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 宗派が違いすぎる「お西さん」から収集が掛かるという珍事態に、條徳寺では朱鷺貴や、とにかく“壮士派”ではない者達が西本願寺に赴くことになった。

 向かうなか、五条辺りから騒然とした。まるで切り取られたように、西本願寺のすぐ目の前までの街が、なくなってしまっている。

 いや、あるのだが、戦火で焼け野原のようだった。
 火消しは済んだ頃だったようで、西本願寺からの手紙の消印は確かに5日ほど前だった。

 向かう途中まででも、西本願寺の坊主やその他諸々収集された坊主達が焼け跡の処理や家を失くし困っている者達を助けている。
 何故こんなことになっているのかという理由は皆目わからないが、来てくれと送ってきた西本願寺まで赴かなくても、空気は読めた。

 とにかくと、朱鷺貴は色々な坊主や町人に声を掛けながら仕事を探しこなして行くことにする。

 そんな中で一組の母子が「ミブロがやったんよ、」と忌々しそうにそう言った。

「どんどん音がしはった、したらこっちに火ぃが飛んだんよ!」

 泣く子供は「お母ちゃんどないするんや、」と母の袖にすがり付く。

「長州藩邸を砲撃したらしく、あん日は強風やって…。
 坊さん、うちらな、ただの甘味処やったんよ、そんが、なくなってもうた…!」

 手をぎゅっと握る母は俯き、「父ちゃんと一緒に始めたばかりやったん、あんまりやこんなん…!」

 翡翠が、泣き崩れそうな母の背を撫でながら「…そのお父ちゃんは、」と振り絞る。

「入り口から出ようとしはったら、燃えた、」

 母親が言うのにより一層子供が泣き始めてしまった。
 翡翠は必死に「落ち着いてな、水もろてこよな、お母さん、座ってな、」と励ましている。

 朱鷺貴は西本願寺まで少し走り、器と茶を借りに行った。

 だが、不思議だった。

 まるで西本願寺まで・・で火は食い止められているような焼け方。
 御所まで一望出来る。御所だけがある、ようにしか見えない。

 西本願寺に入ると…やっぱり体にずっしり来るな、頭がキンとする…と朱鷺貴が思った最中、そこには異様な光景が広がっていた。

 勿論、困った市民も押し寄せている。
 それよりも、ど真ん中にある大木の前で、多分最高僧だろう坊主が腕組み仁王立ちの男前に頭を下げていた。

 それは土方だった。
 白地に、背中に赤く「誠」と掛かれた羽織を羽織っている。

 …ここは広いし会わないだろうと、朱鷺貴は紛れて本堂に行こうとしたが、それがよくなかったのか、「やっぱりそうなんじゃねぇのかジジイ」と、こちらへ投げるような脅し口調が聞こえてきたので、朱鷺貴は観念し振り向いた。

「…どーも久しぶりっすねミブロさん」
「あ?あぁ、名前変わったんだ俺た」
「知ってますよ、あの庶民惨殺事変でしょ」

 ついつい、嫌味ったらしくなる。

「…あの、土方副」
「まぁいいわ。よかったなぁ、ここの武器庫に火ぃ移んなくてな、これも徳か?
 あれに用事があんだ、ジジイ」
「えぇぇえ」
「あ、西本願寺の親慧しんけい殿。お便りが遅くなりまして申し訳ない。
 まぁ一目瞭然だったので、その辺の同職に聞いて仕事をしていました。初めまして。條徳寺の南條と申します」
「……あ!
 この度は誠に有り難く…」

 互いに数珠を手に掛け頭を下げ「どうもどうも」と和やかな雰囲気になったが、頭を上げた瞬間に最高僧、親慧は血相を変え土方へ「こん方は町を助けにと私が呼んだんや、宗派の根本も違うてるし本来出来んかったんを、わざわざ来てくださって、あ、あんたらなぁ!」ヤバイな最高僧怒ってる、血管浮いたよと、「まぁまぁ、」と朱鷺貴は宥めた。

「…ホンマに申し訳ない、南條殿、恐らくお体がキツかろうと見えまして」
「あ、まぁこれくらいは最近よくあるんで…と、そう、茶器…水でもいいのですが頂けますか?側で家を失くした親子が…泣きじゃくっちまいまして、あれでは中暑になってしまう」
「…わかりました、いくらでも!回復しましたら」
「はい、連れて来ます…」

 朱鷺貴は頭痛にグリグリと蟀谷を押さえ、親慧が走っていくのを眺めては「で?」と土方に聞いた。

「用事ってなんですか新撰組副長殿」
「……今回の件だ」
「随分派手にやりましたね。いまそこで待ってる親子な、入り口から逃げようとした父親が燃えたそうだぞ、なあ。
 生き死にに天秤はないがあの惨殺事件がましなくらいだ。てめぇんとこはどうだ?燃えたか?もっぱらミブロがと言っていたぞ町人がな」
「それに関しては米の支給が幕府からある」

 朱鷺貴はわりと強めに言ったが、少し溜め息を吐き俯く土方に若干頭に来る。

「…てめぇも見に来いよ副長殿、遠目でな。多分子供がびびっちまうし。どんなことをしたか」
「この寺は長州兵を匿っている疑惑がある」
「はぁ?この期に及んで」
「用事はここからだ。
 長州の兵が拠点にしていた寺がある。天王山の宝積寺だ」

 ……その、土方の一言に黙り込んでしまった。
 なのに土方は、やはり浮かない顔をしている。

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