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 めちゃめちゃ客席が盛り上がっているのも聞こえてくる。
 ウチらにはこんなに…前座でこんな盛り上がりなんて、なかったな。

 正直かなり見直した。

 しかし、その盛り上がりとは逆を行くように、恐ろしく静かな…場がピーンと張るような演奏が始まって。

 え、何この、逆に破天荒と、グラシアのメンバー誰かに言おうとしたが、最早完全にライブスイッチが入っているらしい。マジで誰も何も言わず聴き入っている。

 お陰で天崎のファルセットが…とても悲しく聞こえてきた。

ただホント 誤魔化して
シンプルに つまんないねぇ

 どうやら初めて天崎の日本語が聞き取れた。
 めちゃくちゃ綺麗なリズムライン、さっき、高校生でと言ったか。
 確かに、素人が作りそうなシンプルな音に、逆にめちゃくちゃ凄いなと…ちょっと心に染みた。

 学がちょんちょんしてくる。
 見ると学はなんだか凄くキラキラ…泣きそうな目であたしを見ていた。
 それによしよしをして二人で聴く。

 天崎の高校時代、もしかすると苦しかったのかなと、なんとなく思ったところで曲が終わり、拍手が鳴った。

 入れ換えで「めっちゃ良かったわあまちゃん、泣くかと思った」と言い残し、グラシアメンバーはステージに立ち、楽器を調整し始めていた。

 学は真っ先に天崎の足元に行き、ぎゅっと抱き締めていた。

 「わっは、マナブ、かーいーなぁ、聴いてくれたん?ありがとー」としゃがんで学をハグし、「よしよし」と撫でている。

「んで、君はどうだった?」

 ふと、殺し屋の目をした栗村なんとかにそう聞かれ、若干ビクッとした。
 え、何、さっきまでの音の感じと、雰囲気が全然違くてビビるんですけど。

 ナトリン…?がダルそうに「あー悪いねそいつ無愛想だけど」そしてギターが「殺し屋じゃないから、安心して」とフォローを入れてきた。

「…いやまぁ、よかったっす」
「あそう?」

 なんだかそれで満足したようで「はー俺も客席行こーかな」と、殺し屋は猫背なのに伸びをしていた。

「あ、グラシア、カホンでやるのあるっぽいけど、あんたも客席行ったら?なんかお宅のドラムの人も来てたよ」
「あ、カホン使うんだ。
 でもまぁやっぱちょっと違うし、ここいる」

 学を抱き上げた天崎はいかにも客席へ連れていきそうだったが「一応置いてって」と注意しといた。

「え?マジ?」
「マジ。大丈夫そうなら連れてくから」

 あっそ〜、と言ってでんにじ達は楽器をちゃっちゃと運び出し、楽屋から出て行く。

 学はすっぽりあたしの足の間にはまり、ぎゅっと掴んで羽交い締めみたいにしてきたので「なんか怖い?」と聞いてみたが、ふるふる首を振りこっちを見上げて、「こいちゃん」と口を動かした。

「ん」

 ニコッと……笑い、多分「楽しい」と言ったんだと思う。
 それになんだかぐっと来て、「うん、楽しい」と答えておいた。

「これからも楽しみ」

 学と…外の観客とでグラシアを待った。

 ちゃららん、とギターが鳴った瞬間、店内BGMが消え、そしてアップテンポな演奏が始まった。

「…すっげ、」

 それだけで充分凄かった。
 あと正直、「すげぇすげぇ」の連発で、逆に覚えていない。

 ふと、ある日美智佳が「凄いねこいちゃん!」と、家で初めてギターを弾いて見せた日を思い出した。

「え、いや…まだ、全然弾けない…」
「爪、割れてる」
「うん…そう、」
「楽しい?」

 そう聞かれたときあたしは迷わず答えた、「うん、楽しいよ」と。

「カッコいいね〜こいちゃん!」

 いいなぁ趣味があって、と美智佳は言った。
 そう、それほど特別な意味があって言ったわけじゃないのもわかってる。

 けど、そう。

 あのとき何が嬉しかったか。
 自分が好きになった、夢中になれそうなものをそうやって伝えることが出来たことが、何より凄く嬉しかったんだ。

「…楽しそ………」

 素直にそう、感想がポロっと降ってきた。
 最近そうだ、学がいるし、こうして一人で呟くことが増えたな。

 言葉が出てくればぐっと、あぁ、本当に楽しそうで良い音だ、ああ、凄く良いだなんて、思いが溢れそうになっていって。

 この人はどんなだろう、自分はどんなだろうと考えるこの、狭い空間。

 これが今なんだ、間違いなく。
 今、この瞬間が熱いんだと頭に言葉が浮かべば…何故か凄く、泣きそうにもなってきた。

 あたし、こんなに泣くような、感受性あるやつじゃなかったけどなぁ…。
 美智佳か…いや、学のせいなんだろうか。

 その熱さのまま何曲か流れ、ふと、曽根原さんのMCが聞こえた。
 お決まりのやつだったが、

「毎回言ってる気がするんですが、僕の友人が亡くなったとき作ったやつで」

 そんな一言にぐさっと刺さった。

 静かに曲が流れ始める。
 サイドギターも鳴らさないような、そんな曲。

きっと今楽しい きっとそこは楽しい
俺はずっと ここで息をするよ
ずっと 新しい息で声を枯らすんだ

 …かなりぐっときてしまった。

 きっとセトリは前から決まっていた、だから特別にあたしに意味がある訳じゃない。
 けど、たまにこうしてリンクして…そっと側にいてくれるバンド、音。

 そうだな…あたし始めは、それになりたかったような気がする。そう。

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