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少しの間は会話もなく、お茶を楽しむのがこの人との時間。
いつも非常に、ゆったりしている。そこに大人の余裕を感じるのだ。
お茶を終えると、彼は徐に除菌シートの筒を持ち、促してくる。
それに従いアカリはベッドに座ってズボンと靴下を脱ぎ、跪いた笹塚に脚を差し出した。
まるでボタン式のスイッチが入ったかのようにふっと目の色を変えた彼は、足を手に取り「やっぱり綺麗だね」と感嘆する。
「そういえば気付いてくれたかな」
最初は左足が順番に…視姦にも近い。ゆっくり、丁寧に足を拭きながらそう投げ掛けてくる。
「…香水ですか?」
「前回良い匂いだって、言ってくれたから」
微かに薫る、柑橘系の匂い。あのコーヒーとも相性がいい。除菌シートの匂いもする。
「ここのシャンプー、ちょっと匂いがきつくてさ。気付いてくれるかなって、ちょっと思ったんだ」
次は右足の指、裏、踝…ふくらはぎ、太股…と、ゆっくり、ゆったりと丁寧に拭かれてゆく。
指の間まで余すことなく。
「気付きましたよ、来てすぐに」
湿った、冷たい除菌シートが、まるで自分の温度に変わってゆくのを感じる。
「そっか」
用が済んだ除菌シートをゴミ箱に捨てた笹塚は、左足の親指をぱくりと口に含んだ。
今度は生温い舌がしっぽり、ねっとりと指の間、裏、踝に這ってゆく。
「くすぐったい」
彼は「ふふ、」と笑い、つつ…とふくらはぎまで唇を這わせてくる。
毛は引っ掛かってないようだなと、むにむにと食んでいる笹塚の様子に安心した。
暫くそうしていると、笹塚の右脚が少しピクピクと震え始めた。
はぁはぁと息も上がってきているようだ。
アカリはそれに「どうぞ」と、脚をベッドに乗せ促した。
「ありがと」
嬉しそうに笹塚はベッドに乗り上げた。
今度は右足の親指から指の間、裏、踝、ふくらはぎ…とまた舐められる。
笹塚は右脚に怪我を負ってしまっている。脱げば、それは一本の真っ直ぐな跡として残っているのだ。
縦の傷なので、日常生活に支障は殆どないと言っていた。ただ、少し長く変わった体勢でいると、痙攣するのが見受けられる。
自分が怪我したからなのだろうか、毎回右脚のふくらはぎは特にねっとり執拗に時間を掛けて愛撫されるのだ。
左脚は指が這い、撫で尽くされ、筋の部分や骨の部分なんかが特にそうされる。
店のHPに乗っている写真に、脚は写していなかった。
それどころか、アカリは顔もいまいちわからないようになっているはずだ。
だが、初めて会ったときすぐに「脚を見せてくれ」と言われ、それから今に至る。
「体型を見ればそれなりに想像が出来る。でも、君は想像以上に綺麗だ」
その日そのまま風呂場で脚の毛を剃られてしまったが、それから、少なくても週に一度はこうして呼ばれるし、脚も除毛するようになったのだ。
…足というのは人体に於いて一番神経が通り敏感なのだと聞いたことがある。
それは多分、本当だ。
10分20分と舌や唇で愛撫されていると、少し焦れったく…じわじわとした情欲が沸いてくる。
太股から脚の付け根まで這われると、「笹塚さん、」と、ついつい髪を撫でてしまっていた。
見上げた彼の目は、遥かに煌々としたものに変わっている。
「どうですか…?」
ふふ、と彼は笑い、するっとネクタイを外した。
彼はそのまま手を取り舐め、耳元に顔を寄せてきては「興奮してきた」と、股間をすりすりと押し当ててくる。
アカリが笹塚のシャツを脱がそうと、ボタンに触れようとした瞬間、彼はそれも取り束ね、外したネクタイで緩く拘束してきた。
なんの意図か、初めてだ。
股間をすりすりと擦り合わせながら太股を撫でてくるのが焦れったい。
ボタンを飛ばさないようにゆっくりと、二段目のを食んで開け、意思表示をした。
「…可愛い」
そうかそうかと言うように、笹塚は太股から脇腹をすっと撫でてきて、「今度は君の番だね」と、カチャカチャ片手で器用にベルトを外し始めた。
「…笹塚さんは、」
「ん?」
「もう…いいですか?」
「うん」
「でも、」
その拘束された腕を通すように笹塚の後頭部に触れ「いま、貴方が僕の自由を握ってるんですよ、」と続ける。
「俺は君のそんな顔が好きだよ」
「僕も…、貴方が興奮してるのを見ることが、一番の快感です」
ふふふ、と笑い返した笹塚にゆっくりとシャツも下着も脱がされた。
少し出した舌まで舐め尽くすように、彼は深いキスをしてくる。
そのままふわっとペニスを握られ、急速にしごかれ息が、苦しくなった。
いま自分はこの男に弄ばれている。
「気持ちい?」「痛くない?」と囁かれるのに愛情を感じる。
この男は愛を買い、自分は愛を売っている。
相互関係のバランスは最適だ。今の瞬間は間違いなく恋人なんだと気付かせてくれる。
「…好きに弄んでください、貴方しか、出来ないから」
小首を傾げる自分はこの男にどう見えるのか。
これは嘘ではない。
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