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「………!」
2月の終わり、昼過ぎだった。
「よう坊さん」
寺に突如、ひどく身軽そう、浪人のような若者三人が現れた。
優男と、「遠いね〜!」とはしゃぐ長身、「道場を思い出すなぁ」と豪快な男。
こいつらとは面識がある。
朱鷺貴は今、運悪く仕事を終えたばかりだった。
こいつは面倒だと「何方様デショウカ」とシラを切ろうとしたのだが、「あれ?土方さん?」と、堂を片付けていた翡翠と言葉が被る。
江戸の試衛館のうち三人、土方、沖田…もう一人豪快そうなやつは「原田」だったか、それらがどかどかと遠慮なしに縁側に座ったのだった。
「…お久しぶりですね、どうも」
「本当に坊主だったんだね」
…確かに、近藤の手紙には「上京する」とあった。
翡翠が早々に「茶でも持ってきますね」と引っ込んでしまう。
まだ、暑苦しい近藤がいないだけましかもしれない…が、何故突然…殴り込みにきたのかと、「……まぁ、はぁ」と朱鷺貴は言葉少なになる。
「元気そうじゃねぇか」
「はぁ…まぁ。
あんたら上京したって本当だったんですね」
「そうそう。挨拶に来たよ!」
「はぁわざわざどうも………」
なんと端迷惑な。
「少しばかし立ち寄ろうと思ったんだが、思ったより歩いたなぁ…」
「…まぁここは京でも端ですからね…どうせ街中から来たんですよね?」
「そう。壬生の新徳寺ってとこから」
土方から凄く…誇らしげに言われてしまったが「知らないなぁ…」としか言えない。なんせここは小さい故に交流もあまりない辺境の地だ。
「近藤さんからの手紙にお役目がどうのこうのとあったんだが、」
「あーまぁな…」
「それがさぁ、ただの浪人になっちゃうかもしれないんだよね」
あっさりそう言った沖田に「はぁ」と即座に聞き返す。
そもそも、例のお役目というものがわかっていない。
「あら、ここまで来て?どないしたんです?」
翡翠が茶と羊羹を持ってきた。
「…なんかわっかんねぇけど、いま近藤さんが会津のお偉いさんに取り合ってるとこ。一昨日こっちに来たんだがそろそろ殴り込みに行きたいところで、」
それはどう言った手前で?
話はこうだった。
近々将軍が上洛する。
その際に将軍の警護をする為、陸奥国会津藩の名の元に発せられた令だそうだ。
会津藩藩主、佐幕派の松平容保という人物が「京都守護職」というものに就き、去年の末に江戸で浪人を募集した。
その京都守護職というのは読んで字の如く「京を守護する」というもので、この荒れ狂い京都初司代すらも手がつけられなくなった治安の打開として、ここ数ヵ月で新しく作られた役職なんだそうだ。
「藩主の命で隊員募集を掛けた清河って野郎がこっちに着いた瞬間、長々、長々と高説垂れたのが「我々は尊皇攘夷をする」だぁなんだって…まぁ尊皇攘夷っつーのはわかるんだが聞いてりゃ所謂倒幕だったわけよ。なんか、薩摩とどうこうと胡散臭ぇ胡散臭ぇ。
流石にそりゃぁどう言う御了見かと俺たちは声を挙げたわけだけど、だってそうだろ?幕府、天皇から“警護”を、仰せつかってんのによぉ?」
「あ、この羊羹美味しいね」
「せやろ、少しええやつですわ、特別に」
「んーまぁそうですね。尊皇攘夷っつーのはその場合どうなるんです?倒幕ってことは天皇から見たら幕府は邪魔なんだよ理論な訳で?」
「わっかんねぇ。まぁ他にもコロコロと話が転がる野郎で」
「んーまぁ確かに。正直会津ってのは遠いし俺たちにはピンと来ないんだけれども」
「んー、まぁ幕府側だけど藩主は朝廷から役職を命じられてるんだとよ」
「ふーん、公武合体みたいなもん?」
「そうなんじゃねぇの?
つってもまぁ俺たちはいまもうこんな状況だし俺は近藤さんにしか着いていかねぇし上はどうでもいいけど、」
「うーん、それがなして?」
「俺達、置いていかれちゃったんだよねー」
間延びした沖田に「はぁ!?」と、翡翠と朱鷺貴が再び被る。
「いやこっちがはぁ?よ。
その野郎、江戸に蜻蛉帰りするなんて寝言も言いやがってよ。じゃ帰ぇれ!って言ってやったんだ、」
「俺なんてなぁ、」
すると、豪快原田佐之助が突然懐を明け、腹を見せてきた。
見事に1本、横へ走る傷があり、「こんな覚悟だったんだぞっ!」だなんて声を荒げる。
翡翠がまじまじと顔を近付け「わー、豪快ですなぁ、えらいこっちゃ」と感心している。
「この人すぐこれ自慢するんだよね。昔切腹したんだってさ」
「……死んでねぇのがすげぇ、それって死ぬんだろって思ってたわ…」
「だろ?」と原田が得意気になるのに話は反れるがそれはそもそも悪運というか…確かに凄いけどどうなんだ?と疑問を残しつつ「で?」と朱鷺貴は土方に話を振り戻す。
「あの野郎、本当に蜻蛉帰りしやがったんだよ昨日の朝!異を唱えた俺達を置いてなっ!」
しんとした。
「え、ホンマにっ!?」
「そうだよっ!」
「はっ……、」
朱鷺貴は耐えた、のだが、翡翠が遠慮もなく「うっ…、ひゃっひゃっひゃひゃぁ!」と腹を抱えて笑うのにもう耐えられず「う………っ、ははっ、ははははっ!」と、もう出てしまっていた。
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