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 ドタバタと足音が近付き、振り向けばやはり…壮士の足で、何を言うかと見上げてみれば、ただ目を泳がせ手を結んでいる。

 その間に怒気を感じたが、彼もまたすぅ、と息を吸い「ホンマにこうなったな」と…攻めてこられないことが少し、堪えた。

「朱鷺貴、」
「…はい」
「朱鷺貴っ!」

 朱鷺貴に掴み掛かろうとする壮士に「待ってください壮士殿、」と光正も、共に来た小姓の左京も止めに入るが、平然と言おうとするのに眉が寄ってしまった。
 朱鷺貴の「いい、」の一言で二人の力は抜けたようだが、それは壮士も少し、肩を落としたからだった。

「…最期は、」
「はい」
「お前、まさか」
「はい」

 なんとも言えない表情、歯を食い縛りやはり拳を作り、堂の扉にガタッと寄り掛かった壮士が「何故そこまでするっ、」と、泣き怒鳴る声が響いた。

 ふと、そんな様子に丁度良いのか悪いのか、悪い。
 帰ってきた翡翠が真っ直ぐに来て「どないしはり」まで言って壮士の肩を叩いたのに「うるさい、」と払われてしまっていた。

 一瞬にして状況を把握した翡翠は言葉を失くしていた。

「……神が、いるからです」

 側にいる|弘法大師《こうぼうだいし》。この先にもいる誰かに向けて。

 自分も本当にどうしようもないから、と、浮かんできた言葉は「南條院殿幹弘信士」だった。

 「院殿と信士…!?」と壮士が言うなか、朱鷺貴は貰ってきた…いつの間にか担架の血で染まってしまったようだ。卒塔婆の上にアの梵字を書き戒名をさらさら書く。

 その淡々とした姿。しかし、震える筆に光正も、壮士すらも何も言えなかったようだ。
 最後に朱鷺貴は脇差しを布の上から、幹斎の腹に置いた。

「…三文字だそうですよ」

 あぁ、もう。

「武士としては…誉れだ、などと…」

 言葉に詰まる。

 本当に何が耐えられないっつーんだと、少し上を向けば鼻水が喉を伝うのがわかったが、しょっぱい、視界は少しだけ悪いが、目蓋が押えているようだ。

 水に流す?ふざけんなバカ野郎、俺。

「どっかの、バカ野郎が昔俺に言いましたとさ、くそったれが…、」

 こんなもの、全部が利己的でしかなく。
 はぁ、と息を吐き「鞘がねぇんだよ、」と言葉ばかりが出ていく。

「人は皆。刀を持つのに鞘を持たないんだ、」

 そんな不浄を誰も感じないなんて。
 だから、決めた。

「…今から全員集めよう、黒服だ。集まったらとにかく葬儀。
 どっかへやった坊主共の居場所もわかってる。無礼だが明日の朝には始めたい」
「そんな、」
「それほどの無礼をしたというのをこの信士には死んでもわからせてやる。
 壮士殿、悪い。やっぱり残り全員は二人で説得しよう。親が最下位だ。あんたが全部持ってってくれ」
「せやからそこまでお前が」
「尚更だ。俺は南條朱鷺貴のままでいい、」

 壮士も光正も黙り、そして仕方ないと言わんばかりに散って行く。

 梃子てこでも動かない朱鷺貴に対し翡翠はただ側で「和尚からお師匠になりましたね」と、静かに言った。

「まぁ、ここは“わじょう”と呼んでいましたが」
「………うん、」
「わては、お茶を淹れてきましょう。暑さは少し、去りましたし」

 そう言ってただ去った翡翠の後に、朱鷺貴はただ、血塗れになったそれを眺め、数珠をじゃりじゃりするしかなかった。

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