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紫式部の、2000円札だった。
「あ、」
「あ、すみません、嫌でしたか?丁度あったので、凄いなぁと」
「ん?」
「レアなんですよね?確か、それって」
「え、うん…」
「僕は結構、好きなんですよ。ギザ10とかも」
ぽけーっとしそう…。
彼はケータイを取り出し「もしもしアカリです。お客様と合流しました」と短く電話をしていた。
…ふわふわ、不思議な子…。
あれ、というか。
「1,000円多く貰ってるよ?」
「あぁ、えっと…」
彼は自然な動作で自分の隣に座り、「店長から聞きましたし、」とスポーツバッグをちらりと眺めた。
「初めてということでしたが…使わないのかもしれないなって」
「ん?」
「あれ?やっぱり説明はされていませんか?オプション。所謂玩具達です、これ」
が……。
「あっ、そーなのっ!?」
「はい」
「なるほど…」
「…あ、ご納得なんでしょうか、余計なことをしてしまったかな?
店長から聞いたの…僕、よく把握出来なかったんです、すみません。直接お聞きしなければなと思ったのですが」
「あ、えっと、多分合ってます。お…、僕もちょっと上手く伝えられなくて、多分」
「…なるほど。
ちなみに、えっと、すみません、差し出がましいことを聞きますが…奥さんがいらっしゃいますかね?」
「へ!?」
彼は手元を見ている。
「あ、すみませんそうじゃなくて。つまりゲイ界隈が初めてなのかなと」
「あ、はい」
「あはは、なんだか僕から言うのも変なんですが、どうぞ話しやすいようにしてください。緊張しますよね。
一応きっと、辻元さんがタチ希望だったんで僕だったのかなとは思うのですが」
「あ!」
その単語、多分電話で聞いた!
「もし僕の認識違いであれば、確かにその…物によって使うこともありますし。一応僕も初めての方の開発ノウハウはありますから、ご心配は」
「か、開発ぅっ!?」
ついつい驚いてしまったが「あ、違う感じなんですね」と、アカリは至って爽やかに流してくれた。
「あ、えっと……実は」
「あ、はい、どうぞ、したいことなど」
「…オナニー見たくて」
間が生まれた。
言った瞬間に自分でもわかった、そうだ社長からはっ飛ばしてると言われたのは事実だったなと。
「…え?」
「あ、いや、すみません実はその……い、色々あって、そういえば同姓のオナニーって見たことないな、どう、こう…参考にすれば良いんだって、最近枯れてるし」
喋っていくうちに墓穴を掘っている気がする。
あれ、本当に何を言っているんだこれは。童貞か俺は。
いや、まぁ初か、初だな。これってサービス間違ってる気が「なるほどですね」……。
「確かに、自慰物AVって休憩で見る人、いますもんね、結構。でも大体は異性ですもんね、なるほどです。
沢山お話もしたいのですが、試しにお風呂に入りましょうか」
試しに…?
「あ…」
「いやぁ、なんとなくわからないようでわかりましたので。それで無理なら帰りますよ。少しお返しもします」
「え、」
なるほど…。
え、いいのか?それ。
「い、いいの!?」
「はい。まぁ、喜んでいただけるのが一番なので」
「はっ……!」
…観世音菩薩だぁ!
「…きっと、真面目な方なんですね、辻元さん。大丈夫ですよ、僕も元来ヘテロなので」
え、ナニソレ。
テロ?
ポカンとしている間に「上着掛けますね」やらなんやらあれよこれよと、気付けば観世音菩薩に風呂まで連れて行かれていた。
もちろん全裸で。
観世音菩薩、アカリの裸体は驚くほど…繊細で神々しく見えた。色白でキメ細やか…確かに男子だがちょっとそれとも離れているような。
ペニスがあるのがより、浮世離れで観世音菩薩感を生む。
どうやって何を食ってどんな生活習慣を送った精子と卵子がこの造形を作るのか。やっぱり…あれ、神様の子なんだっけ、竹の中から産まれるんだっけ?
菩薩は(ここまでくると罰当たりにも菩薩なんてものは実はブスだよなと思うほどにアカリが美しい)何にしてもとても丁寧でソフトタッチに身体を洗ってくれた。
俺はなんて罰当たりな野郎だと、「あ、洗いましょうか」なんて、やはり喋れば喋るほど墓穴しか掘らない自分にホンット不能で使えねぇと劣等感まで生まれそう。
密着度合いは高かった。「あ、ドキドキしてる」とバレてしまうくらいに。
「あ、よかったです。微妙に良い感じですかね辻元さん」
菩薩は全てを見透かしている。
そうだ、「なんならイケるかもしれん」とビールも今更微妙に手伝ってきたらしい、血圧だけは上がってきているように感じた。
良い歳してヤバイ。でも正直これだけでも充分満足なのではないか、とすら思い始めた頃。
少し肌が紅くなってきて気付く、アカリの背中と腹、右側には、薄らと切り傷のようなケロイドがあった。
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