒショを任すとはこのことだったんだな。日本警察に潜り込んだは良いが、この様だ」
ケリーは葉の塊をパイプに摘め、ジッポで火をつけその煙を吸い、「はあ…」と溜め息と共に吐いていた。
「なんで、」
「だから知らんちゅーの。あれから音信不通だったし」
「ケリー、そんなのオカシイでしょ」
「あぁおかしいよイエローモンキー共、ラリってやがる」
その煙は独特な臭いがした。
「…てゆうか、」
「まぁ来いよユミル」
「…ヤダ」
「いいから来いっつってんだよクソガキがっ、」
ケリーはパイプから燃えカスを手に取り、熱くないのかそれと思う間にこちらへ投げつけてきたのだから相当だと察した。
最早、口答えをすれば殺されかねないとユミルと共に察したが、カーペットが燃えそうだと冷静に判断し靴の底で踏み消した。
…あの宗教施設が燃えた臭いとはまた違った煤の臭い。
ユミルは「ひぃ…」と怖がっている。
それに構いもせず「ホンマにやってられん」と、ダラっとしたケリーは再び葉を詰めパイプに火をつける。
…なんだか気持ち悪くなる臭いだった。
「ったく何が「正義は必ず勝つ」だ、お前らネガティブ島国の奴らはみーんな、おかしいんちゃうか、なぁ?平気な顔してその身を捧げようだなんてぇ、生け贄だ、ホンマ神さんにとっちゃ迷惑な話だわっ、」
…わからなくもないけれど。
「てめえの浅ましい死骸ひとつで平和になるなら皆戦争すんだよぶぁーかっ!死ね、皆死ねっ!クッソ……、」
ダルダルなケリーは頭痛に耐えるかのように眉間を揉んでは「あー哀悼ガンギマりぃ…」とそれからピクリとも動かなくなってしまった。
「…ヤバい」
流石のユミルも言葉を失ったかと思えば俺の肩に凭れるように手を置き、「…久々ぞわぞわして吐きそう…」とポツリと言った。
「えっ、」
「…ダメかもリョーマ…」
「何が、」
「そこ発音sだっ、バカ、」
「ちょっと待ってケリー、ユミルの顔が青いけど」
「はぁ?何がぁ?」
ケリーも大分発音が覚束無い。
ユミルが「動けないヨぅ、吐くぅ…」と弱々しく言い出すので最早場はパンデミックで。
大分座った目でぼんやりと俺たちを見たケリーは「はぁ、まぁほれ」とドアの方を震えそうな手で指差すこれは、間違いなく異常事態だ。
なんだかこの人にはなんの言語も通用しなそうなので、仕方なく俺はユミルに肩を貸し「取り敢えずトイレまで…ちょっと我慢出来る?ユミル。よーし、よーし…」と声を掛けているうちに確かに部屋、思ったより臭いなと気が付いた。
結局ユミルはトイレまで待てず、廊下で果てるように俺から落ちて嘔吐した。
俺もそれに耐えきれず嘔吐して暫く二人で苦しんでいれば、覚束無い足取りでやってきたケリーが「あれぇ?」と、更にラリっていた。
さて助けようとしたのかケリーはしゃがんだが、「殲滅の判断をしたと言ったよなリョーマ」と、静かにそう言った。
そんなことより助けて欲しいんだけど。
「…私たち飼い主はそういった判断は民に…任せるようにしている。イツミは君に手榴弾を託したと聞いた。それには…どんな未来を考え付いたのかな」
何を言っているかよくわからないけどケリーはやはりパイプを吹かし始めたのだからもう本当にやめて欲しいし、ユミルなんてちっこいんだから出るものないじゃん、と涙目でケリーを見て批難した。
案の定ユミルは「ぅえっ…」と、身体を波打たせるように吐いていたのだから気の毒だった。このままではあとは血以外に吐くものなんてないはずだ。
「…ユミル…うっ、だ、大丈夫かい……」
喋ると死にそう。
そんな俺たちを見てケリーは漸く、「…止めるか、これ。気持ち良すぎてイッちまいそうだし…」とぼんやりと気付いてくれたようだった。
ケリーとユミルはその日から「No Smoking,No Bleezie」と、声を揃えて言うようになり、俺は勢い余り、向こう三ヶ月はリョーマと呼ばれることになった。
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