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皆、自分を最強だと思っていないとこうして食われていってしまう、そんな世界だ。
ある意味、ファンの「崇拝心」はだから必要になってくる。
それに応えるというのも追加され、負荷にもなる。その時点で再起不能になったやつも見たことがある。
しかし崇拝は妄想だ、いくらでも膨れ上がる。だから最終的に長くやれるところというのは「揺るぎない安定」だったりして。
今のウチらじゃどこにも達していないし、達せないだろう。
「…バンド潰すくらいならまだ良いけど、あんたそんなんじゃやってけなくない?」
「まぁ確かに……」
ふと、ノリトさんが「この子借りていい?」と聞いてきた。
「え、あぁ、」と言っているうちにノリトさんは学を膝に座らせ、シンバルを押えながら「これならどーかなぁ?」と少し叩いた。
ふと見上げた学にノリトさんはニコッと笑い「シャイだねー君は」と言った。
大丈夫そうだ…凄い。
「さっき、ダメだったのに…」
「ん?あぁいや、大きい音がダメならこうかなってちょっと思っただけ。そうか、良かったな。
えっと、この子は…」
言葉を濁した。
「…学です。シャイというより…」
「なるほど。ホントにでんにじ良いかも、俺たちより」
…そうなのか。
ノリトさんが学を遊ばせているうちにふらっと、廊下が見えた。
やっぱり、どこかで見覚えがある集団が見えたので「あ」と漏らせば「んー?来た来たー?」と、曽根原さんが扉を開けた。
「よーこそでんにじのみんなー!」
まるでアイドルかよという曽根原さんの対応に、「うっす」だとか「どうも」だとか、その集団はやってくる。
まず入って即「わ〜ノリトさんのお子さん?」と、斜め前髪の兄ちゃんが言った、確かコレがエルグラの元サイドギターだ。
「いや違うー。久しぶり〜」とノリトさんが言うなか、長身金髪が「わー久しぶりっす〜」と挨拶をしている。
女顔ボーカルも「曽根原さん、どもっす、」と吃って挨拶、猫背男がSMベースに「よー女王様」と。
正直、めちゃくちゃ仲良さげだった。
「えっと、こちらの二人は?」
猫背がふと振って来たので、食われそうだった空気に「あ、crashの…」と、名乗ろうとすると余計食われそうなほど…なんだか恥ずかしかった。
恥ずかしいと思うなんて。
「あー、今度対バンすんの。crashの山里山里くんと[#ruby=鯉口_#]さん。ちょっと悩みあって」
「そゆのって、解散っすよね?」
明け透けに女顔が聞いてきた。
…なんだこいつ、社会不適合者感すげぇんだけど思ったが、「まさしくっす」とシンジがへつらった。
マジかよお前。まぁわかってたけど。
「まー全然違う用事で呼んだんだけどねー」
「あ、いやまぁ俺らもちゃんと話してなかったんで…」
こっちをちらっとみるシンジに「勝手にすれば」という態度であたしはそっぽ向く。
自然、皆その場に座り込みわいわいと、シンジは詳細やら、自分の悩みやらを含めて話し始めた。
「んー、なるほどね」
「子供かぁ、それで呼ばれました?もしかして」
「そーそー。ナトリンの奥さんと娘ちゃんよく来るじゃん?」
そうなんだ。
それって子供の鼓膜は大丈夫なのかと思いきや、「見ます?」と、でんにじの金髪がスマホを真ん中に置いた。
確かに、学よりも大きそうな、栗色の髪をした可愛らしい女の子が、ドラムセットに座っている。
金髪が真ん中の再生ボタンを押すと、めちゃくちゃ上手にドラムを叩いていて、思わずそこかしこから「すげぇ」と沸いた。
学もそれを凄く興味深そうに眺めていて、それを察したのか「ほれ」と、でんにじドラムは学にスマホを預けていた。
「凄いな娘ちゃん!」
「あーまぁ、ウチドラムセット、あの電子のやつ。あれあるんすよ。
で、俺は家で叩いてたんで娘も最初から大丈夫だったんすよね」
「……これ、初めてスタジオとか、ライブとか行った時は…どうだったの…ですか?」
一応先輩じゃんと思ったら、変な日本語になってしまった。
「あーどうだったんだろ。でもそもそもウチの娘、最初は楽屋で聴いてたかも。まだマシっしょ、音。
まぁそれでもでけぇっちゃでけぇから、どーしてたんだろーな。
あと、面倒の一切とかは、こいつにね、娘べったりだったから、今は断じて違うけど」
ドラムが女顔ボーカルを見ると「いや仲良いじゃん」とブスくれる。
「ウチはそんな感じだったけど…」
「完全にメンバーの理解だからねぇ、こういうのって。俺たちはもう、幼馴染みがここまで来たから、てのはあったよね」
見た目はちょっと怖そうというか…人とか殺しそうな切れ長の目をしている猫背が、非常にゆったり、聞き取りやすい低音で優しそうに喋ったギャップにビビった。
人は見かけによらない。
ずっとキラキラ、好奇心のような目で何度も画像を再生している学に「声も…」と、死にそうな声で女顔が喋った。
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