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「つまり、朝廷という物の主軸はどこにあるんだ?」

 藤嶋に見せられた手紙。
 経文か何かかと思った。

「神様の気紛れだという話だ、俺にはわからないよ。お前、坊主だろ?」
「それを行うのは人間でしかねえ。
 しかし、どうして薩摩と会津なんだ?」
「これが最高の公武合体、としての見せ物だということだろうよ。体よく、どちらも見映えは従順だ」

 藤嶋は酷くつまらなそうに言い、煙管を吹かす。
 この男がどんな男か…それは、宿屋の腹黒い店主としか朱鷺貴は知らない。

 朱鷺貴は朱鷺貴で煙管を吹かした。少し、前と味が変わったような気がする。

「…それとあのジジイがどう関係する。全く、少し前から完全に文が途絶えた」
「字面に残すと厄介な内容をお前に送っていたということじゃないか?知らんけど」

 …あのジジイはただ、修行に行ったのだ。

「宝積寺には修行に出たんだ、残せないってのはなんだ、賊じゃあるまいし、」
「じゃ、忘れてるんじゃないか?」
「あんたな、こうまで言って」

 言も熱くなってきたところ。
 間も悪く「藤嶋さーん、おるよなぁ、」と、最近寺を騒がせた俗の、デカい声が聞こえてきた。

 …一体なんなんだ、迷惑極まりない。

「客らしいぞ、出て来いよ」
「は?」

 は?とは何事か。

 はよしてや、だのなんだの、嵐のようだ。
 こんなとき、繰り出るのは自分しかいない、と、仕方もなく重い腰を上げる。

 全くなんだってんだこの前から。あいつは暇なのか全く。
 …あれ、そういえば結局翡翠は、どうした?

 少し歩けば普通に、賽銭箱前あたりに藤宮の姿が見え、自分でもわかりやすく眉が寄ってしまった。

 庭では「近付きたくない」と言わんばかりの小姓達が遠巻きに見ている。
 下手に悪絡みされる前に「なんだまた」と、藤宮にはこちらから先に声を掛けた。

 朱鷺貴に気付いた藤宮は「はぁ、」と、袖口から銭を出し、ご丁寧にも嫌味ったらしく賽銭箱に小判を入れた。

「よう坊主。ウチのが出てくるんかと思えば」
ウチの・・・は生憎はいらちでせつろしーどす〜」
「ああ?」
「盆過ぎでやっと穏やかなんだがお参りか藤宮の」
「坊主はええなぁ、ここに宿屋の店主来とるやろ?」
「は?知りませんけど」
「冗談言うとる場合やないねん。金清楼の藤嶋宮治っつー顔に傷ある……ああ、藤嶋さん、どーも」

 振り向いた。藤嶋は普通にやってきた。
 …なんでこの人こう、わからんかなぁと溜め息が出る。

「よう五代目。元気そうだな」
「あーあーはいはいご機嫌麗しゅうなぁお上さん。
 あんたなぁ、も少しでこっちとら商売干上がるところやったんやで、嫌味言いに来たわ」
「よくわからんがホンマに元気そうだな」
「惚けんな、あんさん気ぃ狂っとるわ、外道か」
「あぁそう、お墨付きを頂いたようで。儲かりまんな」

 それにくっ、と、黙ってはきっ、と藤嶋を睨み付けた藤宮は「どないつもりや、」とまだ食って掛かった。

「あんた、売ったな同郷を」

 …は?

「さっぱりわからないけど」
「白々しい。知らんでホンマに。あんたとはやってられへん」
「しかし、話振りからするに五代目にはなんの損も」
「どうだか、」
「…あんたら、一体なんなんだ、おい」

 …理解したのは、お上さんは仲良しこよし理論で、だから、左右に寄っている者は邪魔なんだという、まるで歯の浮きそうな綺麗事だったのだが。

「なぁ、坊主。神様は皆平等だと弟子に教えるよなぁ?」
「それは、何かを排除することじゃない」
「…坊主はええなぁ、あんさんは特にな」

 …じわりじわり、二回言われるとより腹が立つな。

「本来ならば俗世は捨てている身だからな、とっくの昔に。しかしそもそも世を知らない。それ、ウチのアホジジイに関係あるか?」
「なんやなんも聞いとらんのか?へぇ、そりゃ平和なこっちゃ。そのまま知らんでも」
「藤宮の。話は簡潔にお願いしたい」
「知る必要あるかぁ?てぇか、そんなんも知らんでウチのあれと居るなんて言わんよな?」
「知ることもなければ、得ることもない。般若心経にもある。あれは、ウチのアホジジイを殺しに来た。そして、今は“知ること”の節。それは、俺もお前も変わらない。
 藤宮の、幹斎は…いや、世論はどうなっている」
「……ハッ、有難や有難や南無阿弥陀仏や。ホンマに言うとんのならいっぺん死んでみぃや、これだから坊主は。
 あの生臭ハゲ坊主はなぁ、そこにおるお上さんに使われ、吊し上げられたところや。昨日の“政変”でなぁ!」

 …なんだと。

「…語弊があるなぁ。ええ?あんなクソハゲ使えもしねぇ、お前だろ藤宮。
 なぁ、鷹はやすけねぇ鳥だよな。掻っ攫えなかったからって俺に恨み言かよ、この南無っ!」
「はぁあ!?」

 うわ、一瞬にして驚いてる暇、なくなったなおい。

「…取り敢えずうっさい。
 あぁ火薬仕込んでんのは知ってっぞ。よーするにあんな使えないクソハゲ生臭坊主なんざを取り合って」
「アホか坊主。その男はなぁ、なんもかんも品、見境なく斬り倒すいう話やないか、あろうことか、自分の立場、下々すらもなぁ!
 俺かてそんなんせんわ。俺は自分が可愛いからな!」
「翡翠を売り飛ばした件はどーした五代目。品がないのはてめぇもださっきから、」

 あー…面倒臭っ。

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