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言うわりには、特にそのままだ。まぁ多分、「後ろから耳元で話し掛けないで!」と言うのはわかっているのだろうけど。
「なんで?」
「……すっごいドキドキするから」
「いーじゃん、じゃあ」
「違うんだよ全く!」
一回殴ってやろうかと思えば、「なぁ、」と、暖かくて、優しく…耳元がこそばゆい。
「……もぅ!」
「理想の死に方ってある?」
急になんだと、顔を見合わせてしまった。
少し、時が流れる。
「……テクノブレイク」
「ははっ、やっぱバカだなお前、最高じゃん」
ぎゅっと桜木に強く抱き締められたとき、玄関が開いてしまった。
「ただいまー」と千香の声がし、抱擁が緩くなった。
「コロッケ買ってきたよー。
あれ?イチャイチャ中だね?」
桜木が即起き上がり「我が儘言うから襲いそうだっただけー」と軽口を叩いていた。
「あ、買ってきたんだ」
「てゆうか、余ったみたいで…」
「あーあ残念、料理研究の機会が一回減っちゃったね。でも良い気がする、そりゃぁ千香ちゃんコロッケすっげぇ食いたかったけどそんくらいちゃんと出来てんもんね」
「ごめんごめん。今度ね」
「うんOK。
俺はいまブリ大根作ってる」
「え!凄いねどうやって作るの!?難しそう!」
「わかんね。サイト見ながらだわ」
二人で台所に立ち始める。
いいなぁ、なんか……。
羨望で見ていると「あのさ」と千香が桜木に切り出した。
「1階、借りることにしたよ、渉くん」
灯もついつい起き上がる。
「お?あそう。よかったじゃん」
「うん。
でね、50万はだから…30万くらいまず返すね」
「え、いいのに。取っときなよ」
「うーん、でもどのみち返させて?いい?」
桜木は考えたのち、「いや、いい」とハッキリ言った。
「使った金ってぶっちゃけ覚えてないし。いーから。俺は別にそういうんじゃねーよ全然。勘違いすんな、でもたまにコロッケくれ」
「…だって」
「千香さん」
いつ出て行こうかと思ったが、今だなと灯はまた台所に行き「…無理とか、遠慮とかなら違うからね」と言ってみるけど。
「違うよ?灯ちゃん。
まぁ、ちょっと自分で頑張りたいなって思ったの。やりたいこと」
「…うん」
「だから、じゃあ、お金が入った封筒がポストに入ってても文句言わないでよねっ!」
…逞しい。
自分が身構えていたよりも、彼女は強く美しかったようだ。
桜木はわざとらしく手を上げ「わかったわかった観念、負けたよ千香ちゃん。ごめん」と灯を見てきた。
「やりたいことがあるのは良いことだわ。よかったね」
「あ!じゃあ隙あり!」
そう言って千香はパッと桜木に抱きつき「ありがとう桜木さん!」とニコニコしていた。
珍しく、あの桜木が硬直し「は?」と戸惑った。
すぐに千香は離れ、「ごめんね灯ちゃん!」と、やっぱり笑顔だった。
「…なんだぁ、ビビるわ」
「ははは!」
「うーん、どーしよっか灯。俺千香ちゃんに取られちゃうかも」
流石にズレすぎて笑えてきた。
それに二人はキョトンとするのだから、やっぱり笑えてくる。
「ダメ〜」
千香は間を置いて「あはは!」と笑ってくれたが、桜木がどうやら取り残されたらしかった。
「千香さんには俺とかソレとかよりもっと、遥かにいい人いるから。その人は俺が処理します」
なるほど。
でも。
思わず桜木が俯いたのも笑いそうで「でしょ?渉くん」と、珍しくからかってみた。
ただ、次は灯が千香を抱き締める。
「…辛くなったらいっぱい話して、帰ってきてもいいから。もっと笑っててね、千香さん」
俺には出来ないから。
「…灯ちゃんもね、絶対だよ、」
「うん」
離れて、桜木を見てやった。
桜木は俯きながら眉間を揉んでいる。その見えない表情は、頭が痛いのかそれとも血行がいいのか、低気圧か高気圧か…照れているのかと、考えた。
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