11
あの日、茅沼樹実は俺に手榴弾を渡して去っていった。
俺はそれを忘れることが出来なかった。
しかし、平和の為に破壊があるのか、破壊がなければ平和は訪れないのかという疑問が、いつまでも絡み付いて離れないまま、神父が言った「その身を捧げようだなんて生け贄だ、神さんにとってそんなのは迷惑だ」という言葉も、兄弟の言った「命を賭して守れない正義なら結局はエゴだ」という言葉もずっと引っ掛かっていた。
だがしかし俺は最初に殺した子供も、汚された女の子も、破壊した無関係な人々もその立場に立っていない。
それでも、茅沼樹実や相方の|熱海《アタミ》|雨《アメ》や…壽美田一成が本当に迷惑でエゴだったのか、ずっとわからないままだった。
俺が望んだものはなんだったのかという疑問のまま仲間から一人離れ、ワシントンの大統領選挙発砲事件に立ち会うことになった。
大統領選挙の副大統領有力候補の暗殺計画説が浮上していた。
その主犯が元日本の自衛隊員だった、というもので。
俺はそのまま日本警察に滑り込み、調査を続けた。
そこは真っ暗な闇のようだった。
俺が生まれたはずの国の正義は、とてもとても真っ暗で。調べれば調べるほどすっきり、真っ黒くなっていくことに恐怖や、諦めや。
もしもこの道を歩いてしまったら、そう掴んできた矢先に、俺はやはり、流星やユミルと共にしたシベリアの政治政党を思い出した。
彼らはそれぞれの信じた道、それが歪曲していたとしても進まなければならなくて。
それでも差別は生まれていく。
…嫌でも、あの狭い宗教施設を思い出す。誰がどう幸せだったのか、あれから幸せになることなどあるのか。
…そもそも、幸せや平和とは、一体なんだろうかと自分で試したくなってしまった。
それが欲しいと願った瞬間、一気に、必然的に「破壊衝動」が沸き上がってきたことに、ユミルの泣きそうだったあの叫びが浮かんでくるのだから、ますます迷宮入りになった。
だけどねぇ…。
どこか、奥へ行く手前で冷静になる自分がいるんだ。そんなものは無い物ねだりでどうしようもなくなると。
誰か。
誰か。
いつか呼ぼうとしていた声すら吠え面だと思うときに沸く、血のような、心臓から涌き出る冷たいものに歯を食い縛りたくなる。
そして、ほら………。
その日、警察庁の屋上から眺めた景色は綺麗なもんだと感じたんだ。
ただただ、本当はどこかで知っている。
いつだって薬莢は空になり勝手に落ちて、滑り落ちるような。
ただただ本当はそれが物凄く。
「あのー」
現れた人物は金髪で、とても綺麗でぶれない黒目の視線で、すぐに不思議と感じた。
俺はこいつに、撃ち殺されるかも知れないと。
あぁ、そうだ俺は。
「平和なんかじゃないなぁ…」
俺は一体何をしているんだ。
俺は蟀谷に銃を当てていた。
タバコが美味しいと初めて思えた。
そいつは、俺と共に警察庁に立て籠った機捜隊の大貫というやつと突然交渉をし始めて。
どう見てもイカれているだろう俺に対しても、ナイフを向ける大貫にも臆する事なく丸腰なのだから、どうかしていると思ったけれど。
「あんた、カッコいいな」
そうそいつが笑った事に、何故だか凄くショックを受けた自分がいた。
あぁ、そうだ俺は。
ホントはずっと。
俺は一体どこで何をしている。
あろうことかそいつが更に、ナイフを持った大貫の腕を固定したのは多分、後ろから眺めた俺しか見えない状況だった。
そのまま大貫に抱きついてしまうのだから一瞬にして全て、まるで麻薬でもすっぱり切れたかのように血の気が引いてゆき意識が現実に戻って来たように感じて。
「…こーやんだよ、バカ」
…あっ。
………あっ、
俺に、ないもの。
そのままそいつがぐったりと大貫に凭れ掛かったのを見た瞬間、俺は蟀谷から銃口を離し、咄嗟に大貫を撃ち殺してしまっていた。
そうか、
そうだ。
俺はずっとどこかで感じていた。
もしも、奪うことも、破壊することもなくても自由が見つけられたのなら。
足が引き摺られても下を見ることが出来ない、これはそう。
怖かったんだ。
ずっと、だから光に辿り着かないのなんて。
「突っ立ってんじゃねぇ、おい、誰かさっさと救護呼べよっ!」
叫ぶように。
俺はそいつに駆け寄り「大丈夫か、アホかおいっ!」咄嗟に考えられるもの、ジャケットや何かで止血を試みていた。
腕の中で冷たくなり、血が広がっていくこの人は。
初めて、心の底から人を綺麗だと感じ、涙が出てくるのだと知った。
見る見る顔が青ざめ血の気がなくなっていくそいつに違うんだ、聞いてくれ。俺は死ぬのが怖かっただけなんだ、そう言ってやりたいとも初めて、そう思えた。
fin.
Thank you by Reader.
2019/11/30
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