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「いつも通りでしょう…全く」
「まぁ、私なりの責任や。これも通らねばお前など」
「はい、はいはい…」
あんたはきっと偉い坊さんになるよ。随分捨てきれている。
大人の役割だって、わかっているし。
一度部屋を去る間際に「アレは本当にいいんか」と壮士は尋ねてくる。
「敢えてとしたら、結局また言う機会を作らねばならんだろうよ」
「…甘いですかね」
「違う。
酷い言いたいんです。アレはまず怒るで」
「…いや、多分、怒りませんよ。怒らず黙ってしまうでしょう」
全く、と、憎まれ口のように言ってはすぐにあっさり、壮士は悠蝉を連れてきた。
連れられた悠蝉はなんともない、何も知らない表情で「こんばんは、なんでしょうか」と部屋に入ってくる。
「まずは君に伝えなければならないことがある。いや、最初に君に言いたいと俺が思ったんだ」
2年ほど前に言い合ったことも、自然と思い出した。
あの時も随分勝手を申し付けてしまった。
朱鷺貴の一言に眉を寄せた悠蝉は、「…なんでしょうか」と、まるで声を潜める。
「…他でもない幹斎のことだ」
わかっていただろう。悠蝉は俯いたが、「すみません」と、声を更に小さくした。
「…小姓でありながら私は今こうして幹斎様から離れ、お役目を果たせていません、あの時、朱鷺貴殿に大言壮語を吐いたと言うのに」
…そうこられると、なかなか、やりにくいな。
予想外の反応に、一瞬言おうとしたことが飛び掛けたが、「私も宝積寺に行きたいです」と、酷く純粋に言うのだから、却ってふと、冷静になれた。
「…君は幹斎に来るなと言われたんだろう?」
「…私の至らなさ故」
「…いや、それは違うんだが…。
えっと、俺としても君はよくやっていると思う、それはあれからもそうだし、あの時もそうだし。
あの時君と言い合いをして、自分でも考えさせられる面が沢山あった。…だから、その、なんと言うか、君は自分を下げないでいて欲しくて」
「…はぁ、」
「…朱鷺貴。お前の話は長い。単刀直入に何を考えているか言うては如何かな」
まぁ、そうだ…。
「…そうですね。
元来話が得意ではないので、もしわからないことがあったら聞いてください。まず、現状どうなっているかという話を、俺がわかった範囲で話します」
下手に唐突だ。
まだ、訳のわからない顔をし「はぁ、」と言う悠蝉に、これは全て大人の勝手でしかないのになと、柄にもない。悠蝉は過去に一体、どんな体験をしたのだろうかなど、気にもしなくていいことまで頭に浮かんだ。
「…単刀直入に言うと和尚幹斎は、朝廷だか幕府だか…下手すれば捕縛対象になり下がった、と言う話だ」
間があった。
間の後に「はぁ!?」と声を上げたのは悠蝉の方だった。
それは想定内の反応で、朱鷺貴は落ち着いて、今朝から理解した部分だけを淡々と話すことに努める。
「…何故、そのような」
「時勢だろう。
宝積寺は古くから戦場としての名残がある場所だ」
「そんなの、あの人はじゃあ、巻き添えを食っただけじゃないですか」
「いや、そうでもない。幹斎はある程度わかって行動しているだろうと」
「そんなわけ…、」
「何れにしても、悠蝉。
仏教では人の生き死にを天秤に掛けてはならない。それらは平らに等しい、死は生で生は死と」
「そんなんであんたは納得してるって言うんですか、朱鷺貴殿!」
……こうも真っ直ぐ来られると、胸が痛いものだなとついつい壮士を見れば、「なんだ」と言いたそうにつんけんしている。
揺るぎないなぁ、と、一つ自分に段落を付けながら、頭で纏める。
「…何一つ許せないというのが本音でしかない。それは、何も時勢ばかりではない。幹斎のことも、自分のこともそうだ」
「…え?」
「大人というのは勝手だな、悠蝉。師や、神といったものは全て、下に放り投げればあとは涅槃だと行動している」
「それは、自分のようにと」
「…話が纏まりませんなぁ。
朱鷺貴、よろしいか」
「はい、どーぞ」
「…貴様が考えているのはおおよそ検討がつく。
つまりお前は幹斎の恩を捨て、自分がここに残ると、そう言いたいんやろ?」
「話が早くて助かりますね」
「…えっと、それは?」
「簡単ですよ悠蝉。この男は幹斎が残したものをかなぐり捨て、自分が出世しようと言う腹」
「なんと言われようとその通りでしょうね」
「は、」
「しかし…私は昔からこの男が嫌いなのです。
せやから、言いたいこともわかる。世間から見たら全うなのは朱鷺貴の方かもしれんが、気に入らない」
睨むように見る壮士は、やはりやりやすいなと感じた。
「…別にあのジジイに端から感謝はしていませんよ、それはあんたがよくわかっているだろ。
ただ、それは気の毒で勝手な話だというわけで、あんたに檀家の世話を頼みたいんですよ。それがどう気に入らないってんです?
まぁ、そうして怠けたいのかと言われれば反論出来る立場ではないですよ、俺は。宛なども僅かばかりで」
「えっと、朱鷺貴殿と壮士殿…?」
「いつもいつも甘いな。こんな子供にそれを言ってお前の腹黒さは昔から…やはり気に入らない」
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