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それから病院に着き、暫く話をさせられた。
何を答えたか、喪失感でよく頭がまわらない。一応手術をしているようだ。つまり、桜木は生きては、いる。
そんな灯を見かねてくれた千香は、動揺をしているようだが、まず、「桜木さんが助けてくれて」と、警察にそう言ってくれたことに安心はした。
「前沢さん、に、軟禁、されてて…」
自分はこうも要らないことばかりしか言えないのに。話は要領を得ない。
けれどじっくりと警察は聞いてくれて、多分、自宅に向かった捜査員もいた。
事実桜木は死にそう、いやわからない、この扉の向こうでいま死んでしまったかもしれない、そんな状況なのだから、そうなのだろう。
そうこう、朝方まで過ごしたかもしれない。
どこまで何を誰に話したのかわからなかったが手術室のランプは消え、大丈夫なのか、死んではいないかと話も途中に灯は立ち上がり、医師の元へ行けば至極淡々と「取り敢えず、大丈夫です」と告げられた。
「…生きています、か?」
「あと数分遅ければダメだったでしょう。かなりの出血で」
…本当にヤバかったんじゃんか…。
それを、あんなに、あんな態度で。
「…よかったぁ、」
千香はまた泣き始めてしまった。
それはもう支え、「そうだね、よかったね」と言ってやるしかない。
「…桜木さんは頻繁に抗凝固剤を飲んでいたようでして、ちょっと、出血のためこちらは凝固剤を投与しましたので…」
カルテを見ながら「慢性的な…というとなんか、あれですが結構な頻度で突発性難聴を患っていたんですね?」と、至って普通な態度で医者は対応してくる。
「今は腕の傷口を塞いで、輸血をしたのですが、暫くは凝固剤と…少なくてもそういう、血液さらさらのお薬は傷のためにやめることになります。
あまり問題はないというか、突発性難聴は再発しないとされているのでメニエール病とか、低音型難聴かと思いますのでそもそも低音型難聴なら抗凝固剤は使いませんからね。経過に問題もないとは思いますが、」
「…そうなんですか?」
「はい」
「…それで?」
「まだ意識はありません。数時間で起きるとは思いますが、出血多量だったので…様子は見ないとというところです。
順調に行けば一週間ほどで退院出来ると思います」
…取り敢えずの安心はしたのだが…。
「起きなかったら……?」
「大丈夫だとは思いますけど、一時的に血液が脳から減ってしまったので…未知数ではあるんですよ」
「そんな、」
「いや、大体は、大丈夫ですから。あとは、ご家族さんがいらっしゃいましたら、説明いたします」
…本当に?
ではお運びしますと、桜木は確かに寝たまま病室に運ばれていった。
血色が良いのか悪いのかはわからなかった、ただ、白い。
警察はそんな様子を見て、「また、明日伺いますから。お送りします」と言ってきたのだが。
「いや、いいです…」
千香も立ち尽くしていたので少し笑い、「千香さんは桜木さんの家に帰りな」と言う。
「疲れてるでしょ」
「灯ちゃんだって冷えピタ」
「あぁ、そうだった」
忘れていた。
外したが、正直もう追い付かない、頭を冷やしたい、「話し掛けるな」と言いたくて、ただただ肩を落として動く気がなかった。
「気持ちはわかりますが、ご家族さんが来ないと」
「待ってます」
どうしようかと、相手が困っているのはわかる。だがもう余裕がなかった。
でも、すぐだった。
「桜木さん、目を覚ましましたよ!」 とナースから声が掛かる。
「…え、」
それを聞いて灯はまず、信じられない気持ちですぐに駆け付けた。
千香も、行き場をなくした警察も着いてくる。
まるで飛び付くように灯はベッドの側に寄った。
薄目を開けた桜木はすぐにぱっちりと目を開け「あぁ、ともり…」とぼやけて言った。
「まさかこんなに早く…」と立ち尽くしたナースを差し置き「このバカ野郎っ!」と、色々な感情をまずは一言でぶつけた。
「桜木さん、」
「…だからダイジョブだって」
桜木はふと顔をしかめ、指を差し「左、」と言う。
それに従い灯がそちらに移動すれば「顔、」と言うので「何、」と耳を寄せた。
「…起きなきゃなと、思って、」
「…はぁ、」
「灯、」
そして顔をぐいっと引き寄せられ、頬と言うより輪郭辺りを舐められた。
まわりに見えたかはわからないが一同は黙っていた。
桜木を見ると痛そうに笑い「やっと泣いたな」と言った。
「泣くな、ごめん」
桜木はついつい包帯の巻かれた右手を動かしてしまったらしい、「あれ、」と言ってから仕方なし、とばかりに今度はハッキリ頬から目尻を舐めてきた。
「…あったけぇ、」
こっちは、
「…冷たくて気持ちいいわ、この……、」
言う前にぐいっと首を抱き締められた。ちょっと体勢辛い。
「…桜木さん、」と千香が言うのに、
「ごめん、そっち側いまいち聞こえが悪くて…何?」
そう答えた。
はぁ、と息をした桜木の襟あたりをくしゃっと掴む。
「雨、どう?もう止んだ?」
心臓の音がした。ただそれだけで、そうか、と気持ちが脈を打ち、灯は顔をあげ「舌、」と桜木に命じた。
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